Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

    文章や絵を投げます

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💕 🍇 🐥 🍣
    POIPOI 682

    流菜🍇🐥

    ☆quiet follow

    TF主ルチ。以前に上げたテキストの続きです。ルチがTF主くんに怒ってるだけの話。

    ##TF主ルチ

    待ちぼうけ 続き その夜、手早く風呂を済ませると、僕は青年の待つリビングへと向かった。わざと足音を立てながら近づくと、彼の座るソファの背後で足を止める。少しだけ間を空けるのは、込み上げる怒りを押さえつけるためだ。しかし、そこまでして平静を装おうとしても、僕の声は冷たくなってしまった。
    「上がったよ」
    「うん…………ありがとう」
     ソファの向こうから返ってくる返事も、様子を探るようなぎこちないものだった。僕が本気で怒っているから、どうしていいのか分からなくなっているのだろう。元はと言えば彼に原因があるのに、この男は全く自覚していないのだ。あの時の焦りを思い出して、またしても羞恥と怒りが込み上げてくる。
     踵を返してソファに背を向けると、僕は足早にリビングを出た。足音を立てながら移動すると、彼の部屋のベッドに腰を下ろす。僕の様子を窺っているのか、彼は少し間を空けてから部屋に入ってきた。恐る恐る室内を覗き込むと、早足でタンスの引き出しを開ける。
     足音が去っていくのを待ってから、僕はベッドの上に寝転がった。転がっていた枕を手に取ると、力一杯にマットレスに叩きつける。夕方のことを思い出す度に、羞恥と怒りが胸を支配していく。こんなにも感情を乱されていることが気に入らなくて、余計に頬が熱くなった。
     枕に顔を埋めながら、思考領域をフル回転させる。僕は彼と出会ったことで、どうにかなってしまったのだろうか。あの時の僕の反応は、どう考えても冷静だったとは言えない。居場所すら確かめずに襲撃の心配をするなんて、まるで人間のような短絡さだった。
     しかし、一人で考えたところで、何も答えなど出るわけがない。僕の思考領域を満たしているのは、自己への羞恥と彼への怒りだけだからだ。そもそも、彼が寄り道などしていなければ、僕が余計な心配をすることもなかったのだ。そして、そんな感情的な思考に陥ってしまう自分自身に、僕は羞恥を感じてしまう。
     ゆっくりと身体を起こすと、枕元に置かれていたゲーム機に手を伸ばした。堂堂巡りになる思考を振り払うには、単純なゲームに触れることが一番である。スロットにパズルゲームのソフトを差し込むと、電源を入れてスタートボタンを押す。やけに仰々しい音声と共に、画面いっぱいの企業ロゴが表示された。
     スピーカーから流れる音声を聞きながら、僕は無心にボタンを操作する。単純な作業の繰り返しは、頭の中を空っぽにしてくれた。普段であれば暇潰しにしかならないゲームも、このような時には役に立つのだ。ひたすらにパズルを消す作業を繰り返していると、背後から足音が聞こえてきた。
     気配を殺すような静かな足音で、その人物は室内へと入ってくる。わざわざ視線を向けなくても、それが青年であることはすぐに分かった。僕も気まずさを感じていたから、ゲームに視線を下ろしたままでやり過ごそうとする。それを幸いだと思ったのか、青年は僕の隣へと腰を下ろした。
    「上がったよ」
    「そうかよ」
     様子を窺うような小さな声で、彼は僕へと言葉をかける。あまり気が進まなかったから、返事は淡々としたものになってしまった。気が滅入るほどに重たい沈黙が、僕たちの間を漂っている。黙り続けることに耐えられなかったのか、彼は探るように口を開いた。
    「ルチアーノ、まだ怒ってる?」
     オブラートというものを忘れた言葉に、思わず彼を睨みそうになる。どうしていつもこの男は、僕を逆撫でするような言葉を吐くのだろうか。これで悪意がないというのだから、彼は恐ろしい人間である。一時的にゲームから手を離すと、僕は平静を装って答えた。
    「別に、怒ってねーよ」
     それでも、僕の発する言葉の隅からは、隠しきれないトゲが零れてしまう。僕の怒りが収まっていないことを察して、青年は考えるように口を閉じた。再び沈黙が部屋を満たして、僕たちの間を重苦しく漂う。たっぷりと時間を開けた後に、彼は消え入りそうな声で言った。
    「ごめんね」
     その言葉がきっかけとなって、収まりかけていた怒りが爆発してしまう。叩きつけるようにゲーム機を置くと、僕は勢いよく顔を上げた。気まずそうな顔をしている彼を、鋭い瞳で睨み付ける。勢いのままに身体を起こすと、彼は驚いたように身を引いた。
