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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。お子様ランチを食べたいTF主くんと、それを見ているルチの話です。

    ##TF主ルチ

    お子様ランチ デュエルが終わると、僕は木陰に座り込んだ。身体がずっしりと重くて、額から汗が流れ落ちる。スポーツドリンクのペットボトルを手に取ると、一気に喉の奥へと流し込んだ。
    「何へばってるんだよ。だらしないなあ」
     僕の隣に腰を下ろしながら、ルチアーノが甲高い声で言う。へとへとな僕に対して、彼は余裕の表情だった。僕の手からスポーツドリンクを奪い取ると、喉を鳴らして残りを飲み干す。どう見ても間接キスなのだが、僕には突っ込む気力がなかった。
    「ちょっと疲れちゃった。お腹も空いたし、どこかでご飯を食べようよ」
     顔を伝う汗を拭きながら、僕はルチアーノに声をかける。空になったペットボトルを押し付けながら、彼は呆れたような声で言った。
    「また飯の話かよ。全く、君は本当に食べるのが好きだな」
    「違うよ。もうお昼なんだから、お腹だって空くでしょ! 健全な生理現象だよ!」
     失礼な物言いに、ついつい声を荒げてしまう。ルチアーノは僕がご飯の話ばかりしているような物言いをしているが、今の時刻は午後の一時なのである。今日は朝からデュエルばかりしていたし、お腹が空いて当然だった。
    「人間ってやつは、コスパの悪い生き物だよな。一日に三食も食わなきゃならないなんてさ。僕たちは、モーメントエネルギーだけで十分なのに」
     くすくすと笑い声を上げながら、ルチアーノは僕を茶化す。確かに、機械である彼と比べたら、僕は燃費の悪い生き物なのだろう。とはいえ、世界には一日中食べてる動物もいるから、人間が特別大飯食らいというわけではないはずだ。
    「とりあえず、次のデュエルまでに少し休憩しようよ。飲み物もなくなっちゃったから、どこかで買わないといけないし」
     ペットボトルを鞄にしまうと、僕は静かに席を立った。これ以上からかわれるのも嫌だし、早めに移動することにする。新しい刺激を与えれば、ルチアーノもおとなしくなるだろう。
     まだあまり見慣れない町並みを眺めながら、僕は飲食店を探した。僕たちが歩いているのは、旧サテライトエリアの中心部だったのだ。マーサハウスに遊びに来ることはあっても、町に遊びに来ることはほとんどない。僕にとっては、まだ慣れない場所だったのだ。
     かつてはスラム同然だったというこの地域も、今ではかなり栄えている。中心部の繁華街には、シティで有名な飲食店もいくつか出店されていた。ルチアーノもこの辺は珍しいのか、チラチラと周囲に視線を向けている。
    「ふーん。サテライトも、大分栄えてきたんだな。一年前までは、瓦礫と廃墟のスラムって感じだったのにさ」
     彼が呟く内容は、僕の知らない話だった。僕がこの町に引っ越してきたのは、シティとサテライトが統合されてからなのだ。かつての悲惨なサテライトのことなど、僕には少しも想像がつかない。
    「せっかくだから、シティには無いお店に行こうよ。ルチアーノも、旧サテライトエリアは気になるでしょ」
     強引に話を終わらせるように、僕はルチアーノの腕を引いた。これ以上サテライトの話を聞いていたら、気分が凹んでしまいそうだったのだ。かつてのシティとサテライトは、明確な階級意識によって分断されていた。その時に受けた差別の痛みを、サテライトの住人は忘れていないのだ。
     駆け足で前に出ると、小さなカフェが視界に入った。シティで見かけるチェーン店ではない、個人経営のお店である。ちょうどいい機会だから、ここに入ることにする。
    「ねえ、あのお店に行こうよ」
     声をかけながら、後ろも振り向かずに手を引っ張る。ぶつぶつと文句を言いながらも、ルチアーノもおとなしくついてきてくれた。
    「なんだよ。急に走り出したりしてさ」
     カフェの扉を開けると、カランカランと鈴のなる音がする。室内の装飾も、シックで落ち着いた雰囲気だった。ロングスカートにエプロンを纏った女性が、静かに僕たちを案内する。お昼時だというのに、店内の人影はまばらだった。
