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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。TF主くんとルチが恋愛と吊り橋効果について語るだけの話です。

    ##TF主ルチ

    吊り橋効果 食事を終え、使った食器を全て片付けると、僕はリビングのソファへと移動した。片づけるべき家事は全て終わったから、後はお風呂が入るのを待つだけである。ルチアーノの隣に腰を下ろすと、つけっぱなしになっているテレビへと視線を向ける。僕たちの間に転がっていたリモコンを手に取ると、目的もなくテレビをザッピングした。
     代わる代わる画面に映し出されるのは、ゴールデンタイムのバラエティだ。それが見慣れないものばかりなのは、時間がいつもよりも遅いからである。シティで開催されていた小規模な大会に参加していたら、いつもより遅くなってしまったのだ。家に辿り着いた時には、すっかり八時を過ぎてしまっていた。
     テレビのリモコンを持ち直すと、僕は番組表の画面を開く。気になる番組を表示させると、メニューから番組概要を確認した。時刻は夜の九時を過ぎているから、番組は年齢層の高い視聴者を想定したものへと切り替わっている。僕が最初に切り替えたチャンネルでは、有名俳優の出演する恋愛ドラマを放送していた。
     隣の番組を確認しようと、僕はリモコンのボタンを操作する。初めて見る夜のテレビ番組は、全てが新鮮で面白かったのだ。多少は知っている番組もあるけれど、こうして詳細までを見ることは早々ない。いつもならお風呂に入った後には、ルチアーノと一緒に自室へと移動しているのだ。
     ドラマの内容を読み終えると、今度は別のチャンネルのバラエティ番組に視線を移す。こっちは大人向けのトーク番組らしく、ゲストの名前とトークテーマが書かれていた。並んでいるのは有名な女優やモデルの名前らしいが、流行りに疎い僕にはピンと来なかった。
    「どうしたんだよ。気になる番組でもあったのか?」
     真剣にテレビと向き合う僕を見て、ルチアーノは怪訝そうに眉を上げる。普段の僕があまりテレビに関心を示さないことは、彼もよく知っていたのだ。次のチャンネルの番組概要を表示させながら、僕は彼に言葉を返した。
    「そうじゃないんだけど、ちょっと珍しいなって思って。いつもだったら、この時間はお風呂に入ってるから」
     そうこうしているうちに、給湯器から軽快なメロディが流れてくる。僕たちがテレビを見ている間に、お風呂のお湯張りが終わったのだ。音が鳴り終わるか終わらないかのうちに、隣に座っていたルチアーノが腰を上げる。ちらりとこちらに視線を向けると、からかうような声色で言った。
    「風呂に行ってくるよ。とっとと順番を回さないと、君は疲れて寝ちまうからな」
    「寝たりしないよ。失礼だなぁ」
     思わず反論の言葉を返すが、彼は聞いていないようだった。軽い足取りで僕の前を通りすぎると、そのままリビングを出ていってしまう。そんな彼の後ろ姿を見届けると、僕は再びテレビに視線を戻した。
     テレビの中では、今も芸能人たちのトークが展開されている。今日のテーマは恋愛であるようで、男女が激論を繰り広げていた。とはいえ、人ではない男の子と恋人関係になっている僕には、彼らの会話など分かるはずがない。大した興味も持てないまま、僕は次のチャンネルに切り替えた。
     テレビに写し出されていく番組を、ひとつひとつ確認していく。時間帯が時間帯だからか、放送されているのはドラマがほとんどだった。それも、有名な俳優と女優が名前を連ねる、ありきたりな恋愛ドラマばっかりだ。さらにチャンネルを変え続けて、ようやくミステリードラマに辿り着いた。
     画面いっぱいに映し出されているのは、犯人と思われる女性である。すぐに犯人だと分かったのは、彼女が顔を強ばらせていたからだった。画面が次のシーンに切り替わると、自信満々な態度の若い男がトークを繰り広げる。なぜか分からないが、この手のミステリードラマの探偵役は、常に美男美女だと決まっているのだ。
