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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチの仮の姿に想いを寄せる男の子から伝言を頼まれるTF主くんの話。女装で偽名を名乗ってるルチの概念が含まれます。

    ##TF主ルチ

    相談 その家の扉を叩くと、賑やかな足音が聞こえてくる。家主であるマーサの後ろから、たくさんの子供たちがこちらを覗いているのだ。とは言え、知らない人は怖いのか、来客が誰か分かるまでは前には出てこない。そんな子供たちを代表するように、マーサが外まで出迎えてくれた。
    「よく来たね。みんな待ってたよ」
     室内に入ると、子供たちは我先にと僕を囲む。ぴったりと隣に張り付きながら、思い思いの話を捲し立てるのだ。みんな真剣に話してくれるけど、僕は聖徳太子ではないから、全員の声を聞き分けることはできない。
    「ねえねえ、今日は何して遊ぶの?」「デュエルしようよ」「ダメだよ。今日は外でドッジボールをするの!」「わたしたちとおままごとをしてもらう約束だったでしょ」
     子供たちの甲高い声は、僕を置き去りにしたまま宙を舞う。いよいよ話についていけなくなって、僕は片手で彼らを諭した。
    「全員で話しても聞こえないよ。ちゃんと聞いてあげるから、ひとりずつ話しに来てね」
     なおも賑やかな声に囲まれながら、僕は大広間へと入っていく。一番奥にあるこの部屋が、子供たちの遊び場になっているのだ。点々とおもちゃの散らばる床を、つまづかないように気を付けながら歩いていく。
     僕を取り囲む子供たちが、遊びの順番を巡ってじゃんけんを始めた。喧嘩せずに決めてくれるのは、この家の子供たちの偉いところだ。僕が子供だった頃なんて、しょっちゅう友達と喧嘩していた。懐かしさに浸りながら、最初のグループが来るのを待つ。
     どうやら、勝ったのはデュエルをしたい男の子たちらしい。デュエルディスクを装備すると、僕を家の外へと誘導する。入ってきたばかりなのに、また外に出ることになってしまった。子供との遊びとはそういうものだから、何も言わずに後に続く。
     デュエルディスクを構えると、相手の男の子もディスクを展開した。子供には少し大きい大人用のディスクを、一生懸命に支えている。そんな微笑ましい姿を眺めながら、僕は最初の手札をドローした。

     一頻り遊び終えると、マーサがお茶を持ってきてくれた。大きなお盆の上には、子供たちのためのお菓子も用意されている。椅子に座って休憩していると、一人の男の子が近づいてきた。
    「なあ、○○○」
     名前を呼び掛けられて、僕は声の主へと視線を向ける。ルチアーノと同じくらいの歳の男の子が、斜め前に立っていた。この家の子供たちの中でも、特におとなしい子供である。積極的に僕を誘うこともなければ、僕の誘いにも乗ったり乗らなかったりする子だ。
     そんな彼が、今は僕に声をかけている。普段だったら考えられないほどの、珍しい出来事だった。お茶を飲む手を止めてから、僕は彼に向かい合う。
    「どうしたの?」
     返事を返すと、彼は恥ずかしそうに下を向いた。もじもじと身体を揺らしながら、もごもごと口元を動かしている。何かを伝えたいけど、うまく口に出せないみたいだ。心の中で応援していると、ようやく言葉が飛び出してきた。
    「ナタリアは、もう来ないのか?」
     予想外の言葉に、僕は息を噴き出しそうになってしまった。間一髪のところで堪えて、目の前の男の子に視線を向ける。彼は下を向いたまま、恥ずかしそうに頬を染めていた。
     ナタリアというのは、ルチアーノの偽名のひとつである。少女の装いをする時に、彼はその名前を名乗るのだ。元々は偽装戸籍の名前らしいのだが、詳しいことは僕も知らない。そんな突飛な名前が、この男の子の口からは飛び出してきたのだ。
     確かに、ルチアーノがマーサハウスを訪れた時に、ナタリアの姿を取っていたことは何度かある。シグナーにはイリアステルの暗示が聞かないから、関係者の前では真の姿を隠していたのだ。最近は味を占めたのか、何も目的がなくても少女の装いをしていることがある。彼がナタリアのことを覚えていても、特別不思議なことではない。
    「どうしたの? 急にナタリアのことなんか聞いて」
     何とか平静を装いながら、僕は男の子に返事をする。尋ね返されたことで、彼は余計に恥ずかしくなったようだ。視線を下に固定したまま、小さな声でぼそぼそと呟く。
    「別に、何もないけど。最近ここに来ないから、どうしたのかと思って」
     絶対に何かがある態度だった。相手を意識しているのがバレバレだ。彼は、ルチアーノを女の子だと思い込んでいるのだろう。僕にとっては、とても面倒なことになってしまった。
    「ナタリアは、しばらくはここに来ないんじゃないかな。元々シティに住んでる子だし、最近は忙しいみたいだから」
     言葉を探しながら答えると、彼は不満そうに頬を膨らませた。少し顔を上げると、鋭く尖った声で語る。
    「シティのお嬢様だから、サテライトには来ないって言うのかよ」
    「違うよ。ナタリアにも、学校の課題や習い事があるんだ。そんなに頻繁には外出してられないんだよ」
     不穏な流れになった会話を、僕は慌てて軌道修正すした。彼がそんな発想に至ったのは、ネオドミノシティが抱えてきた負の遺産の影響だ。つい半年ほど前まで、シティとサテライトは身分制度によって隔たれていたのである。その因縁は完全には消えていなくて、今でも旧サテライトエリアの住人は、シティに対してコンプレックスを感じているのだ。
    「そうかよ。お嬢様ってのは大変なんだな」
     気まずそうに答えると、彼は再び視線を逸らす。まだ話し足りないのか、もじもじと身体を揺らしていた。僕もあまり深入りはしたくないから、特別突っ込むことはしない。黙ってお茶を飲んでいると、再び男の子が口を開いた。
    「あのさ」
    「どうしたの?」
     空になったグラスを起きながら、僕は淡々と返事をする。少し迷うように言い澱んでから、思いきった様子で言葉を吐いた。
    「ナタリアに、伝えておいてほしいんだ。また、マーサの家に来てくれって」
     彼にしては珍しい、直球的な言葉だった。彼のルチアーノを想う気持ちは、それほどまでに大きいのだろう。そういうことを考えている場合じゃないのに、青春の気配を感じて顔を緩めてしまう。
    「分かった。伝えておくよ。君が寂しがってるって」
     からかうように返事をすると、男の子は面白いくらいに頬を染める。慌てた様子で顔を上げると、手を動かしながら否定した。
    「違っ……! ナタリアに会いたがってるのは、オレじゃないよ。女子たちが寂しがるから、それで……」
     明らかな動揺に、再び笑みが零れてしまう。隠し事が下手なのも、思春期の男の子といった感じだ。厄介な展開になっていることも忘れて、心から少年の恋を応援してしまう。
    「そういうことにしておくよ。伝えるけど、来てくれるとは限らないからね」
    「分かってるよ」
     話を終えると、彼は部屋の隅へと去っていった。本当に、ルチアーノに関することだけが目的だったらしい。年相応の子供らしい、分かりやすい態度だった。

