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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。TF主くんがルチを誘ってふわふわのかき氷を食べに行く話です。

    ##季節もの

    かき氷 夏は、冷たい食べ物の季節だ。アイスクリームやフラッペのような定番の品はもちろんのこと、お菓子やパンのような常温のもの、さらには蕎麦やラーメンやスープという温かい食べ物までが、冷やして食べる商品を開発している。テレビCMで流れるのも冷たい食べ物が増えているし、実際に視聴者が美味しそうだと感じるものも、こういう冷たい食べ物ばかりなのだ。
     僕がかき氷を食べたいと思ったのも、そんなテレビCMによる影響である。ゴールデンタイムのバラエティ番組の合間の、幅広い層に向けたCMの中に、ファミリーレストランが提供するかき氷のCMが流れていたのである。かき氷と言っても屋台で食べるようなガリガリしたものではなくて、ふわふわで果物のたくさん乗ったデザート系のものだ。男に産まれたものの宿命であるかのように、僕はこの手のかき氷に縁がない人生を送ってきた。胃の健康な若者のうちに、一度は食べてみたいと思っていたのである。
     そうなったら、やはり誘うのはルチアーノだ。僕の身近な知り合いの中で、スイーツを食べに誘えるのは彼くらいしかいない。外見の問題もそうなのだが、彼は僕が他人と出かけることを嫌がるのである。そんな経緯で、今回も彼に声をかけた。
    「ねえ、ルチアーノ。今度、かき氷を食べに行かない?」
     しかし、一筋縄ではいかないのが、この男の子の厄介なところである。僕の言葉を聞いた彼は、怪訝そうに表情を歪めたのだ。奇妙なものを見るようにこちらを見ると、いつにも増して甲高い声で答える。
    「かき氷? それって、氷を削ってシロップをかけた食べ物だよな。そんなもの、わざわざ食べに行かなくてもいいじゃないか」
     返ってくる言葉は、やはり予想通りのものだった。彼が想像しているかき氷は、去年の夏祭りで食べた屋台のものだろう。かき氷にもいくつかの種類があることを、彼は知らないのである。あまり甘味を好まない彼は、デザートの知識に疎いのだ。
    「ルチアーノが想像してるかき氷は、屋台で食べるようなやつでしょ。そうじゃなくて、もっとふわふわのかき氷なんだよ」
     声を弾ませながら答えると、彼は余計に眉を持ち上げる。想像がつかなかったのか、疑問系で単語を繰り返した。
    「ふわふわのかき氷?」
    「そう、これを見て」
     近くに置いてあった端末に手を伸ばすと、僕はレストランのサイトを開いた。大きくピックアップされている期間限定メニューに、そのかき氷は並んでいる。特設ページの大きな写真を表示させると、ルチアーノの方へと差し出した。
    「ふーん。これが、ふわふわのかき氷ってやつか。こんなんで千円もするなんて、ぼったくりじゃないのか?」
    「そんなことないよ。ほら、ここをよく見て。氷にだって味がついてるし、ソースもたくさんかけられてるんだ。果物もたくさん乗ってるから、しっかりデザートになってるんだよ」
     呆れ顔をするルチアーノに、僕はかき氷の魅力を熱弁する。これだけ話しても、彼にはあまり伝わらなかったようだ。冷めた瞳で画面を見ると、気のない様子で返事をした。
    「まあ、君がどうしてもって言うなら、ついていってやってもいいぜ」
     つまり、彼は食べないということなのだろうか。勧誘に失敗してしまった感じはするが、こういうのは無理に食べるものでもない。一緒に来てくれるなら、それだけで嬉しいのだ。