    「謝っただけで済むかよ! あんなに心配かけておいて、平然とした顔してさ!」
     胸の奥から溢れるままに、僕は言葉を捲し立てる。噛みつかんばかりの勢いに押されたのか、青年はさらに身を引いた。困ったように表情を崩すと、迷うように視線を彷徨わせる。分厚い前髪に隠されていても、その動きははっきりと分かった。
    「本当にごめんね。まさか、ルチアーノがあんなに心配するなんて思わなかったから」
    「心配するに決まってるだろ! 君はもう、宿敵に命を狙われる存在になったんだ! 無防備に町を歩いてたら、イリアステルを狙う組織に襲われるかもしれないんだぞ!」
     怒りのままに捲し立てると、彼は慌てた様子で口を閉じる。迷いが行動に現れているのか、意味もなく両手を持ち上げていた。まるで叱られた犬のような滑稽な姿に、さっきまで溢れていた怒りも薄れてしまう。気持ちを沈めるように深呼吸すると、彼の胸元に顔を埋めた。
    「ルチアーノ……? どうしたの?」
     滑稽なポーズのまま固まっている青年が、恐る恐るといった様子で問いかける。そんな彼の言葉を聞きながら、僕は彼の身体に腕を回した。一瞬だけ身体が震えていたのは、首を絞められるとでも思ったからだろうか。失礼な思い込みだが、今回は大目に見ることにする。
    「……どこにも行くなよ」
     肌から伝わる温もりを感じながら、僕は青年に声をかける。寝間着に吸い込まれるくぐもった声は、それでも彼に届いたようだった。宙に浮いていた彼の腕が、優しい仕草で僕を包み込む。そのまま顔を近づけると、彼は耳元で囁いた。
    「大丈夫、僕はどこにも行かないよ」
     僕の身体に腕を回すと、青年は優しく背中を撫でる。子供を宥めるような優しい声は、それでも僕の胸を満たしてくれた。こんなことで流されてしまうなんて、僕は幼い子供みたいだ。きっと、僕のオリジナルに当たる人間も、このような温もりを望んだのだろう。
     背中に触れていた青年の手のひらが、ゆっくりと上に滑ってくる。首筋をなぞるように上へ向かうと、優しく頭の上に被せられた。乱れた髪を直すかのように、揃えられた指が僕の頭をなぞる。いかにも子供をあやすような仕草だったが、不思議と不快な思いはしなかった。
    「本当だな」
     彼に体重を預けると、僕は小さな声で呟く。消え入りそうなほどに微かな声なのに、彼はちゃんと聞き取ってくれた。優しい手つきで背中を撫でると、同じくらい小さな声で答える。
    「本当だよ」
    「約束しろよ」
    「うん。約束する」
     その場の空気に流されるようにして、僕は優しい言葉を要求する。それがただの口約束にしかならないことは、僕が一番よく分かっていた。僕は神の代行者で、任務を遂行するためにこの地に降り立っているのだ。神の目的が達成されたら、僕たちは再び離れ離れになる。
     厳しい現実を思い出して、僕は再び不安に襲われる。しかし、その恐怖の感情は、それほど長くは続かなかった。僕の身体に回された青年の腕が、優しく背中を撫でてくれるのだ。彼の温もりに触れている間だけは、僕は現実を忘れられる。
     彼の温もりを堪能しようと、僕は大きく息を吸い込む。寝間着に染み込んだ彼の香りが、鼻から肺の奥へと入り込んできた。生々しい人間の生活の香りに、身体が熱を持つのを感じる。思えば、この家に足を踏み込んだ時、僕はそういうつもりでいたのだ。
     一度意識してしまったら、身体の熱はどんどん高まっていった。頬が燃えるように熱くなり、下半身がドクドクと音を立てる。頭を撫でる彼の手つきも、今は僕の高ぶりを煽る要素にしかならない。発散したい欲望に耐えきれなくて、僕は彼の寝間着を引っ張った。
    「どうしたの?」
     頭部に回していた手を引っ込めると、彼は戸惑ったように口を開く。こちらの様子を窺うような仕草なのは、そうしないと僕が機嫌を損ねると思っているのだろう。一度こうなってしまったら、雰囲気で察してもらうことなどできない。ゆっくりと身体を起こすと、僕は正面から彼を見上げた。
    「…………したい」
     込み上げる羞恥心を圧し殺しながら、僕は小さな声で呟く。そのたった一言だけでも、僕の気持ちは伝わったみたいだ。宙に浮いていた彼の右手が、探るように僕の寝間着に触れる。期待に胸を高鳴らせながら、僕は彼に身を委ねた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💞💞💒💒☺☺☺💘💘👏❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator