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    流菜🍇🐥

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    本編軸っぽいようなそうじゃないようなお話です。ルチアーノ視点。アポエウの過去捏造、ルチアーノがアポリアの記憶を持っている(思い出している)、プラシドの時代の記憶を共有しているなどの要素があります。勢いだけで書きました。

    ##本編軸

    大人になんてなりたくない 自分の前髪が嫌いだった。どれだけ綺麗に直しても、一房だけ変な方向に跳ねてしまうのだ。髪が伸びて左右に分けると、その部分だけが浮いてしまって、触覚みたいだとクラスメイトにからかわれる。どれだけパパとママに褒められても、この前髪だけは好きになれなかった。

     悪夢のような出来事は、何の前触れもなく起こった。幸せだった日常を破壊するように、大きな機械たちが、ネオドミノシティを破壊したのだ。僕たちの居たショッピングモールは一瞬で倒壊し、パパとママは機械の出したビームに当たって消滅した。
     僕は、その場に座り込んだ。何が起きてるのか分からなかったのだ。変な機械が町を壊して、パパとママが居なくなるなんて、悪い夢としか思えない。頬をつねっても、夢からは覚めなかった。涙が溢れて止まらなくて、このまま、ビームに当たって死んでしまおうと思った。
     誰かに、肩を叩かれた。頭の上から、男の人の声がする。
    「君、逃げないと危ないよ」
     僕は、何も答えられなかった。怖くて、悲しくて、声すら出せなかったのだ。黙って、その場に座っていると、男の人が、無理矢理僕を立ち上がらせた。
    「行くよ!」
     強引に手を引いて、どこかへと走っていく。壊されていく町の中を、僕たちは走っていった。走って走って、息が苦しくなっても止まれなくて、走り続けた。攻撃の音が聞こえなくなった頃には、町の人影はほとんどなくなっていた。
     僕と男の人は、生き残った人たちの組織に迎え入れられた。そこには、子供から老人までたくさんの人がいて、安全な場所を渡りながら暮らしていた。僕たちは子供たちのグループに加えられ、一緒に勉強をしたり、大人たちの手伝いをしながら生活することになった。数日が経って町の探索が終わると、組織はネオドミノシティを離れて次の町へと向かうことになった。
     僕は、ひとりぼっちになってしまった。パパとママはもう居ない。友達だって、生きているかも分からない。知らない人たちに救われて、僕だけが生き残ってしまった。そして、今度はこの町を離れるのだ。
     男の人は、自分をパパのように思っていいからねと言ってくれたけど、僕は本当のパパのところへ行きたかった。僕ひとりだけが生きていても、寂しいだけだったから。

     そうして、僕は組織と一緒に移動する生活を続けた。世界中にはネオドミノシティのように機械に壊された町がたくさんあって、僕が所属する組織は生き残りの人々を助けながら機械と戦う手段を探していた。
     いくつもの町を巡って、何度か季節が変わって、新しく年を取った頃に、僕は、ひとりの女の子と出会った。
     その女の子は、別の町で拾われた生き残りだった。大人たちと一緒に、小さな集団の中で生き残っていたらしい。凛々しくて、僕が初めて顔を合わせた時も、幼い子供の手を引きながら、安心させるように何かを話しかけていた。
     その子を見た時、僕は目が離せなくなってしまった。その女の子の容姿は、とても綺麗だったのだ。長く伸びた真っ黒な髪に、真っ白な肌。凛々しい顔立ちは、男の子のようにも見えるけど、線が細くて柔らかくて、やっぱり女の子の顔だった。
     でも、僕が一番気になったのは、綺麗なところじゃなかった。その子の前髪も、触覚みたいに跳ねていたのだ。
     彼女は、僕たちを見てにこりと微笑んだ。花のような、綺麗な笑顔だった。
    「私はエウレア。よろしくね」

     それから、僕とエウレアは同じ組織で生活するようになった。彼女は僕よりも少し年上で、子供たちをまとめるリーダーのような存在になった。
     僕は、いつもひとりぼっちだった。どれだけ季節が過ぎても、両親を失くした悲しみは癒えなかったのだ。誰とも関わりたくなくて、部屋の片隅で本を読んだりしていた。
     そんな僕に、エウレアは声をかけてきた。凛々しくも美しい顔に微笑みを浮かべて、寄り添うように語りかける。
    「ねぇ、貴方もこっちに来ない?」
     僕は、静かに首を振った。まだ、人の輪には入りたくなかったのだ。
     彼女は、それ以上何も言わなかった。
    「そう。いつでも待ってるから、気が向いたら来てね」
     そう言って僕を見て、何かに気づいたような顔をした。自分の前髪を指差して笑う。
    「髪型、お揃いね」
     それまで、僕は自分の前髪が嫌いだった。どれだけ綺麗に直しても、一房だけ変な方向に跳ねてしまうのだ。前髪が伸びて左右に分けると、その部分だけが浮いてしまって、触覚みたいだとクラスメイトにからかわれる。
     でも、その日から、僕は少しだけ、自分の前髪が嫌いじゃなくなった。

     その日から、僕はエウレアと話をするようになった。何度か話をするうちに、仲間とも話せるようになって、僕は本当に組織の一員になった。
     さらに季節が流れて、僕たちが子供ではいられなくなると、武器を持って戦いの訓練をするようになった。銃器や火器を使って、機械たちと戦うのだという。勝ち目のない僕たちの、ささやかな抵抗だった。
    「ねぇ、✕✕✕は、大人になったら何になりたいの?」
     訓練の休憩時間に、エウレアはそう尋ねた。今になって思うと、それは、ただの暇潰しの質問だったのだと思う。その時の僕には、そんなことは分からなかった。
    「僕は、強くなりたいよ。強くなって、エウレアを守りたい」
     僕が真面目に答えると、彼女は面白がって笑った。口元を手で押さえて、控えめに笑う。
    「そんなの無理よ。今だって、私の方が強いんだから」
    「すぐに追い越すよ。僕は男の子だから、もっと背が伸びるし、力も強くなるんだ。そうしたら、僕が君を守るよ」
     エウレアは、本気にしてはくれなかったと思う。その時の僕は、まだ彼女よりも背が低くて、力も弱かったから。
    「そう。いつかきっと、私を守ってね」
     僕は、強くなりたかった。今よりももっと強くなって、彼女を守りたかったのだ。僕が初めて好きになった女の子を。
     彼女とずっと一緒にいたい。僕は、いつしかそう思うようになっていた。
     でも、その願いが、叶うことは無かった。


     目を覚ますと、暗い部屋に横たわっていた。ゆっくりと身体を持ち上げる。手を曲げ伸ばしすると、身体に繋がれていたコードを外して立ち上がった。
     嫌な夢を見ていた。僕ではない誰かの、幼い頃の記憶だ。人間は記憶を整理するために夢を見るというけれど、機械である僕たちにそんな機能はいらない。神様の気まぐれによって、僕は他人の記憶に振り回されることになってしまった。
    「目が覚めたか」
     どこからか、仲間の声が聞こえた。プラシドが僕の方に視線を向けている。
    「何があったんだよ」
     僕が尋ねると、彼は呆れたような顔をした。
    「覚えてないのか。デュエルに負けて、水の中に落ちたんだぞ」
     何も覚えてなかった。僕が負けた? 何かの間違いじゃないだろうか。
    「それ、本当かよ」
     僕は言う。こいつは、信用ならないのだ。これも嘘かもしれなかった。
     プラシドは黙ったまま手元に視線を戻した。手を動かして、何かをいじっている。真っ黒な身体をした、人型の物体だ。
    「なんだよ、それ」
    「これは、不動遊星を倒すための機械だ。これを使って、俺は、俺たちの未来を守ってみせる」
     また、何かを企んでいるらしい。何度も負けてるのに、懲りないやつだ。
     守る、なんて、よく言えるものだ。僕たちは、何一つ守れなかったのに。両親を失い、恋人を失い、仲間さえ失って、『僕』はひとりになった。

    ──大切な人すら、守れなかったくせに

     それは、言ってはいけない言葉だと分かっている。それでも、僕はそう思わざるを得なかった。大人になった『僕』は、エウレアを連れて前線に出て、彼女を永遠に失ったのだ。
     大人になんてなりたくなかった。大人になることに、夢や希望なんて一つもない。自分は強いのだと傲って、大切なものを失うのだ。
     僕は、大人になんてならない。傲って身の程知らずな振る舞いをすることもなければ、勝手な行動で味方を危険に晒すこともしない。僕はいい子でいるのだ。神様に愛される、いい子に。
     機械であるこの身体が、成長することはない。それでも、自分が変わっていってしまうことは、何よりも怖かった。
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