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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。任務の途中にTF主くんに会いに来るルチの話。

    ##TF主ルチ

    寂しさの表れ「明日から、しばらく家を開けるからな」
     ある夜、布団の中に入ると、ルチアーノは小さな声でそう言った。普段の雑談と変わらない、淡々とした物言いである。少しだけ彼に視線を向けると、僕も普段通りの声色で答えた。
    「また、泊まりの任務なの? ルチアーノは大変だね」
    「そうだろ。あいつらは、いつも僕にばかり面倒事を押し付けてくるんだ。僕を雑用みたいに働かせて、自分たちは好き勝手やるつもりなんだよ」
     僕の言葉に応じるように、ルチアーノは沸々と語り始める。どうやら今回の任務は、彼にとって不本意な仕事みたいだ。前々から察してはいたものの、彼と他のメンバーは馬が合わないらしい。こうやって任務を任されては、腹を立てて帰ってくることがあった。
    「それは、ルチアーノが信頼されてる証拠じゃないの? ちゃんとこなしてくれるって思わなければ、わざわざ命じたりしないでしょ」
    「そうだろうな。僕たちの組織の下っ端は、自分のやりたいことしか考えてないんだから。でも、だからといって全部を僕に押し付けるのは違うだろ」
     僕が何を言っても、ルチアーノはそう言って頬を膨らませる。彼と組織の仲間たちの確執は、思っている以上に大きいみたいだ。一度臍を曲げてしまったら、僕にはどうすることもできないだろう。
    「で、いつ帰ってくるの? その日は、予定を開けておきたいんだけど」
     話を逸らすために、僕はそんなことを問いかけた。目論み通り、僕の質問が嬉しかったのか、ルチアーノは僅かに口角を上げる。ちらりとこちらに視線を向けると、彼は嬉しそうに答えた。
    「来週の水曜日だよ。今回は五日もあるんだ。君も寂しい思いをするだろうね」
     にやにやと笑みを浮かべながら、ルチアーノは余裕の表情で語る。寂しいのは彼も同じはずなのに、いつもこうして強がるのだ。とはいえ、僕も寂しさは感じているから、見栄を張らずに言葉を返した。
    「そうだね。これまではひとりで暮らしてたはずなのに、今はルチアーノがいないと寂しいよ」
     僕の言葉を聞くと、ルチアーノは嬉しそうに笑い声を上げた。僕が自分を求めていることが、嬉しくて仕方ないのだろう。きひひと笑い声を上げると、自信満々な表情で僕を見上げる。
    「まあ、どうしても寂しいって言うなら、連絡してきてもいいんだぜ。任務の隙間くらいなら、答えてやってもいいからさ」
    「本当? ありがとう」
     相槌で話を締め括ると、会話は別の方向へと流れていった。どうやら、僕の目論み通り、話を逸らすことに成功したようである。内心で息を吐きながら、僕はルチアーノの話を聞いていた。

     翌日は、昼近くまで眠ってしまった。重い腰を上げて布団から抜け出すと、顔を洗って普段着に着替える。いつもの流れで身嗜みを整えたものの、そこで一度手を止めてしまった。ルチアーノがいないと、僕はどこに行っていいのか分からないのだ。
     しばらく考えてから、今日は自分の時間に使うことにした。最近は忙しかったから、あまり娯楽に触れられていなかったのだ。やりかけのゲームは机の上に転がっているし、買ったばかりの漫画も放置されている。
     ベッドの上に腰を下ろすと、僕はゲーム機を起動した。軽快な電子音が鳴ると共に、画面に目映い明かりが灯る。本体にセットされているのは、少し前に発売されたRPGゲームだ。発売から数ヵ月は経っているのだが、まだ序盤の町を出たばかりだった。
