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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。カードを買うか悩んでいるTF主くんがルチにいたずらされる話。

    ##TF主ルチ

    いたずら 商店街のカードショップに入ると、僕は迷わずにショーケースの前へ向かった。アクリルの板の前で足を止めると、向こうに並べられたカードを眺める。一面を埋め尽くすように並んでいるのは、そのお店がおすすめする売れ筋カードだ。どれも黄色の値札が張られていて、高いものではパックが買えそうなほどの額がつけられている。効果が強かったりイラストが良いという理由で、価格が非常に高騰しているのだ。
     その中の一枚に視線を向けると、僕は低い唸り声を発した。僕がずっと購入を検討していたカードが、その中には並んでいたのである。価格もお手頃に設定されているようで、これまでに見かけた店舗より少しだけ安い。そこだけを聞けば買い時のようにも思えるが、僕にはすぐに決断ができなかった。
     というのも、この価格が高騰しているカードは、デュエリストの中で強すぎるカードとして扱われているのだ。どんなデッキに入れても協力な効果を発するから、誰もがデッキに一枚は入れている。大会常連者のデッキレシピが公開された時にも、必ずこのカードが入っているくらいなのだ。そこまで強いカードとなると、今度は近いうちに規制される懸念が出てくる。
     再びショーケースに視線を向けると、僕は大きく息をついた。目の前に鎮座しているカードを見つめると、頭の中で思考を巡らせる。次の規制の発表日までは、もう一週間を切っているのだ。すぐに規制されるかもしれないカードを、わざわざ買う意味があるのだろうか。
     そんなこんなで、僕はカードを見つめたまま、しばらくの間悩み続けた。何度か店内を巡回しながら、十分くらいはその場にいただろう。悩みに悩みすぎたから、買うべきか買わざるべきかなどという、どこかで聞いた言い回しまで使ってしまうくらいだ。その場から動く気配の無い僕を見て、ルチアーノが呆れ顔で声をかけてくる。
    「おい、何してるんだよ」
    「カードを買うかどうか悩んでるんだ。あのカードが安く出てるけど、このタイミングで買っていいのかなって」
     ルチアーノに言葉を返しながら、僕はショーケースの隅を指差す。隣に立っていたルチアーノが、少し背伸びをしながら目を細めた。幼い少年の姿をしている彼は、そうしないと高いところが見えないのだ。すぐにケースから顔を話すと、彼は平然とした声で言った。
    「ああ、あのカードか。最近はどこに行っても見かけるよな。強いカードを入れたからって、簡単に強くなれるわけじゃないのに」
     ルチアーノの口から零れる言葉は、相変わらずの辛辣さを含んでいる。神に与えられたデッキを使っている彼には、強いカードを買う意味が分からないのだろう。彼の言うことは最もなのだが、こうも冷徹に言い切られてしまうと、少し悔しくなってしまう。ルチアーノに視線を戻すと、僕は対抗するように言葉を返した。
    「そうかもしれないけど、やっぱり、強いカードは強いんだよ。大会の常連に入ってる人は、みんなこのカードを使ってるんだから」
    「それは、使ってるやつの実力があるだけだろ。そんなもので勝てるんだったら、今ごろどいつもこいつもそいつを使ってるぜ」
     投げやりなルチアーノの言葉を聞きながら、僕は返事に詰まってしまう。彼はそんなことを言っているが、実際には肯定できるような状況ではなかったのだ。今回のカードの普及率は驚異的で、それこそ『どいつもこいつも』このカードを使っているようなものなのだ。
    「おい、何を黙ってるんだよ。買うなら買う、買わないなら買わないで、とっとと決めな」
     黙り込んでいる僕を見て、ルチアーノは勝手に話を進める。強引に僕の腕を掴むと、無理矢理その場から引き剥がそうとした。外見よりも強い力に引きずられて、僕は危うく転びそうになる。なんとか体勢を整えると、再びショーケースと向かい合う。
    「待ってよ。まだ悩んでるんだから」
     少し強い口調で言うと、ルチアーノは機嫌を損ねたようだった。見せつけるような仕草で鼻を鳴らすと、演技じみた様子で僕に背を向けた。
    「いつまで悩んでるつもりだよ。全く、あと五分だけだからな」