     何も分からない僕の前で、男は淡々と事件を解説する。男に悪事を暴かれた女性は、近くにいた警察の手によって御用となった。被害者の身内らしき女子高生が探偵に駆け寄り、事件解決のお礼を告げている。どこかで聞いたことのあるような曲が流れて、そのドラマは幕を閉じた。
     見るものを失った僕は、再びチャンネルをザッピングする。目ぼしい番組を探していると、あるテロップが目に留まった。赤字で『検証』と書かれた見出しの隣に、『吊り橋効果は実在するのか』と書かれている。どのような意味なのか気になって、僕は一度リモコンを置いた。
     テレビ画面の中では、六人の男女が騒ぎ回っている。彼らが訪れているのは、シティでも有名なテーマパークだった。どうやらジェットコースターの順番待ちをしているようで、楽しみにしたり怖がったりと賑やかな反応を見せている。くじ引きで同乗するペアを決めると、騒ぎながらもマシンに乗り込んだ。
     どうやらこの番組では、吊り橋効果を利用した婚活を企画しているらしい。男女が一緒に絶叫マシンに乗り込むことで、相手が魅力的に見える可能性を検証しているのだそうだ。メンバーは一般の男女三人で、テレビの撮影を了承した上で参加しているらしい。企画が企画だからか、本気で結婚を考えているとは思えない人の方が多いようだった。
     とはいえ、番組の提示する企画そのものは、僕にとっても興味深いものだった。人間の感情を読み解く科学とは、観察する側からしたら面白いものである。特に、恋愛にまつわるあれこれとなれば、僕にとっては未知の世界だ。好奇心の赴くままに、僕は画面の中の男女を眺めた。
     絶叫マシンに乗った後は、婚活恒例のトークタイムに入る。散々マシンに振り回された男女が、ペアとなった相手への印象を語っていた。一通り話が終わったら、トークタイムを挟んでからおばけ屋敷へと移動していく。その次に乗ったマシンは、高所から落下するタイプのものだった。
     テレビの中の恋模様を眺めていると、背後から足音が聞こえてきた。お風呂に入っていたルチアーノが、所用を済ませてリビングへと戻ってきたのだ。何も言わずに僕の隣へと歩み寄ると、音を立てながら隣に腰を下ろした。
    「上がったぞ」
    「うん。ありがとう」
     半ば上の空で答えてから、僕はテレビに視線を戻す。画面の中の婚活企画は、いよいよクライマックスに近づいていたのだ。参加者が個別に呼び出されて、興味を持った相手がいたかを尋ねられている。インタビューの結果を踏まえた上で、最後の相手選びが始まった。
    「なんだよ。君は、婚活番組なんかを見てるのか?他人の色恋がどうこうなんて、見てても何も面白くないだろ」
     真剣にテレビに向かい合う僕を見て、ルチアーノは呆れたように言う。何も知らない彼からしたら、これはただの恋愛リアリティーショーに見えるらしい。確かに、男女を集めてカップルを成立させようとしている点で見れば、ただの婚活番組と何も変わらない。しかし、この番組が提供しているのは、ただの男女関係の変遷ではなかったのだ。
    「確かに、ただの恋愛リアリティーショーだったら、見てても面白くはないよ。でも、この番組がやってる企画は、リアリティーショーじゃないんだ」
     ちらりとルチアーノに視線を向けると、僕はそんな言葉を返した。僕の隣に座ったままの彼は、退屈そうにテレビに視線を向けている。僕の言葉が耳に入ると、眉をしかめながら視線をこちらへと向けた。
    「はあ? ただのリアリティーショーじゃないって、どういうことだよ」
    「これは、恋愛リアリティーショーの形を取った、心理学の実験企画なんだ。心理学の理論のひとつに、吊り橋効果っていうのがあるでしょう。これは、男女が一緒に絶叫マシンに乗ることで、カップル成立の確率が上がるかを試す実験なんだ」
    「ふーん。人間ってのは、いつも変なことばかり考えるんだな」
     一通り説明を聞き終えると、ルチアーノは退屈そうな声で呟く。あまり興味が持てないようで、退屈そうに足を揺らしていた。画面の中では、告白タイムを迎えた男女が、それぞれの気になった相手に声をかけている。とはいえ、元の人数が少なかったから、連絡先を交換したペアは一組だけだった。
