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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。TF主くんとルチがお月見をする話。十五夜の季節ネタです。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    十五夜 スーパーの入り口付近には、イベント向けの陳列棚がある。季節の品や慣例行事のアイテムなどを、買い物客の視界に入りやすくしているのだ。この手のコーナーは季節を先取りしているから、四季の移り変わりを肌で感じることができる。僕のように季節感の無い人間にとっては、四季のイベントを知るいい機会だった。
     その日、僕がスーパーに足を踏み入れると、見慣れないものが並んでいた。花束のように紙に包まれ、袋に詰められたススキである。それは短く刈り揃えられていて、花瓶に収まるサイズにまとめられている。すぐ隣の棚には、蕎麦やパックに詰められたお団子が並んでいた。
     そこに書かれた『月見団子』の文字を見て、僕はようやく陳列の理由を理解する。棚の真上を見上げてみると、そこには『十五夜フェア』と書かたポップが飾られていた。真下にあるラミネートされたボードには、十五夜についての解説が書き連ねられている。それによると、今年の中秋の名月は明日になるようだった。
     解説を読み終えると、僕は棚に視線を向ける。ところ狭しと並べられたススキの姿は、妙に新鮮な気分がした。そういえば、ルチアーノと出会ってからしばらく経つものの、お月見だけはしたことがない。中秋の名月に当たる明日こそが、月を見るいい機会なのだろう。
     棚に並んだススキに手を伸ばすと、カゴの隅に横たわらせる。月見団子を手に取ると、崩さないようにススキの隣に入れた。棚には蕎麦も並んでいるけど、意図が分からないからやめておく。一通り道具を揃えると、僕は買い物に向かった。

     翌日、家に帰ると、僕はお月見の用意を始めた。袋から出したススキを花瓶に飾り、お皿の上に月見団子を並べる。机の上へと移動すると、食事の邪魔にならない位置に飾った。買ったものを並べただけだけど、それなりに形になった気がする。
     夕食の準備をしながら待っていると、ルチアーノが帰ってきた。光の粒子を纏いながら現れると、机の上に視線を向ける。隅に並べられたススキと団子を見ると、呆れたような声で言葉を発した。
    「君は、本当に行事が好きだよな。中秋の名月なんて、現代の一般市民は祝わないだろ」
     どうやら、ルチアーノは十五夜のことを知っているらしい。人間の文化を理解した上で、僕の行動に呆れているのだ。確かに、近年の若者は、わざわざ十五夜のお祝いなんてしないかもしれない。当の僕だって、普段はここまで真面目に十五夜を祝ったりはしないのだ。
    「そうかもしれないけど、今年はちゃんとやりたかったんだよ。ルチアーノだって、お月見は初めてでしょ」
    「そうだな。知識としては知ってるけど、実際にやったことはないよ。任務に必要のないことは、経験したところで無駄だからね」
     しれっと不穏なことを言いながら、ルチアーノはいつもの席に座る。そんな彼にだからこそ、季節の行事を教えてあげたかったのだ。せっかく日本に来たのだから、日本の文化を知ってほしい。その一心で、僕は年中行事の勉強をしているのだ。
    「ね。やったことが無いんだったら、一回くらいはやってみようよ。今日は晴れてるから、月も綺麗に見えると思うよ」
    「まあ、君がどうしてもやりたいのなら、付き合ってやってもいいぜ。月見なんて、すぐに飽きるだろうけどな」
     辛辣なコメントを残すルチアーノを横目に、僕は夕食の準備をする。中秋の名月は豊穣を願う行事だと聞いたから、メニューは肉じゃがと白米だ。自分では手の込んだ料理なんて作れないから、食堂で買った惣菜である。ついでに、アジフライとポテトサラダも買ってきていた。
