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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。付き合ってすぐのTF主くんとルチが距離を縮めるためにアナログのデュエルをする話。

    ##TF主ルチ

    二人の距離 お風呂から上がると、僕は自分の部屋へと向かった。住み慣れた自分の家の廊下を、ゆっくりとした足取りで前へと進む。自宅とは思えないほどに緊張してしまうのは、今までとは違う環境が待っているからだ。高鳴る鼓動を押さえつけると、僕は室内へと足を踏み入れる。
     薄暗い部屋の中では、ルチアーノが待ち構えていた。彼もそれなりに緊張しているのか、ベッドの隅に腰かけている。借りてきた猫のようにおとなしいその姿を見たら、少し緊張が緩んできた。
    「上がったよ」
     小さく声をかけてから、僕は彼の隣に腰を下ろす。体重でマットレスが歪んで、ルチアーノの身体が斜めになった。さりげない仕草で体勢を戻すと、彼は小さな声で答える。
    「そうかよ」
     短い会話を終えると、僕たちの間には再び沈黙が訪れる。数日前まで普通に会話をしていたのに、今日はどうしていいのか分からなかったのだ。ルチアーノの様子を探るように、さりげなく視線を向けてみる。気まずさを紛らわせるためなのか、彼は小さな手でカードをシャッフルしていた。
     ルチアーノと正式な交際関係になってから、しばらくの時が経った。表向きの関係は変わらないが、プライベートの関係は大きく変化している。彼は僕の家に泊まりに来るようになったし、僕も彼の来訪を喜んで受け入れていた。一度関係を持ってからは、同じベッドで眠ることだって何度かあったのだ。
     しかし、どれだけ関係が進んだと言っても、まだぎこちなさは残ってしまう。ずっとタッグパートナーとして接してきた相手が、人生を共にするパートナーになったのだから、困惑するのも当然だろう。それに、これは僕から想いを告げた関係なのだから、彼としては迷いもあるのだろう。
     そんなこともあって、ルチアーノが任務で家を開けた後のお泊まりの夜に、僕たちの距離は振り出しに戻ってしまった。お互いに一人の夜を過ごした後だから、至近距離で張り付いていたことが恥ずかしくて仕方なかったのだ。
     気まずい沈黙を肌で感じながら、僕は思考を巡らせる。この膠着状態を奪還するためには、僕の方から手を打たなければならないだろう。そう考えて思い付いたのは、やはりあの手段しかなかった。
    「ねえ、ルチアーノ。よかったら、今からデュエルしない?」
     カードを動かしている手元に視線を向けると、僕はさりげなく誘いかける。こちらに視線を向けると、ルチアーノは怪訝そうな顔をした。眉をハの字にしながら声を上げる。
    「はあ? デュエル? 今からか?」
    「デュエルって言っても、デュエルディスクは使わないよ。僕の家の中だと、家具にぶつかったりして危ないからね」
     そう。デュエルモンスターズというゲームは、ディスクを使わなくても遊べるのだ。かつてはテーブルゲームとして作られたものだから、机とデッキさえあれば十分なのである。ここはプライベートな空間なのだから、机である必要すらないのだ。
    「どういうことだよ。デュエルディスクを使わなくて、デュエルなんかできるのか?」
     僕の言葉の意味が分からなかったのか、ルチアーノは怪訝そうに言葉を重ねる。未来を生きている彼のことだから、アナログなデュエルなど知らないのかもしれない。かく言う僕だって、この手のデュエルは幼少期に何度かやっただけだ。上手くできる自信もなければ、教えることなどできそうになかった。
    「できるよ。デュエルディスクが開発される前は、机の上でデュエルをしてたんだから。僕だって、子供の頃は机でやってたんだよ」
