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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチがTF主くんの苦戦してるゲームをクリアしてくれる話です。

    ##TF主ルチ

    ゲーム 神経を集中させると、僕は震える手でボタンを押した。画面の中の主人公が、城の奥へと足を進める。ロード画面が表情されると、次に映し出されるのはボス戦の舞台だ。もう何度目になるのか分からない戦闘前シナリオを、Aボタンの連打で早送りする。
     演出が終わると、流れていたBGMが切り替わった。ボスのグラフィックが動き始め、主人公を狙った攻撃を打ち出してくる。パターンを読んで攻撃を交わすと、敵に向かって攻撃を打ち出した。何とかHPを削ると、ボスのセリフが画面に現れる。
     ここを越えてからが、僕にとっての本番だった。中盤以降のボスの攻撃は、パターンを読むのが難しいのだ。反応速度が追い付かなくて、攻撃が足元に当たってしまう。さっきまで満タンだったはずのHPは、もう半分以下になっていた。逃げていても仕方がないから、思いきって攻撃に転じることにする。
     必死にボタンを連打するが、僕の攻撃は少しも当たらない。弾が届くよりも先に、相手が動き始めてしまうのだ。僕が敵のゲージをひとつ削る頃には、僕のキャラクターはふたつ分削られてしまっている。大した抵抗もできないまま、主人公は倒されてしまった。
    「ああっ……!」
     喉から声を絞りだしながら、僕はゲーム機をソファに下ろした。画面に浮かび上がるのは、『continue?』の文字である。ここで『はい』を選択すれば、ひとつ前のセーブポイントから再開できる。でも、でも、もう一度ボスに挑む気力は、今の僕には残っていなかった。
     ゲーム機を放置したまま、僕は呆然と宙を眺める。今日はもう十分試したし、続きは明日でいいだろう。とはいえ、昨日も同じことをしているから、何一つ進んでいないのだが。
     ソファに座ってぼんやりしていると、廊下から足音が聞こえてきた。お風呂上がりのルチアーノが、僕を呼びにやって来たのだ。もう夏が近いから、半袖とハーフパンツといった軽装に身を包んでいる。僕の隣に歩み寄ると、近くにあったゲーム機に視線を向けた。
    「なんだ、これ」
     手を伸ばして持ち上げると、迷わず決定のボタンを押す。暗転していた画面が切り替わって、セーブポイントの本棚が映し出された。初めて見るゲームのはずなのに、ルチアーノは迷わずにボタンを操作する。マップ上を駆ける主人公を眺めながら、僕は隣から補足した。
    「さっきまでやってたゲームだよ。ボスが倒せなくて、ちょっと詰んでるんだ」
     僕の話を聞くと、ルチアーノはにやりと口元を歪めた。からかうような声で笑うと、細めた瞳で僕を見る。
    「ふーん、詰んでるのか。まあ、君は大抵のゲームが下手だもんな」
     すぐに画面に視線を戻すと、寄ってくる敵を薙ぎ倒す。失礼なことを言われているが、反論することはできなかった。僕は昨日からこのボスに挑んでいて、挑戦回数は十を軽々と越えていたのだ。何も言い返せないから、小さな声で唸ってみる。
    「むぅ……」
    「なんだよ、その声。かわいくねーぞ」
     ルチアーノには聞こえていたようで、弾んだ声の軽口が返ってきた。そんなやり取りをしながらも、手元ではボタンを操作している。ボスに辿り着くまでの道中も、大きなダメージは受けていない。初めて触ったとは思えないほどの、驚異的な適応力だった。
     膨れる僕を横目に、ルチアーノはボス戦に入っていった。繰り広げられるキャラクターたちの会話を、退屈そうに連打で飛ばしていく。彼はゲームにしか興味がないから、シナリオを見せられてもつまらないのだろう。ボスが動き出すと、彼は嬉しそうに身を乗り出した。
