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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。TF主くんが転んでつけた傷を敵襲だと勘違いして心配するルチの話です。

    ##TF主ルチ

    心配 踏み出した足の爪先が、歩道と車道を隔てる段差に触れた。身体が大きく傾いて、自力ではバランスが取れなくなる。まずいと思った時にはもう、上半身が地面に近づいていた。両手を前に出すのも間に合わずに、両肘から地面に衝突する。
     燃えるような熱が、僕の両肘に伝わってきた。繊維とアスファルトの擦れるゾリゾリとした感触が、布地越しに身体へと響く。同じ感触は膝にも伝わり、両膝を熱で焼き付けてくる。それが痛みだと認識できるまでには、一瞬の間があった。
     地面に両手をついたまま、僕はしばらく呆然とする。ようやく認識できるようになった痛みが、じわじわと身体を苛んできた。身体の様子を確かめるように、ゆっくりと地面から立ち上がる。ふと顔を上げて、自分が周囲の視線に晒されていることに気がついた。
     それは、ひとつやふたつではなかった。町行く人々の視線が、僕の真上に集まっているのだ。心配そうに見つめる人もいれば、呆れた視線を向けている人もいる。中には、僕を見てひそひそと話し合っている人もいた。
     慌てて立ち上がると、正面にいる女の人と目が合った。しばらく視線が噛み合った後に、彼女は表情を緩める。
    「大丈夫?」
    「大丈夫です!」
     即答で答えてから、僕はその場を立ち去った。恥ずかしくて、それ以上は輪の中にいられなかったのだ。町の中で盛大に転ぶなんて、恥ずかしいにも程がある。運動不足の中高年ならともかく、僕は現役のデュエリストなのだ。
     繁華街の路地に入り込むと、僕は自分の身体に視線を向けた。腕の付け根を大きく捻ると、着地による傷を確かめる。左右共に肘の布は大きく破れ、周囲に血が滲んでいる。それどころか、手首から肘にかけての全体に擦れた後があった。
     腕を見聞すると、今度は膝に視線を向ける。そこも同じように、布が破れて血が滲んでいた。こっちは膝しか擦れていないようで、他の部分は無事だった。擦れた断面がグロテスクで、思わず目を逸らしてしまう。
     こうなってしまったら、もう用事は済ませられない。幸い、急ぎの予定ではなかったから、大人しく家に帰ることにする。大通りを避けるように町を歩き、手足を庇いながら家を目指す。
     リビングには、まだ電気がついていなかった。玄関の鍵を開けて中に入ると、救急箱を持って洗面所へと向かう。破れた服を脱ぎ捨てると、傷口を水で洗い流した。
     砂利や汚れを落とす度に、痺れるような痛みが身体に伝わる。ひとつひとつ汚れを剥ぎ落としながら、僕は痛みに顔をしかめた。なんとか4ヵ所全てを洗うと、今度は消毒液を垂らしていく。
     予想通り、消毒液も傷口に染み渡った。身体を貫かれるような痛みは、ある意味ルチアーノとのデュエルよりも辛い。覚悟を決めつつ息を止めてから、四ヵ所全ての消毒を済ませた。
     絆創膏を貼り終えると、消毒箱をリビングへと戻す。腕の傷は何ヵ所かに及んでいたが、絆創膏は一番大きな傷だけに貼った。関節を塞ぐように貼ってしまったから、手足を動かすのも大変になってしまう。
     半袖半ズボンに着替え、リビングのソファに腰をかけてから、僕は大きく息をつく。たった三十分ほどの時間なのに、何時間も欠けて作業をした気分だった。ソファの上に身体を横たえると、何をするでもなく身体を休める。
     しばらくすると、部屋の隅に光の粒子が浮かび上がった。それはゆっくりと形を作り、小学生ほどの男の子の姿になる。僕を視界に捉えると、ルチアーノは血相を変えた。
    「何があった!?」
    「えっ?」
     全く状況が掴めなくて、僕は大きく口を開けてしまう。そんな僕にはお構い無しに、ルチアーノはソファの近くまで駆け寄った。僕の身体を一瞥すると、苦々しげに前を睨み付ける。緊迫感を保ったままに、こんな言葉を吐き出した。