    「なんか、人の少ない店だな。本当に大丈夫なのか?」
     椅子に腰を下ろすと、ルチアーノは小さな声で僕に囁く。直球な発言に、僕はドキッとさせられてしまった。ルチアーノに顔を近づけると、諭すような口調で嗜める。
    「そういうこと言っちゃダメだよ」
     机の隅には、手作り感満載のメニューが置かれていた。防水加工されたバインダーに、商品の名前と写真を印刷したコピー用紙が挟まれている。大きく映っている写真は、具材のたくさん乗ったパスタだった。少しお値段は張っているが、美味しそうなメニューである。
     パラパラとページをめくりながら、僕は全てのメニューを見ていった。パスタのページの後には、パンケーキのページが並んでいる。その後に続くのは、色とりどりのピザたちだ。手広く取り扱っているようで、その次にはカレーまで載っている。
    「僕は、カルボナーラにしようかな。ルチアーノは?」
    「シーフードカレー」
     メニューを渡しながら訪ねると、彼は即答で返してくる。僕が見ていた一瞬の間に、ページを見てメニューを決めたのだろう。ルチアーノの瞳は機械のカメラだから、一瞬のうちにメニューを読めるのだ。
    「分かったよ。じゃあ、それで注文するね」
     期間限定メニューのラミネートを戻そうとして、僕は一瞬動きを止めた。奥に残されていたひとつのメニューが、僕の心を奪ったのだ。見慣れた形状でありながらも、嘰決して見慣れてはいないそのメニューに、僕の視線は釘付けになった。
     そのメニューはバイキングで使うようなプレートを使っていた。一番大きなスペースにカレーをよそっていて、ご飯は半円状に整形されている。上にはハンバーグと、つまようじと紙で作った旗がのせられていた。左上のスペースに乗っているのは、唐揚げやポテトサラダやウインナーだ。右上に乗っているのは、果物屋ゼリーというデザートだった。
     そう。写真に映っていたのは、お子様ランチだったのだ。それもただのお子様ランチではない。子供の夢を詰めたような、豪華なお子様ランチだ。カレーと唐揚げとハンバーグとウインナーの組み合わせなど、なかなか食べられるものではない。大人である僕だって、その光景にときめきを感じてしまう。
     急に動きを止めた僕を見て、ルチアーノが身体を動かした。僕の視線の先を捉えると、からかうような声色で笑う。
    「なあ君、もしかして、お子様ランチを食べたいのか?」
     正面から図星を突かれて、僕は動揺してしまう。慌てて視線を逸らすと、ぎこちない手付きでメニューを立て掛けた。
    「そんなことないよ。ただ、視界に入ったから見てただけで」
     やんわりと否定するが、ルチアーノは見逃してくれない。からかいどころを見つけたと言わんばかりににやにやと笑うと、上半身を伸ばしてメニューを取った。
    「言い訳するなよ。これが食べたいんだろ。僕が代わりに頼んでやろうか?」
     写真の載っているページを開くと、にやにやと笑いながら目の前に差し出す。手の動きに気を取られて、言葉の意味が咀嚼できなかった。
    「えっ?」
     聞き返すと、ルチアーノはきひひと笑い声を上げる。お子様ランチの写真を指差すと、目を細めながら僕を見上げた。
    「だから、僕が頼んでやるんだよ。君は大人だから頼めないけど、僕は見た目が子供だから頼めるだろ。本当ならこんなことはしてやらないけど、今回だけは特別に許してやる」
     にやにやと笑みを浮かべながらも、ルチアーノはそんなことを語った。願ってもみない提案に、少し心が揺れ動いてしまう。普通なら頼めないものを食べられるなんて、すごく魅力的だ。
    「……本当?」
    「本当だよ。僕が嘘を吐くと思うか?」
     いつも嘘ばかり吐いているなんて、突っ込めるはずがなかった。ここで彼の機嫌を損ねたら、お子様ランチを頼んでくれなくなるかもしれない。華麗に挑発をスルーしながら、僕はルチアーノの手を取った。
    「ありがとう、ルチアーノ」
     僕の大袈裟な感謝の動作に、彼は少し引いたようである。奇妙なものを見るような視線を送ると、小さな声で呟いた。
    「なんだよ。大袈裟だな」