     壁に背中を預けたまま、僕はしばらくゲーム機を操作する。ソフトを立ち上げることすら久しぶりだから、コマンドを忘れかけていた。なんとか操作方法を思い出しながら、マップを探索して敵を倒す。
     なんとかボスを倒す頃には、三時間ほどが経過していた。ゲーム機を布団の上に置くと、僕は大きく伸びをする。一日中同じ場所に座っていたから、身体が強ばってしまったのだ。重くなった腰を上げると、部屋の外へと歩き始める。
     部屋から出たついでに、少し買い物に行くことにした。せっかくの休日だと言っても、一歩も外に出ないのは窮屈だったのである。いつもの鞄を手に取ると、近くのスーパーを目指して歩いていく。出来合いのお弁当を買うと、すぐに家へと引き返した。
     翌日も、同じように一日を過ごした。途中になっていたゲームを進めて、買ったままになっていた漫画を読む。雑誌にも途中までしか読んでいないものがあったから、今のうちに読んでおくことにした。そうこうしているうちに日が暮れたから、今日は冷凍食品で夕食を取った。
     さらに翌日は、買い物に出かけることにした。普段からデュエルばかりしている僕は、家に籠ることに慣れていないのである。数日に一度は外に出ないと、身体が鈍ってしまうのである。
     鞄を片手に家を出ると、僕は繁華街へと向かった。有名なショッピングビルに入ると、衣服を扱う店舗を眺めていく。さすがに繁華街のビルなだけあって、並んでいる洋服はフォーマルな雰囲気ばかりだ。時折見える値札も、僕には手の届かないものである。
     少し上の回へと向かうと、さっきよりもリーズナブルな服が並んでいた。デザインもカジュアルに作られているし、価格も普段着にできそうなくらいだ。いくつかのお店を回りながら、良いものが無いかを探していく。しかし、ファッションのセンスがない僕には、自分に何が似合うのか分からなかった。
     ぐるりとフロアを眺めると、僕はレストラン街へと向かう。手頃な価格のお店に入ると、簡単に昼食を摂った。会計を済ませて店外へと出ると、エスカレーターを降りて下へと向かう。服を探すために出かけてきたはずなのに、既に気力がなくなっていた。
     やはり、僕にショッピングビルでの服選びは早かったのだろう。そんなことを考えながら、僕は一階ずつエスカレーターを降りていく。生まれてから此の方、僕はスーパーの洋服コーナーか専門店だけで服を買ってきたのだ。おしゃれなショッピングビルなんて、僕には似合わないのだろう。
    「やあ、○○○」
     考え事をしていると、背後から声が聞こえてきた。想像もしていなかった声色に、僕は思わず息を飲む。僕の想像が正しいなら、声の主はこの町にはいないはずなのだ。仄かな不安を抱えながら、僕は恐る恐る背後を振り向く。
     そこに立っていたのは、赤い髪を垂らした男の子だった。いつものように仮面で顔の半分を隠しているが、かっちりしたスーツに身を包んでいる。髪を丁寧に整えている様子は、いかにも権力者といった感じだ。目の前の光景が信じられなくて、僕は小さな声で呟いた。
    「ルチアーノ……?」
    「なに間抜けな顔してるんだよ。どこからどう見てもそうだろ」
     ぽかんと口を開ける僕を見て、ルチアーノは呆れたように言葉を発する。愉快そうに口角を上げる姿は、いかにも彼らしかった。言葉選びや声に至るまで、怪しいところはひとつもない。半信半疑になりながらも、僕は確認の言葉を返した。
    「本当にルチアーノなの? 任務は?」
    「少し時間ができたから、一瞬だけ抜け出してきたんだよ。二時間もしたら、僕は向こうに戻るぜ」
     いつもと変わらない口調で言うと、彼は僕の隣に並ぶ。正装姿の彼と並んでいると、なんだか不思議な気分になった。ルチアーノを引き連れたまま、僕はエスカレーターに足を乗せる。緩やかに下へと運ばれながら、ルチアーノが背後から尋ねてきた。
    「で、君は何をしてたんだよ。こんなところで買い物か?」
