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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。TF主くんとルチがトークショーのために人混みに突撃する話。お互いが転びかけた時に支えるシチュが書きたくて書き始めたものです。

    ##TF主ルチ

    トークショー 休日の繁華街は、今日も人で溢れていた。歩道は行き交う人々で埋め尽くされ、通り抜けられそうな隙間はない。前からも後ろからも人が来るから、一部は車道へとはみ出していた。隣では車道を走る何台もの車が、速度を落とすことなく前進している。風圧で歩行者の髪が揺れているのが、歩道にいる僕にでも分かるくらいだ。
     そんな人の群れを掻き分けながら、僕は何とか前へと進む。少し離れたところに、ルチアーノの真っ赤な髪が見えた。しっかりと繋いだ二本の腕は、限界まで伸ばされて張り詰めている。彼は時折こっちを振り返ると、彼は催促するように腕を引いた。
     彼の機嫌を損ねないように、僕は急いで歩を進める。ルチアーノが通った隙間を通ろうとして、慌てて踏み出した足を引く。前方からやってきた男の人が、隙間を埋めてしまったのだ。おとなしく通りすぎるのを待ってから、開いた隙間に身を滑らせた。
     交差点の前まで辿り着くと、ようやくルチアーノに追い付いた。信号の前で足を止めると、僕は大きく息をつく。そんな僕の姿を一瞥すると、ルチアーノは呆れたように言葉を発した。
    「全く、君は人を避けるのが下手だな。そんなんじゃシティでは生きていけないぜ」
     疲労困憊のところに降りかかる辛辣な言葉に、僕は唇を尖らせてしまう。僕とルチアーノでは、人混みをすり抜ける難易度が全然違うのだ。
    「そんなこと言われても、人を避けるのって大変なんだよ。僕は、ルチアーノよりも身体が大きいんだから」
     必死の思いで言葉を返すと、今度はルチアーノが頬を膨らませた。斜め下から僕を睨み付けると、尖った声で言い返してくる。
    「誰がチビだって? そもそも、今日の外出は君が望んだものじゃないか。人混みが苦手だって言うのなら、対策くらいしておけよ」
     そこまで言われたら、僕には黙ることしかできなかった。こうして人混みに飲まれているのは、僕自身の発案が原因だったのだ。ルチアーノは巻き込まれただけなのだから、機嫌を損ねても当然だろう。
     そりゃあ、僕だって好き好んでこんな人混みを歩いているわけではない。普段の僕とルチアーノだったら、絶対に足を踏み入れないだろう。学校に通っていない僕たちは、平日の昼間でも自由に行動できるのだ。しかし、今日この日に限っては、予定を変えられない理由があったのである。
     黙ってその場に佇んでいると、目の前の信号が青に変わった。僕の手を握ったルチアーノが、大股で前へと足を踏み出す。強い力で引っ張られて、僕も追いかけるように足を踏み出した。彼は、見た目に似合わず足が早いのだ。
     目的地に近づくに連れて、行き交う人影はさらに増えていく。中央広場へ続く大通りに辿り着くと、ほとんど隙間もないほどになった。ルチアーノに様子を確認されながら、一人ずつ人影をかわしていく。広場に辿り着くまでには、いつもの倍の時間がかかってしまった。
    「やっとついたね。……ここからじゃ、あんまりステージは見えないけど」
     前方へと視線を向けると、僕はルチアーノに声をかける。僕たちの遥か先、人混みを越えた奥地には、仮設のステージが設置されていた。周囲を取り囲む無数の人々が、興味深そうにステージ上を見上げている。なんとかステージへ近づこうと隙間を探したが、僕が入れそうなところはなかった。
    「すごい数の人間だな。全員がステージを見に来てるなんて、この町のデュエリストは変り者ばかりだよ」
     隣に立っていたルチアーノが、呆れたように口を開く。彼はデュエルを武器としているだけでデュエリストではないから、この状況が理解できないのだろう。こういうイベントには率先して向かう僕も、芸能人を追いかけるファンの気持ちは分からないのだから。