     そんな捨てゼリフを吐くと、彼は店内へと消えていく。ショーケースの陰に消えていく後ろ姿を、僕は苦笑を浮かべながら眺めていた。普段からカードを買わない彼には、僕の悩みなど分からないのだろう。しかし、そのどうでもいいようなことが、僕にとっては重要だったのだ。
     結局、その後も五分くらい悩んだが、カードを買うかどうかは決められなかった。ショーケースの前を右往左往しながら、僕はカードとにらめっこする。しばらくそこから動けずにいると、ルチアーノが僕の元へと戻ってきた。まだ悩んでいる僕の姿を見て、呆れたように言葉を発する。
    「まだ悩んでるのかよ。あのな、それだけ悩むってことは、君にそのカードは必要ないんだよ。本当にほしいと思ってるものなら、迷ったりせずに買ってるんだから」
    「それはそうだけど…………」
     正論を突きつけられて、僕はまたしても言葉に詰まる。ここまで言われてしまったら、買う理由も無いような気がしてきた。でも、ここで買わずに帰ったとして、後悔したりはしないだろうか。このショップは価格が良心的だから、次に来たときまで残ってるとは限らないのだ。
     話も聞かずに悩み続ける僕を見て、ルチアーノは大きくため息をついた。それ以上説得することを諦めたのか、黙って僕の隣に佇んでいる。特にやることもなかったのか、ぼんやりとショーケースの奥を見つめていた。
    「なあ、あのカードはなんだよ」
     しばらくショーケースの中に視線を向けると、不意にルチアーノは声を発した。びっくりして視線を向けると、ケースの下の方に並べられたカードを眺めている。僕の顔がある高さからでは、そこに何があるのかまでは見えなかった。
    「どれのこと?」
     彼の言葉に答えながら、僕はケースの下の方へと視線を向ける。そこに並べられているのは、魔法カードや罠カードであるようだった。カードが隙間なく敷き詰められていて、相当近づかないと名前までは分かりそうにない。僕が目を細めると、ルチアーノはケースの奥を指差した。
    「あれだよ。下から二段目の、一番左にあるだろ」
    「どのカードのこと? 名前か絵柄を教えてよ」
     もっとしっかりカードを見ようと、僕は上半身を屈める。ルチアーノと同じ視界を確保しようと、彼の真横に顔を近づけた。重ねられているせいでカード名までは分からないが、イラストの特徴ははっきりと見える。さらに質問を重ねようとしたとき、隣で気配が動くのを感じた。
     ショーケースを見ていたはずのルチアーノが、僕の方へと顔を近づけてくる。綺麗な顔が目の前まで迫ってきたかと思うと、頬に柔らかい感触が伝わった。
    「え?」
     何が起こったのか分からなくて、僕は小さく声を上げる。呆然と右手を動かすと、妙な感触のした頬に手を当てた。しかし、今さら指を触れたところで、そこには何も残されていない。そこに触れていたものは、僕の目の前へと移動していたのだから。
    「えっ!?」
     ようやくその正体に気がついて、僕は大きな声を上げてしまう。声の大きさに驚いたのか、近くを歩いていたお客さんが僕へと視線を向けた。注目を浴びるのが怖くて、慌てて両手で口を塞ぐ。 未だに状況を飲み込めずにいると、ルチアーノは楽しそうに笑い声を上げた。
    「ひひっ。君がカードのことしか見てないから、僕からも仕返しをさせてもらったぜ。これに懲りたなら、おとなしく家に帰るんだな」
     にやにやと笑みを浮かべながら、彼はそう言って僕を煽る。しかし、そんな彼の態度とは対称的に、僕は余裕を失っていた。心臓がバクバクと音を立てて、いてもたってもいられなくなってしまう。今すぐにでも、この空間から逃げ出したかった。
    「分かったよ。今日はもう帰るから、次からはこういういたずらは無しにしてね」
     弾む心臓を押さえつけながら、僕はキョロキョロと周りを見渡す。ルチアーノとのやり取りの一部始終を、誰かに見られていないか心配になったのだ。一緒にいると忘れがちになってしまうが、ルチアーノの容姿は小学生の男の子だ。そんな子供が大人にキスをしているなんて、端から見たら怪しい関係だとしか思えないだろう。
     幸い、店内のお客さんは少なかったから、僕たちに視線を向けている人はいなかった。大きく安堵の息をつくと、足早にお店の外へと歩いていく。何だかんだで、今回もルチアーノの思い通りになってしまったようだ。繁華街の喧騒に身を紛れ込ませても、僕の胸の鼓動は止まらなかった。
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