     料理を机の上に並べると、ルチアーノの向かいの席に腰を下ろす。手を合わせて食前の挨拶をすると、白米と一緒に口に入れた。食堂特有の濃い味付けは、白米とよく合うのだ。大口を開けて白米を食べる僕の姿を、ルチアーノは呆れ顔で眺めていた。
    「ルチアーノも食べる?」
     視線を感じて尋ねると、彼は静かに首を振った。微かな圧を感じていたのだが、ただ見ていただけらしい。彼にとって食事は娯楽でしかないから、食べたいとは思わないのだろう。とはいえ、ずっと見られていては、食べるこっちも恥ずかしくなってしまう。
    「あのさ」
    「なんだよ」
     声をかけると、ルチアーノは面倒臭そうに答えた。投げ槍な態度に気圧されるが、気を取り直して言葉を探す。小さく深呼吸をすると、思いきって問いかけた。
    「どうして、こっちを見てるの?」
     僕の言葉を聞くと、ルチアーノは恥ずかしそうに頬を染めた。僕から視線を逸らすと、気まずそうに顔を背ける。どうやら、彼自身は見ていることに気づいていなかったらしい。平静を取り繕うと、素っ気ない態度で答えてくる。
    「別に、君を見たくて見てたわけじゃないよ。君が大飯食らいだから、呆れてものも言えなかっただけだ」
     辛辣な言葉を発しているが、それが嘘なのはバレバレである。ルチアーノがこっちを見ていたのは、無意識に僕を観察していたからだろう。神の代行者に興味を持ってもらえるなんて、なんだか不思議な気分だ。
     夕食を食べ終える頃には、良い感じに外が暗くなっていた。食器を流しに運ぶと、僕はルチアーノに視線を向ける。
    「じゃあ、そろそろ外に行こうか」
     僕の言葉を聞くと、ルチアーノは驚いたように口を開けた。こちらに視線を向けると、面倒臭そうに眉を潜める。
    「はあ? わざわざ外に行くのかよ。一軒屋なんだから、ベランダから見ればいいだろ」
    「せっかくの十五夜なんだから、外に出ないと勿体ないよ。すぐそこの縁台に行くだけだから、ね」
     嫌そうにしているルチアーノを、なんとか説得しようと試みる。僕が率先して席を立つと、彼も渋々後に続いた。冷蔵庫を開けると、ジュースを取り出してルチアーノに差し出す。
    「これを持っていこうか。まだ外は暑いからね」
     自分用の炭酸ジュースを片手に、僕は廊下へと足を踏み出す。クーラーの聞いていない室内は、熱が籠って暑苦しかった。暦の上では秋だと言うのに、外はまだまだ暑苦しい。時が過ぎる毎に、夏の割合が多くなっているのだ。
     玄関の外に出ると、更なる熱気が迫ってきた。通気性のいいサンダルに足を突っ込むと、レンガ道を通って縁台へ向かう。空の上に視線を向けると、真ん丸な月が浮かび上がっていた。これで満月ではないというのだから、月というものは不思議だ。
     軽く砂を払ってから、僕は縁台に腰を下ろす。後をついてきたルチアーノが、僕の隣に腰を下ろした。冷蔵庫で冷やされたペットボトルは、水滴を纏い始めている。キャップを開けて口に運ぶと、冷たくて甘い液体が流れ込んできた。
     ベランダに腰を下ろしたまま、僕は空の上を見上げる。遥か遠くにあるはずの月は、鮮やかな光を放っていた。表面にあるはずの黒い影は、ここからだとあまり見えない。影がうさぎに見えるという伝説は、どこの誰が言い出したのだろう。
     ふと隣に視線を向けると、ルチアーノが月を見上げていた。美しい容姿も相まって、その姿は絵画のワンシーンのようだ。街灯と月光の混ざった光が、彼の横顔を照らしている。しばらく目を離せずにいると、ルチアーノがこちらに視線を向けた。
    「なんで僕を見てるんだよ。月見はどうしたんだ?」
     機嫌を損ねてしまったのか、飛んでくる声は尖っている。なんとも言えない気まずさを感じて、僕は慌てて視線を逸らした。お月見をすると言い出したのは僕なのだ。僕が月を見なくてどうするのだろう。
    「他人に見られるのは嫌がるのに、自分は他人のことを見るんだな。全く勝手なやつだぜ」
     冷めた視線を向けながら、ルチアーノがぶつぶつと呟いている。さっきのやり取りをした後だから、余計に気まずさを感じてしまった。そんな僕たちの姿を、月は静かに見下ろしている。その姿は、なんだか僕たちを見守ってくれているみたいだった。