    「だって、今日はプロデュエリストのトークショーがあるんだよ。まだそこまで有名な人じゃないけど、すぐに世界に進出するって言われてるんだ」
    「要するに、売り出し中のデュエリストの営業ってことか。新人も大変なんだな」
     周囲の様子を眺めながら、ルチアーノは他人事のように語る。そういえば、今の彼の肩書きは、世界で活躍する有名チームのメンバーということになっていたはずだ。簡単に経歴を詐称できるなんて、実に便利すぎる能力である。
     そんな話をしているうちに、僕たちの前の人混みが動いた。何人かが前にずれたことで、そこに空間ができたようである。急いでルチアーノの手を握ると、前のスペースへと足を踏み出す。
    「ルチアーノ、そこが開いたよ。もっと前に行こう」
     ルチアーノに視線を向けた瞬間、僕の身体がぐらりと揺れた。爪先に当たった固い感触で、自分が何かに躓いたのだと理解する。慌てて体勢を整えようとするが、一度斜めになった身体はそう簡単には動かない。しっかりと手を繋いだまま、僕の身体は人混みに向かって傾いていく。
     衝撃を覚悟した瞬間、腕に強い力を感じた。倒れかけていた僕の身体が、正面へと引き戻されていく。僕と手を繋いでいたルチアーノが、その怪力で僕の身体を引きずり上げたのだ。状況を理解できないまま視線を向けると、彼は呆れたように息を吐いた。
    「全く、何をやってるんだよ」
    「……ありがとう」
     ようやく状況を理解して、僕は頬を赤く染める。転びそうになったところを助けられるなんて、まるで幼い子供みたいだ。これでは、どっちが保護者なのか分からなくなってしまう。まあ、ルチアーノは自分が保護者だと思ってるみたいだから、そんなことは口に出せないのだけれど。
     気を取り直して視線を向けると、隙間は人で埋まっていた。統率の取れていない観客たちが、押し合い圧し合いしながら前後左右に揺れているのだ。僕たちももう少し前に出たら、最前列の人並みに呑み込まれてしまうことだろう。前に出るのは諦めて、ここでステージを見ることにする。
     僕が足を止めても、ルチアーノは手を離さなかった。さりげなく指をほどこうとすると、今度はわざとらしく手首を捕まれる。
    「仕方ないから、手を繋いでおいてやるよ。君は、すぐにはぐれたり転んだりするからな」
     耳元で囁かれる言葉には、からかいの笑みが含まれている。完全に子供扱いされていたが、僕には言い返すことができなかった。僕はついさっき転んだばかりだし、はぐれたことにも前科があるのだ。ここで言い返したら、余計にからかわれてしまう。
     そうこうしているうちに、集団の前方から歓声が聞こえてきた。僕たちの前に並ぶ人々が、首を前後左右に動かしている。どうやら、ステージの上に本日のゲストが現れたらしい。しばらくの間を開けてから、マイク越しの挨拶の声が響いた。
     なんとか登壇者の姿を見ようと、僕は必死で身体を動かす。しかし、無数の人の頭に遮られて、その姿をはっきりと捉えることはできなかった。比較的に背の高い僕でもこうなのだから、ルチアーノには何も見えていないのだろう。退屈そうに周囲の人々を見ると、呆れた声で呟いた。
    「始まったな。……ここからだと、何も見えないみたいだけど」
     彼の冷静な声を聞いて、僕は身体の動きを止める。前に行けなかった以上、どれだけ首を動かしたところで、ステージの上は見えないのだ。だったらおとなしく後ろの方に立って、話を聞くことに集中しよう。幸い、至るところに大きなスピーカーが設置されているようで、この位置でも声ははっきりと聞こえた。
     今回のイベントは、MCとゲストの対話形式らしい。MCの男が質問を投げかけると、ゲストが簡潔な言葉で答えていく。しばらく雑談のような内容を語ると、話はようやく本題へと入っていった。事前に募集した質問を交えながら、プロデュエリストへの道のりについて語っていく。
     彼の口から語られる情報は、僕にとって興味深いものだった。実際のプロデュエリストへの道のりというのは、こういう場所でないと聞けないのである。ルチアーノは肩書きを偽造しているだけだし、遊星にいたってはデュエルを職としているわけではないのだから。
