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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチのバレンタイン、TF主くん視点です。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    バレンタイン TF主 バレンタインの季節が来ると、僕の心は浮き足立つ。恋人たちの祭典とも称されるこの日は、僕にとっても特別なイベントだったのだ。普段は贈り物などほとんどしないルチアーノが、僕のためにチョコレートを用意してくれる。それも、自身の技術力を誇るかのように、手作りのものを持ってきてくれるのだ。
     そんなこともあって、毎年二月を過ぎた頃には、僕はお祭り気分になっていた。ルチアーノからチョコをもらうことだけを楽しみに、日々の暮らしを送っているくらいである。もちろん、シティのショッピングビルやデパートで開催される販売イベントも見逃せない。インターネットで配信されるカタログを眺めながら、どんなチョコレートを買おうかと悩んでいた。
     充実した日々を送っていると、時が進むのは恐ろしく早い。チョコレートを探して駆け回っている間に、あっという間にバレンタイン当日を迎えていた。いつルチアーノが来てもいいように、外出の予定は立てないでおく。本当は朝から一緒に過ごしたかったのだけれど、彼は前日に任務があると言って泊まらなかったのだ。
     リビングのソファに腰を下ろすと、テレビのリモコンに手を伸ばす。ルチアーノが家に帰ってくるまで、適当なことで時間を潰そうと思ったのだ。彼からの贈り物が楽しみで、心が忙しなく踊っている。まさか、バレンタインがこんなに楽しみなイベントになるなんて、当時の僕は考えもしなかった。
     見るともなしにテレビを眺めながら、ルチアーノが訪れるのを待つ。番組のCMが挟まる数十分ごとに、ついつい部屋の中を見渡してしまった。便利なワープ機能を持っているルチアーノは、何の前触れもなく姿を現すのだ。今に室内に光が現れるのではないかと、周囲に気を回してしまう。
     しかし、今日のルチアーノの移動手段は、いつものワープ機能ではなかった。僕が室内に視線を向けていると、背後の扉が開く気配がしたのだ。予想もしなかった登場にびっくりして、思わずそちらを向いてしまう。再び閉じられた扉の前には、普段着に身を包んだ彼の姿があった。
    「おかえり。玄関から来るなんて珍しいね」
     真っ直ぐに彼の姿を見つめると、僕は素直に言葉を告げる。その直球な言葉が不満だったのか、彼は頬を膨らませた。暗く光る瞳で僕を見つめ返すと、あからさまに尖った声で言葉を吐く。
    「僕だって、玄関を使うこともあるさ。君は、僕のことを蛮族とでも思ってるのか?」
    「そんなことないよ。今日は、ワープを使わなかったんだなって思って」
     機嫌を損ねた気配を感じて、僕は慌てて言葉を返す。せっかくの特別な日なのだから、あまり怒りを買うようなことは言いたくなかった。強制的に会話を切り上げると、僕はテレビへと視線を戻す。これ以上何も言われないと分かったのか、彼は僕の隣へと歩いてきた。
     音を立ててソファに腰を下ろすと、彼は見せつけるように足を組む。ちらりと僕の方に視線を向けると、すぐにテレビへと視線を戻した。何気ない素振りを見せるつもりなのか、瞳は真っ直ぐにテレビを見つめている。しかし、意識は僕の方に向いているようで、何度も探るような視線を感じた。
     視界の端で彼の様子を眺めながら、僕は真っ直ぐにテレビを見つめる。ルチアーノがここまでそわそわしている理由は、考えなくても理解できた。きっと、彼は彼なりに、このバレンタインという日を楽しみにしていたのだろう。しかし、僕が平然とした素振りを見せているせいで、話を切り出すタイミングが掴めないのだ。
     そんな可愛らしい様子を見せられてしまったら、僕だって意地悪をしたくなってしまう。彼から話を切り出してくれるまで、知らんぷりをしたまま待ってみることにしたのだ。彼は待つことが苦手だから、すぐにしびれを切らせて声をかけてくるだろう。実際に、僕の目論見は当たっていて、彼はすぐに口を開いた。
    「なあ、今日は、どこかに出掛けたりしないのかよ」
     僕からの言葉を催促するような、かわいらしい言い回しの物言いである。笑みを浮かべそうな口元を抑えると、僕はゆっくりと彼に視線を向けた。あくまでも本心は隠しておきたいようで、視線はまっすぐに前へと向けられている。辱しめる趣味もなかったから、僕はさりげなく言葉を返した。
    「今日は、家で過ごそうかなって思ってるんだ。外はすごく寒いみたいだし、行きたいところもないから」
    「そうかよ」
     平然とした態度で答えると、彼は再び口を閉ざす。僕がはぐらかすような言葉を返したから、何も言い出せなくなってしまったみたいだ。まだそわそわした態度を保ったまま、おとなしくテレビに視線を向けている。画面の中では、毎日のようにバラエティ番組に呼ばれる有名芸人が、ゲストのタレントに話を振っていた。
     大して面白くもないテレビを眺めながら、僕はちらりと隣を窺う。わざとこちらを見ないようにしているのか、ルチアーノと目が合うことはなかった。結果だけを見ると意地悪な態度のようだが、僕の言葉もあながち嘘ではなかったのだ。今年の冬は雪予報が多く出ていて、例年より何倍も寒いのである。