     実験結果を簡単にまとめると、映像はスタジオのゲストへと戻っていく。これ以上見ても面白くなさそうだから、僕は再びリモコンに手を伸ばした。この後はお風呂に入る予定になっているから、電源を切ってしまってもいいだろう。そんなことを考えていると、不意にルチアーノが口を開いた。
    「なあ、君が吊り橋効果と恋愛の関連性に興味を持ったのは、自分が同じことをしてるからなのか?」
    「え?」
     予想もしていなかった言葉が飛んできて、僕は間抜けな声を上げてしまう。彼が発した言葉の意味が、僕には全く理解ができなかったのだ。僕が吊り橋効果の影響を受けているとは、いったいどのような意味なのだろう。頭上に疑問符を浮かべていると、彼は呆れたように言葉を続けた。
    「考えてもみろよ。君が僕に対して好意を抱いたのは、どう考えても吊り橋効果によるものだろ。君は、僕と身の危険を感じるデュエルをしたから、僕のことを特別な存在だと認識するようになったんだろ。そんなの、吊り橋効果以外にないじゃないか」
     呆然とする僕に言い聞かせるように、ルチアーノは淡々と言葉を並べる。まるで、僕が吊り橋効果で恋をしたとでも言わんばかりの、自信に満ちた声色だった。確かに僕たちの関係は変わっているけど、そんな曖昧なものではないはずだ。想いを否定されるようなことを言われると、どうしても反論したくなってしまう。
    「そんなことないよ。僕がルチアーノを好きになったのは、ルチアーノの姿を魅力的だと思ったからなんだ。これは僕の意思だから、心理学の効果じゃないんだよ」
     しかし、どれだけ本気で言葉を並べても、彼は聞き入れてはくれなかった。不満そうに眉を吊り上げると、鋭い声で言い返す。
    「だから、その魅力的っていう感情そのものが、吊り橋効果によるものなんだろ。君は恐怖を感じた時の心拍数の上昇を、恋愛感情によるものと勘違いしてただけなんだよ。男が男に恋愛感情を抱くなんて、普通に考えたらあり得ないだろ」
     鋭い声で語るルチアーノを見ているうちに、僕も言葉に詰まってしまった。彼が主張している理屈も、一理はあるような気がしてきたのだ。確かに、僕が彼を魅力的に感じたのは、彼が恐怖を与える存在だったからなのかもしれない。その狂気的な笑い声とおぞましい仕草には、僕の背筋を凍らせるような恐ろしさがあったのだ。
    「そうだね。生き物の仕組みから考えると、男が男の子を好きになるのはおかしいのかもしれない。でも、僕がルチアーノを大切にしたいと思ったのは、錯覚なんかじゃないんだよ。僕は、本気でルチアーノのことを好きになったから、こうして一緒にいるんだ。そうじゃなかったら、身体に触れたりなんかできないでしょう」
     内心の動揺を圧し殺すように、僕はさらに言葉を続ける。こうまでして吊り橋効果を否定したかったのは、僕が信じたくなかったからだ。僕は自分の意思でルチアーノのことを好きになって、一緒にいたいと願うようになった。本当は違ったのだとしても、僕だけはそうだと信じていたかったのだ。
     真剣に言葉を並べると、ルチアーノは不意に表情を緩めた。ほんのりと頬を赤く染めると、黙って僕から視線を逸らす。間を持たせるようにテレビへと視線を向けると、動揺の滲んだ声色で言う。
    「まあ、信じたいなら、勝手にすればいいじゃないか」
     そんな彼の横顔を見ながら、僕はソファから立ち上がった。彼が真面目な反応を返してきたことで、僕まで恥ずかしくなっていたのだ。頬がほんのりと熱くなって、背中からじわじわと汗が滲む。おもむろに彼に背を向けると、勇気を振り絞って言葉を重ねる。
    「信じるよ。僕が、ルチアーノへの愛を信じたいから」
     口にしたと同時に、顔が燃えるように熱くなる。こんな気障な言葉なんて、僕には到底似合わないだろう。いくら格好をつけようとしたって、僕はただのデュエリストなのだ。恋人に甘い言葉を残すなんて、僕がするような柄じゃなかった。
     込み上げる羞恥心を隠すように、僕は足早に部屋を出る。ルチアーノの反応を見る余裕なんて、僕には残っていなかったのだ。一刻も早くリビングから離れて、湯船に身体を沈めたい。頬を熱で赤くしたまま、僕は自分の部屋へと向かった。
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