     家へと戻ると、僕はルチアーノに昼間の話を伝えた。マーサハウスに住む男の子の一人が、ルチアーノの仮の姿に想いを寄せているという話だ。伝えると約束してしまったからには、きちんと伝えておきたかった。
    「…………っていうことがあったんだ」
     僕が話を終えると、ルチアーノは楽しそうに笑い声を上げた。甲高い声を漏らしながら、眉を歪めて僕を見上げる。
    「そいつは、僕の変装を見て女だと信じたのかよ。やっぱり、人間の目は節穴だな」
     ルチアーノはそう言うが、僕はそうは思わなかった。女の子に変装した時のルチアーノは、どこからどう見ても女の子なのだ。普段から一緒にいる僕だって、ついついドキドキしてしまうくらいだ。
    「そんなこと言わないであげてよ。仮にも、ルチアーノのことを好きになってくれたんだから」
     男の子のためにも説得を試みるが、彼は聞く耳を持たない。退屈そうに笑みを引っ込めると、冷めた声で言葉を重ねる。
    「男から好かれても、嬉しくなんかねーよ。しかもその男は、僕の本当の姿を知らないんだろ。僕が作り出した偶像を、勝手に崇めてるだけじゃないか」
    「それもそうだけど…………。とにかく、相手はルチアーノに会いたがってるんだよ」
     興味を失い始める彼に、急いで本題を持ち出した。あの男の子は、ルチアーノに会いたくて僕を頼ってくれたのだ。約束を破るのは、僕のプライドが許さなかった。
     そんな僕の本心を読んだのか、ルチアーノは不快そうに表情を歪めた。小さく鼻を鳴らすと、尖った声で吐き捨てる。
    「そうは言うけど、君はどう思ってるんだよ。僕がその男と恋仲になったら、喜んで受け入れるのか?」
    「それは……」
     そこを突かれたら、僕には返す言葉がなかった。ルチアーノを誰かに奪われるなんて、僕には考えられないことである。彼が他人の誘いを断ると思っているから、僕は伝言係を受けたのだ。
    「嫌なんだろ。だったら、始めから引き受けて来るなよ。相手にも失礼だろ」
     黙り込む僕を見て、彼は淡々と言葉を続ける。僕を諭すような、厳しい口調だった。彼がそんな態度を見せるなんて、明日は雨でも降るのだろうか。彼にとって他の人間というものは、道端に落ちている砂利のようなものだと思っていたのに。
    「そうかも知れないけど、僕は、ルチアーノに他の人間と関わって欲しかったんだよ。告白されたり断ったりするのも、人間と関わる上での社会経験でしょ。それに、誰に告白されたとしても、ルチアーノは断ってくれると思ったから」
     弁解の言葉を並べると、ルチアーノは再び鼻を鳴らした。まだ機嫌を損ねているのか、拗ねるようにそっぽを向く。
    「なんだよ、それ。僕はてっきり、君が恋人の寝取られを望んでるのかと思ったよ」
     直球的な言葉が飛んできて、僕は大きく目を開いてしまう。つまり、この男の子は、僕の言葉に不安を感じていたのだ。僕が自分への執着心を捨てたのだと思って、焦りを感じていたのだろう。そんなことを思わせてしまったことに、漠然とした悔しさを感じた。
    「そんなこと、望んでるわけないでしょ! ルチアーノの身体に触っていいのは、この世で僕だけなんだから!」
     大きな声で叫ぶと、ルチアーノは安心したように表情を緩める。小さく息をつくと、同じくらい小さな声で呟いた。
    「それを先に言えよ。馬鹿」
     結局、僕はまた失敗してしまったのだ。興味本位で引き受けた依頼で、ルチアーノを悲しませてしまった。次は、もう少し考えてから行動しようと、僕は胸に刻んだのだった。
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