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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。夜中に目が覚めたTF主くんがくっついてくるルチの体温から逃げようとする話です。

    ##TF主ルチ

     目を開けると、視界に薄暗い空間が広がった。瞳だけで室内を見渡して、そこが自分の部屋であることを思い出す。耳に低く響いているのは、エアコンが稼働する鈍い音だ。背後からは、ルチアーノの微かな吐息が聞こえてくる。
     夜中に目が覚めるなんて、僕にとっては珍しいことだった。寝苦しい初夏や凍える真冬はともかく、普段なら一度も目が覚めないのだ。むしろ眠りすぎてしまうくらいで、ルチアーノに寝坊を咎められることもしょっちゅうである。たまに目が覚める時があるとしたら、隣でルチアーノが泣いている時くらいだ。
     でも、この夜は違った。隣から聞こえてくるのは、啜り泣きの声などではなかったのだ。吐息は一定のリズムで刻まれていて、少しも乱れることがない。表情は分からないが、泣いているわけではなさそうである。
     後ろを振り向こうとして、僕はようやく違和感に気づいた。ルチアーノに向けている背中が、燃えるように熱いのだ。そこだけが灼熱の業火に焼かれたかのように、じりじりと熱を放っている。周辺からは汗が流れていて、皮膚をじっとりと濡らしていた。
     迫り来る熱から離れるように、僕は少し前へと移動した。いくら冷房を入れているとは言っても、人の体温を感じ続けるのは苦しいのだ。シーツの上を擦るように身体を動かし、熱の籠った空間から逃れる。片腕を上げて布団を持ち上げると、外の冷えた風を送り込んだ。
     外の涼しい風が、汗で火照った身体に染み渡る。表面の水滴が冷やされて、一気に体感温度が下がっていった。これなら、もう一度眠りにつけるだろう。そう思って目を閉じるが、彼はそう簡単には許してくれなかった。
     僕の背後から、シーツを擦るような音が聞こえる。しばらくすると、再び背中に体温を感じた。背後で眠っていた男の子が、僕の背中に肌をくっつけて来たのだ。再び熱が伝わって、僕の背中には汗が滲み始める。
     そうなったら、同じことの繰り返しだ。身体に伝わる熱に耐えきれなくて、僕は身体を前へと滑らせる。隙間から風を送って肌を冷やすが、しばらくするとまたルチアーノが近づいてくるのだ。背中に体温を押し付けられて、僕は熱に耐えきれなくなってしまう。汗ばむ身体に耐えきれなくて、もう一度身体を前へとずらした。
     そんなことを何回か繰り返しているうちに、僕はベッドの縁へと追い込まれてしまった。僕の目の前に見えるのは、断崖絶壁の奥に広がる勉強机の姿である。これ以上前へ身体を動かしたら、僕は落下してしまうだろう。どうすることもできなくて、僕は何度か身じろぎをした。
     僕が躊躇していると、背後から気配が迫ってきた。すぐ近くへと寄ってきたルチアーノが、僕の背中に身体をくっつけてくる。小さな身体にたくさんの機能を詰め込んだアンドロイドは、人間の子供と同じくらい体温が高いのだ。熱はあっという間に伝わり、僕の身体を火照らせた。
     ルチアーノの体温は、いつもより少し高いようだった。一日中夏の気温に晒されていたから、体内のシステムに負荷がかかっているのだろう。背中越しに伝わる微かな電子音は、冷却水を回しているからだろうか。おかげで、僕の目は冴えてしまって、なかなか眠れそうになかった。
     燃えるような熱を背負いながら、僕は一度目を閉じる。できることなら、このまま甘えさせてあげたかったのだ。神の代行者としての誇りを持っている彼は、人間に弱味を見せることを何よりも嫌っている。関係を持ってしばらく経った今でも、素直に甘えてくれることは少ないのだ。
     しかし、そんな気持ちとは裏腹に、身体はすぐに限界を迎えてしまった。身体の中に燻る体温は、着実に僕を追い詰めていく。熱は全身へと伝わって、じわじわと汗を流し始めていた。このままでは、眠りにつく前に熱中症になってしまうだろう。
     首を捻って後ろを見ると、僕は小さく息を吸う。少し考えてから、背後に眠る少年へと言葉を告げた。