     目的のお店は、繁華街の中央に立っていた。有名なチェーン店なだけあって、大通りに面したいい立地だ。おかげで、平日の昼間だというのに、店内はたくさんの人で溢れている。夏休み真っ最中であることも、原因のひとつではあるのだろう。学生が多いようで、足を踏み入れた瞬間から、店内には若者の笑い声が響いていた。
     バイトの店員さんに案内されて、僕たちは店の奥へと向かう。小さなテーブルに二つの椅子が並んだ、シンプルな二人掛けの席だった。すぐに埋まってしまいそうなテーブルにも、かき氷をPRするポップが貼られている。立てかけてあったメニューを手に取ると、僕はルチアーノへと差し出した。
    「ルチアーノは何にする?」
    「僕は要らないよ。君だけ食べな」
     ちらりとメニューを一瞥すると、ルチアーノは興味無さげに答える。興味がないのは明らかだが、そうはいかなかった。
    「そういうわけにはいかないんだよ。このお店はワンオーダー制だから」
     メニューを押し付けると、目の前でページを捲る。彼が選んだのは、スムージーのような見た目のフルーツジュースだった。市販のジュースほどの糖分は入っていないから、無難なところを選んだのだろう。注文を済ませると、雑談をしながら届くのを待った。
    「それにしても、この店はやけに騒がしいな。こんなんじゃ、落ち着いて食事もしちゃいられない」
     眉をしかめるルチアーノを見て、僕は緩やかに笑みを浮かべる。子供のような見た目の彼が言うと、なんだか大人の真似事みたいだ。つられて、僕も大人の真似事みたいな言い方をしてしまう。
    「夏休みだからね。この時期のファミレスは、子供の溜まり場だよ」
     そんな話をしているうちに、ルチアーノのフルーツジュースが運ばれてきた。僕たちの間に置かれたグラスを、ルチアーノが片手で引き寄せる。少し遅れてから、僕のかき氷も運ばれてきた。
     机に乗せられた白い山を見て、僕は思わず息を吐いた。初めて見たふわふわのかき氷は、思ったよりも大きかったのだ。山のように膨らんだ氷の上には、いちごのシロップが滝のように流れている。器の縁を囲むように散っているのは、刻まれたいちごの果肉だった。
    「見て、ルチアーノ。これがふわふわのかき氷だよ」
     氷の盛られた器に手を伸ばすと、くるりと回してルチアーノに見せる。彼はあまり興味が無いようで、ちらりと視線を向けただけだった。ストローから唇を離すと、呆れたような声で呟く。
    「ずいぶん浮かれてるなぁ。氷なんだから、早く食べないと溶けるぞ」
     ルチアーノに諭されて、僕はようやくスプーンを手に取った。かき氷の器が大きいから、ついてくるスプーンも大きめに作られている。氷の真ん中に突き刺すと、ソースと一緒に口に運んだ。
     大量のソースが染み込んだ氷は、蕩けるように甘かった。それなのに後味がさっぱりしているのは、下の氷の味付けが控えめだからだろう。氷だけを掬って口に運ぶと、優しいミルクの甘みが口に広がる。シロップを絡めたいちごの果肉は、ジャムを食べているような濃厚さを感じさせた。
     初めての味わいに感激しながら、僕はいそいそとスプーンを動かす。一気に氷を頬張ったから、冷気に頭が痛くなった。スプーンを置いて頭に手を当てると、ルチアーノが怪訝そうな視線を向けてくる。
    「……何してるんだよ」
    「一気に食べたから、頭がキーンってなってて……」
     掠れた声で呟くと、彼は呆れたように息をついた。人間の感覚を説明したところで、機械である彼には分からないのかもしれない。そう思っていたのだけど、彼の返事は意外なものだった。
    「そういうときは、痛覚を感じるところに冷たいものを当てるといいらしいぜ。脳の錯覚が治るんだ」
     言われるがままに、僕は氷の器を持ち上げた。溢さないように気を付けながら、額の上に当ててみる。彼の言う通り、頭を貫くような鋭い痛みは、少しずつ和らいで消えていった。