    「誰にやられた!?」
     その言葉で、僕はようやく状況を掴めてきた。よく見ると、ルチアーノの視線は僕の手足へと向けられている。大きな絆創膏を貼り付けた、両肘と両膝だ。僕が横になっていたこともあって、傷痕だけを見たら重症患者に見えるのかもしれない。
    「違うよ。これは、そういうのじゃないんだ」
     慌てて答えるが、ルチアーノは聞く耳を持たなかった。鋭い瞳で僕を睨むと、甲高い声で捲し立てる。
    「何を隠してるんだよ。相手は、君に危害を加えたんだぞ。イリアステルに喧嘩を売ったも同然なんだ。放っておけるかよ」
     完全に勘違いされていた。ルチアーノは、僕がイリアステルに敵意を持つ相手に襲われたと思っているのだ。自分の不注意で転んだだなんて、少しも考えていないようだった。
    「違うよ。隠してるわけじゃないんだ。これは、ただ怪我をしちゃっただけで……」
    「嘘をつくなよ。そんな大怪我、そう簡単にするもんじゃないだろ。もしかして、やつを庇ってるのか?」
     ごまかしながら答えても、ルチアーノはさらに激昂するだけだ。こうなったら、恥ずかしくても事実を説明するしかない。大きく息を吸い込むと、大きな声で告げた。
    「違うよ。これは、町で思いっきり転んでついた傷なんだ。そんなに疑うなら、当時の映像を見てみてよ」
     僕の言葉を聞くと、ルチアーノは大きく目を見開いた。黙って下を向くと、しばらく動きを止める。どうやら、当時の僕の映像を再生しているらしい。頬をほんのりと赤く染めると、怒ったように顔を上げた。
    「そういうことなら先に言えよ!」
     横暴な態度だった。勝手に決めつけたのはルチアーノなのに、一方的に僕を責めるなんて。彼らしいと言えば彼らしいのかもしれないけど、巻き込まれるこっちは厄介だ。
    「だから、ずっと言ってたでしょ。襲われたわけじゃないって」
    「あんな言い方じゃ分からないだろ! 最初から転んだって言えよ!」
     ルチアーノに捲し立てられ、今度は僕か口を噤んだ。それを言われてしまったら、僕には言い返せなかったのだ。一番重要なところを隠していたのは、紛れもない僕自身だったのだから。
    「だって、恥ずかしかったから……」
     小さな声で呟くと、ルチアーノは冷たい瞳で僕を睨んだ。絶対零度の瞳に晒されて、肌が凍えそうになる。口から零れる言葉も、冷たく冷えきっていた。
    「君が変な見栄を張るから、僕が恥をかいたじゃないか」
    「だって、そんなに心配すると思わなかったんだもん。ルチアーノは、僕の身体にそこまで興味がないから」
     小さな声で呟くと、再び鋭い瞳で睨まれる。耳元に顔を近づけると、甲高い声で捲し立てた。
    「心配くらいするだろ! 君は、僕のタッグパートナーなんだから。君こそ、僕のことを甘く見てるんじゃないのかい?」
     その勢いに気圧されて、僕は思わず目を閉じた。彼がここまで怒るなんて、雨が降りそうなほどに珍しいのだ。治安維持局長官を勤めていただけあって、その迫力はなかなかである。少し顔を引きながらも、なんとか言葉を返した。
    「ごめんって。本当に、心配されると思わなかったんだよ。ルチアーノは、理由もなく僕に気をかけたりしないから」
     必死に言葉を紡ぐと、ルチアーノは驚いたように目を開けた。僕から顔を離すと、頬を赤く染めて下を向く。
    「なんだよ。理由なく心配しちゃ悪いかよ」
     その声がか細く震えていて、またもや口を開いてしまった。急な態度の変化に、何度も調子を狂わされてしまう。僕にツッコミを入れられたことが、何よりも恥ずかしかったのだろう。しおらしい態度がかわいらしい。
    「違うよ。心配してくれて嬉しかった」
     素直に答えると、彼はさらに頬を染める。その姿が愛おしくて、僕は口角を歪めた。
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