     そうこうしているうちに、流れていたバラエティ番組が終わった。ルチアーノは様子を窺っているだけで、なかなか話を切り出す気配がない。神の代行者として産み出された彼にとって、人間への施しは耐え難い恥辱なのだろう。さすがにこれ以上はかわいそうだから、僕の方から口を開くことにした。
    「ねえ、ルチアーノ」
    「なんだよ」
    「僕に、渡すものがあったりしない?」
     確信を突くような言葉を告げると、彼は驚いたようにこちらを見た。子供らしい丸みを帯びたその頬は、林檎のように真っ赤に染まっている。直接的な言及が嫌だったのか、向けられる視線は少し尖っている。しかし、彼が子供の姿をしていることもあって、その姿は可憐でしかなかった。
    「なんでそんなこと言い出すんだよ」
    「だって、さっきからそわそわしてたから」
     シラを切ろうとする態度が可愛らしくて、僕はさらに言葉を重ねる。丁寧に逃げ場を塞がれたことで、彼も観念したみたいだった。しぶしぶといった様子で姿勢を正すと、ワープ機能を起動させる。光の中から引っ張り出したのは、紙製の手さげ袋だった。
    「分かったよ。…………ほら、これ」
     乱雑に中身を覗き込んでから、袋を僕へと突き出してくる。そこに印刷されているロゴを見て、僕は動きが止まってしまった。見間違いでなければ、そこに書かれているのは、超有名ブランドのロゴだったのだ。彼は何事もないように差し出しているが、簡単にお目にかかれる品物ではない。
    「これって、イベント限定出店のお店のチョコだよね? わざわざ買ってきてくれたの?」
     確認の問いを投げかけながら、僕は恐る恐る袋を受け取る。一般人が手にするには恐れ多い品物に、無意識に手が震えてしまった。開いた口から中の品を確認するが、やはり見間違いなどではない。有り難みを噛み締めていると、ルチアーノは誇らしげな声で言った。
    「そうだよ。イリアステルの協力者を使って、君のために手配したんだ。気に入ってくれたか」
    「そこまでしてくれたんだね。……ありがとう」
     両手で袋を抱き締めたまま、僕はなんとかお礼を言った。室温で中身が溶けないように、急いで冷蔵庫へと仕舞いに行く。しかし、有り難みを感じると同時に、一種の申し訳なさも感じていた。協力者を使って手に入れたということは、これは裏道から仕入れた品物なのだ。
    「でも、少し意外だったな。ルチアーノのことだから、今年も手作りチョコなのかと思ってた」
     再びソファに腰を下ろすと、僕は思い付いた言葉を呟いた。彼が市販のチョコレートを持ってくるなんて、僕は想像すらしていなかった。去年や一昨年の様子から考えると、彼は自らの技術を示すことに優越感を抱いている。今年はさらに高度なチョコレートを作って、僕に見せつけて来ると思ったのだ。しかし、僕の言葉が気に障ったのか、ルチアーノは尖った声で言葉を返す。
    「君は、僕が作ったチョコよりも、市販のチョコの方が嬉しいんだろ。わざわざ用意してやったんだから、喜んで受け取りなよ」
    「そうなんだけど、ちょっと意外だなって思って。ルチアーノは僕への愛を示すために、手作りのチョコを作ってると思ってたから」
     またしても機嫌を損ねそうになって、僕は慌てて言葉を続ける。しかし、いくら言葉を重ねても、ルチアーノの機嫌は下がってしまうようだ。不満そうに小さく鼻を鳴らすと、彼は突き放すように口を開く。彼もそれなりに動揺したのか、その声は微かに震えていた。
    「そんなわけないだろ。全く、君はいつも変なことを言うよな」
    「そうだね。ごめんね」
     繕うように謝罪を返すと、僕はそのまま口を閉ざす。せっかく贈り物をもらったというのに、なんだか変な空気になってしまった。しばらく沈黙を保ってから、僕もゆっくりと腰を上げる。確かな足取りで向かったのは、キッチンの食料棚の中だった。
     中から紙袋を取り出すと、両手に抱えてソファへと戻る。紙袋とはいうものの、こっちはルチアーノの持ってきたものほど豪華ではなかった。中に入っているチョコレートも、庶民のお小遣いで買えるほどの価格帯である。それでも、僕にとっては、大切なバレンタインの贈り物だった。
    「僕からも、ルチアーノに渡したいものがあるんだ」
     特別感を出すように前置きすると、僕は袋をルチアーノに差し出す。目の前に迫る袋を受け取ると、乱雑な仕草で中を覗いた。すぐに顔を上げると、少し不満そうな声で言う。
    「なんだよ。君も市販品じゃないか」
    「だって、僕は不器用だから」
     痛いところを追及されて、僕は困りながら言葉を返した。そこを指摘されてしまったら、僕には何も言うことができない。壊滅的に不器用な僕には、チョコレートを手作りするなど無理難題だったのだ。挑戦してみたところで、市販のチョコを溶かして固めるくらいだろう。
    「僕は食べてみたいけどな。君の手作りのチョコレートを」
     紙袋を時空の隙間に放り込むと、ルチアーノは淡々とそんなことを言う。さりげない態度で告げられた言葉に、僕は思わず目を開いてしまった。今、目の前にいる男の子は、いったい何と言ったのだろう。彼の隣に腰を下ろすと、僕は催促するように声をかける。
    「今、なんて言ったの? もう一度教えて」
    「何も言ってねーよ」
     しかし、僕が何度おかわりを求めても、彼は答えてはくれなかった。さっき僕が聞いた衝撃的な言葉は、本当に彼の口から零れたものなのだろうか。彼が何も言わない限り、僕には確証を得ることができない。もっとちゃんと聞いておけばよかったと、今になって後悔した。
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