    「ほんとだ。もう痛くない」
     器を机に戻すと、僕は残りの氷にスプーンを伸ばす。体温に触れたこともあって、一部が溶け始めていた。液体になった部分を掬うと、口の中へと運んでいく。溶けたかき氷のシロップも、ジュースのようでおいしいのだ。
     氷を口に運んでいるうちに、僕は思ってしまった。ルチアーノにも、このおいしさを知ってもらいたい、と。せっかく知らない文化に触れる機会なのだから、味わわないと勿体ないだろう。そう思って、僕はルチアーノに声をかける。
    「ねえ、ルチアーノも、かき氷を食べてみない?」
     しかし、彼の反応は、あまりいいものではなかった。面倒臭そうにこちらに視線を向けると、気の無い声で返事をする。
    「要らないって言っただろ。ひとりで食いな」
    「そんなこと言わないでよ。せっかくだから、一緒に食べよう」
     強引に誘いを繰り返すと、僕はかき氷をかき集める。まだ溶けていないふわふわ部分を掬い取ると、ルチアーノの前へと差し出した。
    「ほら、あーんして」
     目の前にスプーンを突きつけられて、彼は頬を赤く染める。ぎろりと僕を睨み付けると、机を叩きそうな勢いで身を乗り出した。
    「恥ずかしいことするなよ! 君に食べさせられるくらいなら、自分で食べた方がマシだ。とっととスプーンを貸しな」
     強引にスプーンを奪い取ると、氷を口の中へと運んでいく。シャリシャリと音を立てて飲み込むと、眉を平行にしながら呟いた。
    「甘いな。君の好きそうな味だ」
    「ね、おいしいでしょ」
     スプーンを受け取ると、僕は残りのかき氷へと手を伸ばす。半分を越えた辺りで、手のひらが冷たくなってきた。涼しい店内で氷を食べていると、体温が下がって寒いのである。鞄から上着を取り出した僕を見て、ルチアーノが呆れたように呟いた。
    「そこまでして食べたいのかよ。人間ってのは変な生き物だなぁ」
     空になった器を揺らしながら、彼は僕へと視線を向ける。飲み終わって退屈になったのか、店内の様子を見渡していた。入れ替り立ち替り入ってくるのは、夏休みを満喫する学生たちである。たまに親子連れが入ってくるのも、いかにも夏休みという様子だった。
    「ほら、とっとと食べなよ。ここじゃあうるさくて仕方がない」
     一通り見渡した後に、ルチアーノは不満そうな声で言う。彼は子供が好きではないようだから、この空間は苦痛なのだろう。慌ててジュース状になったシロップを流し込むと、水を飲んで口の中を整えた。
     会計を済ませ、お店の外に足を踏み出すと、再び灼熱の太陽が照りつけてきた。肌は熱気で燃えるように暑いのに、お腹の中は氷で冷たく冷えている。奇妙な感覚に身を委ねながら、僕はルチアーノと手を繋いだ。
    「今日の君の手は、いつもより冷たいな。氷を食ってたからか」
     隣を歩きながら、ルチアーノは小さな声で呟く。ずっと器を支えていたから、僕の手も冷たく冷えていたのだ。一小さな手のひらから伝わる熱が心地よくて、何度もルチアーノの手を握ってしまう。
    「ルチアーノの手は、いつも温かいね」
     真似をするように呟くと、彼は意地悪な笑みで僕を見上げた。わざとらしく口角を上げると、試すような言葉を告げてくる。
    「それは、褒めてるつもりなのか? それとも、子供扱いか?」
    「褒めてるんだよ」
     軽口を叩き合いながら、僕たちは繁華街歩いていく。夏休みの真っ最中だから、大通りも学生の巣窟だ。若者のデートスポットを、手を繋ぎながら歩いているなんて、僕たちも学生のカップルみたいだ。不意にそんなことを考えてしまって、僕はこっそり笑みを浮かべた。
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