     彼の言葉に、僕は言葉に詰まってしまう。少しの間考えを巡らすと、思いきって答えた。
    「一応、買い物のつもりだったんだけどね。別の日にしようかなって思ってるんだ」
     そんな誤魔化すような言葉を聞いて、ルチアーノはきひひと笑い声を上げる。僕の背後に顔を寄せると、楽しそうな声で言った。
    「知ってるぜ。君は、新しい服を選びに来てたんだよな。良いものが見つけられなくて困ってるなら、僕が選んでやろうか」
     思いもよらない申し出に、僕は目を丸くする。首を回して背後を振り返ると、にやり笑いを浮かべるルチアーノに言った。
    「それは嬉しいけど、どうしてそんなこと知ってるの?」
    「向こうから君の様子を見てたときに、服屋の前でうろうろしてるのが見えたんだ。君のことだから、いい服が分からないんだろうって思ってさ」
     楽しそうな笑い声が返ってきて、僕は頬を赤く染める。さっきまでの右往左往も含めて、全てルチアーノに見られていたのだ。自分の行動を思い出して、頬が赤く染まった。
    「そんなところまで見てたの? 恥ずかしいなぁ」
    「恥じる必要はないぜ。君は庶民なんだから。君に合う服なら、僕がきちんと選んでやる」
     からかうような声色で言うと、彼は僕の手を掴んだ。半ば無理矢理引っ張ると、踵を返してひとつ上の階へと向かっていく。僕が値札を見ただけで通りすぎた、いいお値段のする洋服店のフロアである。くるりと周囲を見渡すと、彼は真っ直ぐに僕を導いた。
    「君は背が高いんだから、手足が美しく見える服を着ればいいんだよ。フォーマルな服を着ていれば、誰だってそれなりに見えるもんだぜ」
     独り言のように呟くと、目の前に並んでいたシャツを手に取った。セットアップらしきズボンと一緒に、僕の身体に押し当ててくる。彼は楽しそうにしているが、このお店は値の張る服ばかりが並んだ高級ブランドなのだ。選んでもらったとしても、僕には買うことができなかった。
    「せっかく選んでくれてるけど、ここのお店の服は僕には買えないよ。せめて六階くらいの、もう少しリーズナブルなお店じゃないと……」
     差し出された服を押し返すと、僕はルチアーノに向かってそう告げる。両手に服を抱えたまま、彼はにやりと楽しそうな笑みを浮かべた。僕を見上げると、からかうような笑顔で言葉を告げる。
    「そうだろうな。だから、この服は僕が買ってやるんだ。それなら、君でも値段は気にならないだろ」
    「気になるよ! そんな高い服だって分かってたら、外になんか着て行けないんだから」
     とんでもない言葉が返ってきて、僕は間髪いれずに返事をする。人からの贈り物だと思ったら、余計に神経質になってしまいそうだ。全力で抵抗する僕を見て、ルチアーノも呆れたように息を吐いた。持っていた服を戻すと、溜め息混じりに言葉を吐く。
    「面倒なやつだな。仕方ない、上の階に行くぞ」
     そんなこんなで、僕たちは上の階へと向かった。ルチアーノに手を引っ張られながら、服屋の並ぶフロアまでエスカレーターを登っていく。次に引きずり込まれたお店は、さっきよりもリーズナブルな価格だった。デザインもさっきよりカジュアルで、僕でも浮かずに着ていられそうだ。
    「やっぱり、庶民の店は庶民の服って感じだよな。君らしいと言えば君らしいのかもしれないけど、僕の隣を歩くには似合わないぜ」
     服を僕の身体に押し当てると、ルチアーノはからかうように言った。僕にとっては身の丈に合った服なのだが、ルチアーノの趣味には合わなかったらしい。何度か表裏をひっくり返してから、訝しむように顔をしかめた。
    「いいんだよ。僕は庶民なんだから。これくらいカジュアルな方が、気負わずに着れるんだ」
    「そういうもんなのか? まあいいや。せっかくだから、特別に僕が選んでやる」
     僕が答えると、ルチアーノは呆れたように息をつく。そのままお店の奥へ入ると、並べられた衣類を眺めていった。