     頼むメニューも決まったことだし、注文を済ませることにした。店員さんを呼ぶと、注文の品を伝えていく。さすがに、お子様ランチを頼む時には、少し声が緊張してしまった。
    「シーフードカレーをひとつと、お子様ランチをひとつお願いします」
     注文を手書きでメモすると、店員さんは厨房へと戻っていく。大きく息をつく僕を、ルチアーノは楽しそうに眺めていた。注文した料理が届くまで、雑談を挟みながら時間を潰す。テーブルに手を乗せると、ルチアーノはケラケラと笑った。
    「それにしても、君がお子様ランチに興味があったとはね。そういうお子様らしいことは、とっくに卒業したんだと思ってたぜ」
    「ただのお子様ランチなら、こうまでして頼んだりはしないよ。でも、ここのお子様ランチは、子供の夢が詰まってるから」
    「子供の夢とか言ってる時点で、君は子供なんだよ。大人なら、そんなに欲張ったりはしないぜ」
     そんな話をしているうちに、シーフードカレーが席へと届いた。店員さんが去ったことを確認してから、目の前に出されたお皿を引き渡す。順当に考えたら、僕がシーフードカレーだろう。
    「先に食べてていいよ」
     僕が口にするよりも先に、ルチアーノはスプーンを手に取っていた。カレーの中に突き刺すと、黙々と食べ始める。
     もう少しすると、今度はお子様ランチが運ばれてきた。カレーを食べるルチアーノの姿を見ると、気を効かせて僕の前へと置いてくれる。お礼を言って受け取ると、僕もスプーンを手に取った。
     飲食店でお子様ランチを食べるなんて、少し緊張してしまう。こういうのは小学生以下限定のメニューだから、何か言われるんじゃないかと心配だったのだ。お金を払って買う商品だし、没収こそされないだろうが、注意されるのは気分が悪い。
     ビクビクする僕を横目に、ルチアーノはカレーを口に運んでいく。平然とした態度を装っているが、口元はにやりと笑っていた。僕はこんなに緊張しているのに、彼は呑気なものだ。少し嫌な気分になるが、原因は僕にあるのだから仕方ない。
     届いたものを食べ終えると、そそくさと会計を済ませて外に出る。後ろめたいことをしていたから、あんまり長居したくなかったのだ。急いで席を立つ僕を、ルチアーノはにやにやと笑いながら見ている。お店の外に出ると、彼はくすくすと笑いながら言った。
    「それにしても、さっきの君は滑稽だったな。ずっと周りを気にしてキョロキョロしてたんだから」
    「だって、お子様ランチは子供向けのメニューでしょ。大人が頼んでたら、注意されちゃうかもしれないんだよ」
     僕が反論すると、ルチアーノはおかしそうに声を上げる。僕の方を見上げると、両目を細目ながら言葉を吐いた。
    「その思い込みが滑稽なんだよ。あのお子様ランチのメニューには、どこにも子供限定なんて書いてなかっただろ。それなのに君は、周りを気にしてそわそわしてさ」
    「えっ!?」
     衝撃的な発言に、僕は大きな声を上げてしまう。そんな僕の姿を見て、ルチアーノはさらに笑い声を上げた。お子様ランチが大人も対象のメニューだったなんて、全く気がついていなかった。店内の人々から見た僕の姿は、相当滑稽なものに見えたのだろう。
    「いつから気づいてたの? 知ってたなら教えてよ!」
     僕が詰め寄ると、ルチアーノはケラケラと笑い声を上げる。おかしくて仕方ないのか、目は細くなったまま固定されていた。さっきまでは店内にいたから、吹き出すのを堪えていたのだろう。本当に意地悪な男の子だ。
    「君がメニューを見てた時からだよ。ちゃんと横に書いてあったのに、よく見逃せるよな。おかげで面白いものが見られたぜ」
    「ルチアーノの意地悪……。教えてくれても良かったのに……」
     小さい声で言うが、彼は笑ってごまかしてしまう。これもいつものことだから、これ以上詰め寄っても仕方ないだろう。そもそも、彼は人間をおもちゃと思っている人型の兵器なのだ。人間の感性で注意しても、聞き入れてはもらえないだろう。
    「君は本当に面白いやつだよな。見てて飽きないぜ」
     黙り込む僕を見上げると、ルチアーノは楽しそうな声で言う。それが褒め言葉なのか馬鹿にしているのかは、僕には判別できなかった。
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