     敵から飛んでくる光の弾を、主人公は軽快にかわしていく。すぐにパターンを掴んだようで、動線に危なげなところは一切ない。背後から忍び寄って攻撃を加えると、すぐに第一段階を倒した。
     次は、僕が苦戦していた第二段階だ。光の弾の攻撃に加えて、直線のビームが飛んでくる。片方だけなら避けられても、両方をかわすとなるとなかなかに大変だ。僕には難しいパターンだったが、ルチアーノはすぐに避け始めた。
     僕が必ず被弾していた猛攻を、ルチアーノは簡単にかわしていく。背後を狙うようにボスへと近づくと、その背中に攻撃を叩き込んだ。何度か同じ動きを繰り返し、HPを一気に削る。その手つきは、初めてとは思えないほどに手慣れていた。
    「ねえ、このゲーム、どこかでやったことあるの?」
    「いや、今日が初めてだよ。よくあるパターンだから、簡単に避けられるだけだ」
     僕が尋ねると、ルチアーノは軽い調子で答える。その間も、手元の操作は少しも狂っていなかった。僕が苦戦していたことが嘘のように、あっさりと第二段階を倒してしまう。
     これで終わりなのかと思ったが、画面の中のアイコンは変化を始める。この章のボスには、第三段階が残されていたのだ。姿形を大きく変化させると、ボスは全く違う攻撃を仕掛けてくる。僕には捉えることすら難しい連撃を、ルチアーノはあっさりとかわしていた。
    「見な。よくあるパターンだよ。攻撃開始時の主人公の立ち位置によって、飛んでくる向きが変わるんだ。ここに立って攻撃を誘導すれば、光は左から飛んでくる」
     丁寧に解説を重ねながら、ルチアーノはボタンを操作する。彼の語る動きの法則というものは、僕には少しも理解できなかった。ただ、敵の攻撃が繰り出され、それをルチアーノがかわしているだけだ。データを蓄積するという機械的なシステムは、ゲームに向いているのだろう。
     僕が何も理解できないうちに、ルチアーノはボスを倒してしまった。敵が倒れるエフェクトと共に、キャラクターのセリフが表示される。そこまで画面を見届けると、ルチアーノはゲーム機を僕に差し出した。
    「ほら、終わったぜ」
    「えっと、ありがとう……」
     本体を受け取ると、続きのシナリオを読んでいく。お城のボスを倒したことで、このエピソードは終幕を迎えたようだった。次に主人公が向かうのは、船に乗った先の大きな町らしい。データがセーブされたところで、僕はゲーム機の電源を落した。
     ルチアーノは、退屈そうに隣に座っている。ゲームを終えたことで、暇潰しの道具を失ってしまったようだ。ぼんやりとテレビを見ている横顔に、迷いながらも声をかける。
    「あのさ」
    「なんだよ」
    「代わりにやってくれて、ありがとう」
    「はあ?」
     僕の言葉を聞くと、ルチアーノは大きく口を開けた。頬をほんのりと染めながら、鋭い瞳で僕を見ている。ちらりとこちらに視線を向けると、尖った声で吐き捨てた。
    「別に、君が困ってるからやったわけじゃねーよ。苦戦してる敵とやらが、どれ程強いのか確かめてただけだ。まあ、大したことなかったけどな」
     ルチアーノは気のないふりをしているが、僕にはちゃんと分かっている。彼は、僕が困っていると思って、ゲームを進めてくれたのだ。僕に途中で諦めたゲームが複数あることは、ルチアーノもよく知っている。今回はそうなることが無いようにと、気を効かせてくれたのだろう。
    「なら、今度はもっと難しいゲームをやらないとね。ルチアーノの暇潰しにならないから」
    「やめておけよ。そんなのを買ったら、君がクリアできないだろ」
     僕が軽口を叩くと、ルチアーノも同じように軽口を返してくる。そんな意味のない会話をできることが、何よりも嬉しかった。
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