    「ねえ、ルチアーノ」
     返事が返ってくるまでは、しばらくの間があった。あまりにも返事が遅かったから、眠っているのかと思ったくらいだ。ついさっきまで僕についてきていたのだから、寝ているなんてことはないだろう。そんな思考を巡らせていると、背後から小さな声が聞こえてくる。
    「…………なんだよ」
    「えっと、ちょっと離れてもらってもいい?」
     僕が言うと、再び沈黙が訪れた。機嫌を損ねたんじゃないかと思って、身体から冷や汗が流れ始める。実際には数分しか経っていないのだろうけど、僕にとっては何十分もに感じた。
    「…………なんでだよ」
     返ってきた声は、僅かに震えていた。その震えの正体は、僕には判別することができなかった。彼がどんな表情をしているのかさえも、僕からは見ることができないのだ。どう答えるべきか迷っていると、ルチアーノの方から言葉を続けてきた。
    「君は、いつも勝手に僕の身体に触ってきてるだろ。たまには、僕の方から触ってもいいじゃないか。もしかして、僕を嫌いになったのか?」
    「そんなことないよ!」
     飛んでくる声が湿っていて、僕は大きな声を出してしまう。涙こそ流していないものの、彼の心は悲しみに襲われているようだった。こうして僕に張り付いて来たのも、夢で悲しい思いをしたからなのだろう。彼がどんな夢を見ていたのかは、手に取るように想像できた。
    「違うんだよ! 僕が離れてほしいって言ったのは、ルチアーノのことを嫌いになったからじゃないんだ。ただ、背中にくっついてると、熱くて眠れないからなんだよ。僕が熱中症になったら、ルチアーノだって困るでしょ。分かってくれるなら、離れてくれると嬉しいな」
     ルチアーノの不安を解消しようと、僕は慌てて言葉を続ける。一気に言葉を重ねたせいで、言い訳のようになってしまった。余計に機嫌を損ねてしまったんじゃないかと思って、心臓がドクドクと音を立てる。しかし、背後から返ってきたのは、思ったよりも安定した声色だった。
    「そんなに熱いなら、布団を被らなければいいだろ。被るものがなければ、熱が籠ったりもしないぜ」
    「それはダメなんだよ。ちゃんと布団を被って寝ないと、クーラーの風で風邪を引いちゃうんだから。ルチアーノだって、僕が風邪を引くのは嫌でしょ」
     僕が言葉を返すと、彼は小さくため息をつく。次の言葉を返す頃には、すっかりいつもの調子に戻っていた。
    「熱くてもダメだけど、寒くてもダメか。人間っていうのは、つくづく面倒臭い生き物だな」
     ごそごそと衣擦れの音を立てながら、ルチアーノは僕の背中から離れてくれる。張り付いていた体温がなくなって、涼しい風が入り込んできた。このまま眠ってくれるのかと思ったが、僕の予想は外れていたらしい。布団から這い出すと、彼は枕元のリモコンに手を伸ばした。
    「部屋が熱いなら、もっと涼しくしたらいいだろ。そうすれば、くっついても熱中症にはならないぜ」
     はっきりと宣言すると、彼はリモコンを操作する。何度か電子音が響いた後に、クーラーから豪快な音が聞こえてきた。冷たい風が吐き出され、僕の部屋を冷やしていく。急速に流れ込む風が冷たくて、僕は布団を首まで持ち上げた。
    「もう、クーラーをつけるのも、電気代がかかるんだからね」
     小さな声で小言を言うが、ルチアーノはどこ吹く風である。満足げにリモコンを置くと、僕の隣に入り込んできた。
    「これで、逃げる理由はなくなったな。ほら、背中を貸せよ」
     ルチアーノが言い終わるよりも先に、僕は反対側へと寝返りを打つ。僕の正面には、暗闇の中で横たわるルチアーノの姿があった。彼に手を伸ばすと、その全身を抱き締める。腕の中に抱え込んでも、抵抗される気配はなかった。
    「背中じゃなくても、どこでも貸してあげるよ。僕の身体は、全部ルチアーノのものなんだから」
     小さな頭を見下ろしながら、僕はルチアーノに向かって呟く。どれだけ待っても、返事は返ってこなかった。
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