     僕が夢中になって聞いていると、ルチアーノが腕を引っ張ってきた。びっくりして視線を向けると、冷めた瞳でこちらを見つめている。退屈そうな顔で目を合わせると、彼は小さな声で言った。
    「なあ、これ、いつ終わるんだよ」
    「一時間くらいって書いてあったから、あと四十分はあるんじゃないかな」
     僕が答えると、彼は呆れたように息をついた。まだ話は始まったばかりだというのに、もうすっかり飽きてしまったみたいだ。こうなったら、帰ると言い出すのも時間の問題だろう。
    「そんなにあるのかよ。もう付き合ってられないから、君一人で聞いてな」
     案の定、彼はそんなことを言い出した。踵を返して僕に背を向けると、広場の外へと出ようとする。しかし、僕たちの後ろを陣取っているのも、後から集まってきた人々の集団である。前へと歩き出そうとしたルチアーノは、すぐに人の壁に阻まれてしまった。
    「待ってよ。今さらここを出ていくなんて危ないよ。おとなしく終わるまで待とう」
     なんとか説得しようとするが、彼は聞く耳を持ってくれない。首だけをこちらに向けると、吐き捨てるような語調で捲し立てた。
    「馬鹿にするなよ。僕は君と違って、身のこなしには自身があるんだ。そう簡単にぶつかったりはしないぜ」
     再び前へと視線を向けると、ルチアーノは奥へと歩を進める。放っておくわけにはいかないから、僕も慌てて後を追った。こんな人混みでルチアーノを野放しにして、トラブルでも起きたら大変だ。そんな僕の足音に気がついたのか、ルチアーノは再び振り返る。
    「なんでついてくるんだよ。君はそこでトークショーを聞いてな」
    「そういうわけにもいかないんだよ。僕はルチアーノのタッグパートナーなんだから」
     どれだけ説得しようとしても、彼は歩みを止めてくれない。このままでは、いずれ行き交う人とぶつかってしまうだろう。今この空間において、僕たちは人の流れに逆らっているのだ。いくら身軽なルチアーノだと言っても、無事でいられるわけがない。
     そんな僕の嫌な予感は、すぐに的中してしまった。隙間を詰めようと前に出た男の人の身体が、正面からルチアーノにぶつかったのである。人間だからと油断していたのか、ルチアーノは大きくバランスを崩してしまう。倒れそうになった彼の背中を、追い付いた僕が慌てて支えた。
    「ほら、言ったでしょ。無理に動くと危ないって」
     真っ直ぐに顔を見つめながら言うと、彼は悔しそうに唇を噛む。まさか、自分が人間にぶつかって、転びそうになるとは思わなかったのだろう。プライドの高い彼のことだから、しばらくは口を聞いてくれないかもしれない。
     ぶつかった相手に向かい合うと、僕は謝罪と共に頭を下げた。ルチアーノの外見が幼かったからか、相手も快く許してくれる。ルチアーノを連れて空いているスペースに移動すると、再びトークショーに耳を傾けた。
     それから三十分ほど話を聞くと、ゲストがステージから退場した。周辺に集まっていた観客たちも、思い思いの方向へと捌けていく。はぐれないようにしっかりと手を繋ぐと、僕たちは人の流れに身を任せる。さっきと違って周囲と同じ方向に進んでいるから、人にぶつかる心配はなかった。
    「ね。繁華街の人混みは、ルチアーノでも危ないんだよ。これに懲りたら、もう無茶はしないでね」
     人の流れから離れると、僕はルチアーノに声をかけた。本当に危ないことだったから、少し強めの声になってしまう。彼も言い返す言葉がないのか、静かに肯定の言葉を口にする。
    「…………分かったよ」
     最低限の会話を終えると、僕は再び口を閉じた。彼も反省しているみたいだから、これ以上咎める必要はないだろう。子供の感性を持つルチアーノにとって、大人からの叱責は何よりも恐ろしいものらしい。僕は、彼を怖がらせたいわけではないのだ。
     繁華街を出て少し歩くと、周囲の景色は郊外へと変化していく。さっきまでの人混みが嘘のように、周囲の人影がまばらになっていった。ここまで来たのなら、もう転ぶ心配もない。手を繋ぐ必要はなくなったけど、僕たちは手を離さなかった。
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