     昔の人たちも、こうして同じ月を見ていたのだろうか。昔だけじゃない、未来の人々も、同じ月を見ていたはずだ。天体はずっと長い間を生きていて、ずっと人類の近くにいる。ルチアーノのオリジナルに当たる人も、こうして月を眺めたのかもしれない。
     そんなことを考えていたら、首回りに汗が滲んできた。暦の上では秋だと言っても、九月はまだ暑いのだ。冷蔵庫で冷やしたペットボトルも、熱に負けてぬるくなり始めている。垂れてきた汗を手の甲で拭うと、僕はそっと席を立った。
    「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
     僕に声をかけられて、ルチアーノは不満そうに視線を向ける。冷めた瞳で僕を捉えると、投げ槍な声で呟いた。
    「なんだよ。もう帰るのかよ」
    「だって、ずっと外にいると暑いんだよ。最近は、夜になっても涼しくならないから」
    「それは、人類の行いが悪いからだぜ。人類が地球の環境を壊したから、僕たちはここにいるんだ」
     勢いをつけて立ち上がると、ルチアーノはきひひと笑い声を上げる。少し辛辣なその言葉を、否定することはできなかった。確かに、近年の地球の環境は、昔とは比べ物にならないほど破壊されている。未来の地球が滅びたと聞いても、納得ができてしまうくらいなのだ。
     来た道を通って室内に戻ると、手を洗ってからリビングへと向かう。クーラーの効いた部屋の環境は、天国のように心地よかった。定位置に腰を下ろすと、僕は月見団子に手を伸ばす。お月見が終わった後は、飾っていたお団子を食べるのも風習のひとつだ。
    「じゃあ、最後にお団子を食べようか」
     僕が声をかけると、ルチアーノも黙って定位置につく。ピラミット型に積まれた真っ白なお団子を、箸で摘まんで口まで運んだ。もっちりとした生地のお団子は、ほんのりと甘味がついている。少し固めに作られているのは、積んだときに崩れないためだろう。
    「まあ、ただの甘い団子だな。こんなものが、十五夜のごちそうなのかよ」
     球体を摘まんで口に運ぶと、ルチアーノは冷めた声で言う。人間の食事に馴染みの無い彼には、月見団子は素朴すぎるのだろう。こうして一緒に食べるなら、もう少し現代風なものを選んでおくべきだったかもしれない。
    「まあ、お供え物って言っても、昔ながらの食べ物だからね。現代の食事を知ってる僕たちからしたら、ちょっと素朴すぎるかもね」
     苦笑いを浮かべながら答えると、僕はキッチンへと向かった。食品棚の引き出しを開けると、きな粉の袋を取り出す。お団子に味を足すと言ったら、やっぱりこれしかないだろう。
    「ほら、きな粉を持ってきたよ。味が素朴だったら、これをかけて食べよう」
     お皿の片隅にきな粉を広げると、真っ白なお団子にまぶしていく。そのままでは剥がれ落ちてしまうから、小さく割って断面に塗りつけた。お団子が甘いから、きな粉はそのままで十分だろう。しっかりとまぶしてから口に入れると、きな粉の香ばしい風味が口に広がる。
    「こんなものをまぶしたところで、大して変わらないだろ。人間ってやつは、変なことばかり考えるよな」
     ぶつぶつと呟きながらも、ルチアーノはお団子をきな粉に沈める。微妙な顔で摘まみ上げると、口に入れて咀嚼した。やはり好みではなかったみたいで、表情は微妙に歪んでいる。手に取ったものを食べ終えると、静かに箸を置いた。
     残ったお団子を片付けると、机の上にはススキだけが残った。せっかく飾ったのだから、こっちは明日まで残しておくことにする。こういう雰囲気を楽しむのも、季節の行事の醍醐味なのだ。
     用意したイベントをすべてこなすと、ルチアーノはお風呂に向かっていった。彼が十五夜を楽しんでくれたのかは、僕にはよく分からない。まあ、ルチアーノと季節の行事をこなせたのだから、収穫は十分だろう。僕の豊穣への祈りは、きっと届いてくれたのだ。
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