     しかし、ルチアーノとの距離を詰めるには、デュエルをするしかないのだ。胸を占める不安を押し殺すと、僕は押し入れへと足を運ぶ。棚の中から引っ張り出したのは、昔使っていたデッキたちだ。さすがに、ルールさえうろ覚えな状態で複雑なデッキを使うのは、僕にはハードルが高かったのだ。
    「まずは、ここにあるデッキを使おうか。僕もあんまり覚えてないから、ルールブックを見ながらやってみるよ」
     机の上の端末を手に取ると、デュエルの公式ページにアクセスする。ルールブックのページを開くと、端末を横に置きながらフィールドを整えた。シーツの上を平に均すと、メインデッキゾーンに束を置く。
    「ほら、ルチアーノもやろう」
     僕がデッキを差し出すと、ルチアーノは渋々受け取った。不満そうにため息をついた後に、小さな声で返事をする。
    「何で、僕がこんなことを……」
     否定的な言葉とは裏腹に、彼はベッドの上へと登ってきてくれた。僕と同じようにシーツを均すと、デッキをセットする。
    「じゃあ、始めようか」
     ルールブックを捲ると、僕は手札をフィールドに並べる。向かい側に座っているルチアーノも、同じようにカードをドローした。じゃんけんで先攻後攻を決めると、ようやく手札の内容を確認する。お互いに視線を合わせると、デュエル開始の宣言をした。
    「「デュエル!」」
     しかし、実際にデュエルが始まってからは、僕はルチアーノに押されっぱなしだった。僕のうろ覚えの知識では、ルチアーノの知識量に勝てなかったのである。普段はデュエルディスクを使っているけど、彼にはデュエルについての一通りの知識があるらしい。僕が間違った置き方をする度に、彼から鋭いツッコミが飛んでくるのだ。
    「おい、何してるんだよ。それは今は使えないぜ」
    「違うって、そのカードの効果処理は、こっちのカードよりも後だ。なんで分からないんだよ」
    「君、また墓地に送り忘れてるぞ。本当に経験者なのか?」
     片っ端から指図を受けながら、なんとか最後まで対戦を終える。たった一戦しかしていないのに、僕は疲労困憊になっていた。手元に抱えていたカードを置くと、頭を抱えてその場に倒れ込む。
    「やっぱり、ディスクの無いデュエルって難しいね。久しぶりにやったから、全然思い出せなかったよ」
     ごろんと寝返りを打つ僕の姿を、ルチアーノは呆れた様子で眺めていた。慣れた手つきでデッキをまとめながら、辛辣な言葉を僕に返す。
    「君は、全然ルールを覚えてなかったな。プロデュエリストになりたいんなら、デュエルディスク頼りじゃ成立しないぜ」
    「うぅ……」
     厳しい言葉に唸り声を上げながらも、僕はなんとかその場から起き上がる。散らかったままのカードを拾い上げると、ケースにしまって押し入れに戻した。端末を手に取って時間を見ると、眠るのにちょうどいい頃合いだった。頭を使って疲れきっていたから、このまま眠ることにする。
    「じゃあ、そろそろ寝ようか」
     避けていた布団を被せ直すと、僕は部屋の電気を消す。布団の中に潜り込むと、ルチアーノも同じようについてきてくれた。二人で眠るには少し狭いベッドの中で、僕たちは身体を密着させる。さっきまでのぎこちなさも、いつの間にか消え去っていた。
    「君には、ルールの勉強が必要みたいだな。特訓の相手なら、いつでも付き合ってやるぜ」
     布団の中で身じろぎをしながら、ルチアーノがからかうように言う。そのいたずらっぽい物言いは、いつものルチアーノに戻っていた。どうやら、僕のささやかな目論みは、無事成功に終わったようである。目的が果たされたことに、心の底からホッとした。
    「教えてくれるのは嬉しいけど、ちゃんと手加減もしてほしいな」
     同じように寝返りを打ってから、僕も小さな声で答える。いつものような他愛ないやり取りが、今は特別なものに感じた。
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