    「えっと、君に合う服だろ……。僕の隣を歩くんだから、あんまり派手なものは嫌だよな。だからといってフォーマルなものはそんなにないし、なかなか難しいな……」
     ぶつぶつと小さな声で呟きながら、彼は棚の奥に手を伸ばす。彼が取り出したのは、襟のついたシャツだった。厚めの生地で作られているから、カジュアルなブランドでもチープな感じはしない。いかにも彼が選びそうな、オフィス向けデザインの衣類だった。
     ベースとなるシャツが決まると、今度はズボンを選んでいく。こっちもジーンズなどではなくて、きちんとした生地のスラックスだった。用意されたベストを重ねると、それなりにフォーマルな雰囲気になった。
    「まあ、いいんじゃないか? 君の趣味に合うかは分からないけどな」
     試着室から顔を出した僕を見ると、ルチアーノは満足そうにそう言った。奥の鏡に視線を向けると、僕も自分の姿を確かめる。少しフォーマルすぎる気もするが、案外悪くはないだろう。自分では選ばない組み合わせだから、それなりに新鮮だった。
    「ありがとう。じゃあ、これにするよ」
     試着室のカーテンを閉めると、僕は試着用の服を脱いだ。まだ温かい服を手に取ると、試着室を出てレジへと向かう。僕が歩き出そうとすると、ルチアーノが横から手を伸ばしてきた。
    「その服は僕が買ってやるよ。君へのプレゼントだ」
     僕の手から服をもぎ取ると、そのままレジへと向かっていく。手早く会計を済ませると、僕の元まで戻ってきた。楽しそうに笑みを浮かべながら、手にした紙袋を押し付ける。
    「ほら。大事にしろよ」
    「ありがとう」
     半ば押されるような形になりながらも、僕は紙袋を受け取った。自分のための普段着を買いに来たはずなのに、彼と出かけるための服を押し付けられてしまった。苦笑いを浮かべながらも、彼と一緒に下の階へと降りていく。
     建物の外に出ると、彼はこちらを振り向いた。僕の姿を捉えると、改まった声で言う。
    「僕は、そろそろ向こうに戻るよ。次は二日後に会おうな」
     言い終わるか終わらないかのうちに、彼は僕の方へと歩み寄ってくる。徐々に顔が近づいてきて、頬に何かが触れる気配がした。離れていく彼の表情を見て、それがキスだったのだと理解する。あまりに突然の出来事だったから、反応を示すことすらできなかった。ただ呆然とそこに立ったまま、熱くなった頬を押さえている。
    「じゃあな」
     いたずらっぽく笑みを浮かべると、彼は僕に背を向けた。そのまま真っ直ぐに歩を進めると、人混みの中に消えていく。彼の姿が見えなくなった辺りで、ようやく身体が動くようになった。
     彼が残した紙袋を抱えると、僕は真っ直ぐに家へと向かう。心臓がドクドクと音を立てて、買い物どころではなくなっていたのだ。人前で口付けをするなんて、普段の彼からは考えられないことである。そんな挑発的なことをされたら、僕は冷静ではいられなくなってしまう。
     家に足を踏み入れると、僕は大きく息をつく。脳内を占めているのは、去り際のルチアーノの笑顔だった。からかうような笑顔の奥には、少しだけ寂しげな色が浮かんでいたのだ。彼にとっても、僕と離れ離れになるのは寂しいことなのかもしれない。そう思ってもらえるなら、僕にとってこれほど嬉しいことはなかった。
     ルチアーノが家に帰ってくるまで、あと二日も時間があるのだ。この長くて短い時間は、一体どのように使うのが有意義なのだろう。彼は僕のために服を買ってくれたから、僕も何かを返すべきなのかもしれない。考えれば考えるほど、アイデアはたくさん浮かんでくる。
     明日は、どのように一日を過ごそうか。考える余地があることに、僕は幸せを感じるのだった。
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