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    TF主ルチ。もしも魔法が使えたら、TF主くんは何を願うかという話です。少しシリアスです。

    ##TF主ルチ

    もしも魔法が使えたら つけっぱなしのテレビから、賑やかな声が聞こえてきた。夕方のニュースが終わり、ゴールデンタイムのバラエティ番組が始まったのだ。甲高い声が気になって視線を向けると、知らないアイドルの女の子がしゃべっていた。今日はいつものレギュラー番組ではなく、二時間構成の特番を放送するらしい。
     テレビの中の女の子は、特徴的な声をしていた。平均的な女の子よりも声が高くて、細く刺さるような喋り方をしているのだ。言葉を捲し立てる姿は、ルチアーノに負けず劣らずキンキンしている。珍しい人ものだ思いながら、ぼんやりと画面を眺めていた。
     ソファの前に立つ僕を見て、ルチアーノは怪訝そうな顔をした。目を細めて僕を一瞥すると、呆れたように言葉を吐く。
    「どうしたんだよ。そんな間抜け面して」
    「間抜け面はしてないよ。ちょっと気になったから、テレビを見てたんだ」
     少し言葉をぼかしながら、僕はルチアーノに言葉を返した。素直に答えなかったのは、彼が嫌がると思ったからだ。自分が中性的な身体を持っていることを、彼は何よりも気にしている。女の子に似ているなんて言ったら、確実に機嫌を損ねるだろう。
    「間抜け面だろ。口なんか半開きになってるし、頬も緩んでるぜ」
     にやにやと軽口を叩きながら、ルチアーノはソファに腰を下ろす。彼の隣に座りながら、僕は胸を撫で下ろしていた。素直にアイドルが気になると言っていたら、僕はどんな目に遭わされていたか分からない。自分の危機管理能力に、我ながら感心した。
    「それにしても、君がこんなものに興味を示すとはね。『もしも魔法が使えたら』なんて、夢見がちにもほどがあるんじゃないか?」
     にやにやと笑みを浮かべながら、ルチアーノはテレビに視線を向ける。テレビ番組が特集していたのは、人々の考える『もしも』についてだった。『もしも一億円が当選したら』や、『もしも魔法が使えたら』というような、人間の想像するもしもについて、町行く人々にインタビューをしているのだ。スタジオではそのVTRを見て、人々が想像した『もしも』について話をしている。解答も人それぞれで、空を飛ぶことや動物との会話を望む微笑ましいものから、家から会社までワープしたり家具に家事をやらせたりという生々しいものまであった。
    「ルチアーノは、魔法って信じる?」
     画面の向こうの会話を眺めながら、僕はルチアーノに尋ねた。彼と一緒に暮らしてからしばらく経つが、このような話をしたことはなかった気がする。どのような反応が返ってくるのか、少し興味があった。
    「魔法? そんな非科学的なもの、この世界にあるわけないだろ。物理法則に逆らうことはできないんだよ」
     テレビ画面を眺めながら、ルチアーノは退屈そうに返事をする。予想通り答えではあったが、なんだか納得できなかった。魔法のような力を持つ彼がそんなことを言っても、少しも説得力がなかったのだ。
    「僕からしたら、ルチアーノの能力も魔法みたいだけどね。ワープや認識阻害なんて、普通の人間にはできないんだよ」
     僕が言うと、ルチアーノは呆れたようにため息をついた。分かってないとでも言いたげに、ちらりと僕に視線を向ける。
    「何言ってるんだよ。時空の移動は、どこからどう見ても科学的だろ」
     どう見ても魔法だと思ったけど、それ以上は何も言えなかった。遠い未来の技術では、ワープもタイムスリップも科学の領域になるのだろう。にわかには信じがたいが、ルチアーノがそれを証明している。
     何も答えずにいると、不意にルチアーノが視線を向けてきた。にやりと口角を上げると、からかうような声色で言う。
    「なあ、君はどうなんだよ。もしも魔法を使えたら、何を願うんだ?」
    「え? そうだなぁ……」
     急に話を振られ、僕は考え込んでしまった。自分が魔法を使えたらなんて、考えたこともなかったのだ。空を飛ぶようなオーソドックスな魔法も魅力的だし、ものを自発的に動かす魔法も、生活を便利にはしてくれるだろう。でも、質問の答えとして上げるには、それはあまりにも面白味がない。
     しばらく唸り声を上げてから、僕は、ようやくひとつの解答に辿り着いた。魔法の範囲に入るのかは分からないが、僕の考え付く一番の正解は、これしかないと思ったのだ。ルチアーノに視線を返すと、はっきりとした声で言う。
    「魔法が使えたら、僕は不老不死になりたいな。そうしたら、ルチアーノとずっと一緒にいられるでしょ」
     そう言うと、彼は驚いたように口を開けた。真っ直ぐに僕を見つめると、寂しげな表情で下を向く。心配しながら覗き込むと、彼は小さな声で言った。
    「不老不死なんてものを、そんな簡単に願うなよ」
    「えっ?」
     予想もしていなかった態度に、僕は呆然としてしまった。一緒にいたいと言ったら、彼は喜んでくれるか、照れてそっぽを向くと思ったのだ。こんなに悲しそうな顔をするなんて、思っても見なかった。
    「不老不死は、そんなにいいもんじゃないぜ。わざわざ願うなんて馬鹿らしい」
     そんな僕に言い聞かせるように、ルチアーノは淡々と言葉を吐く。その言葉の中には、彼が抱えてきた悲しみが凝縮されているような気がした。不老不死の当事者には、不老不死として生きていく上での苦しみがあるのだろう。軽率に願った自分のことが、恥ずかしくて仕方なくなった。
    「ごめん」
     小さな声で答えると、僕はテレビに視線を戻した。ルチアーノは黙って席を立つと、静かにリビングから出ていってしまう。テレビは賑やかな声を発しているのに、僕の気持ちは重苦しいままだ。彼が戻ってきたらどのように謝ろうかと、僕は頭の隅で考えた。
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