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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。TF主くんに依存してるルチの話です。ルチのメンタルが弱くて子供っぽいので苦手な人は注意してください。

    ##TF主ルチ

    溺れる 夢を見ていた。
     灰色の床が広がる運動施設に、何人かの子供たちが集められている。子供たちは床に腰を下ろし、足を抱え込むような姿勢で座っていた。全員が体操着に身を包み、シャツをズボンの中に入れている。前にはジャージ姿の男がいて、彼らの姿を見つめていた。
    「では、二人一組になってください」
     男が、にこやかな笑顔で子供たちに声をかける。座っていた子供たちが、一斉に立ち上がって歩き始める。彼らは思い思いに友人の元を尋ね、ペアを作っては腰を下ろした。
     その様子を、少年は後ろから眺めていた。子供たちは次々にペアを成立させ、床の上に座っていく。残された一部の子供たちも、少年の姿をちらりと見ると、渋々といった様子でペアを作った。全ての子供が座り、少年だけが取り残される。ぽつんと佇む少年を見て、男は子供たちに声をかけた。
    「誰か、✕✕✕を入れてくれるチームはいないか?」
     子供たちが、黙って顔を見合わせる。しばらくすると、そのうちの一人が声を上げた。
    「嫌です」
    「そんなこと言わないでさ。クラスの仲間だろ」
     男が諭すように言うと、子供たちは一斉に目を逸らした。ざわざわとざわめくと口々に反論する。
    「仲間じゃありません」
    「人殺しなんて、仲間じゃありません」
     少年は駆け出していた。両手で扉を押し開けると、建物の中を疾走する。出入り口に辿り着くと、上履きのまま外へと飛び出した。砂の敷き詰められたグラウンドを走り、自分の家を目指して駆け抜ける。顔を上げることが怖くて、視線は下に下げられたままだ。町中の人々が、自分の噂をしているみたいだった。
     家の庭では、母親が花に水をやっていた。赤色の大きなじょうろが、柔らかい水を土の上に吐き出している。彼女は、少年の姿に気がつくと、にこりと笑って言った。
    「おかえり、×××。早かったわね」
     その言葉を聞いて、少年はようやく安心した。泣きそうな顔で笑うと、言葉を返そうとする。ようやく口を開きかけた時に、母親が表情を失った。
    「違う」
     冷たい声が、少年の心臓に突き刺さる。そこには、一切の感情が含まれていなかった。冷ややかな声を発すると、母親は少年に言葉を突きつける。それは、彼が一番恐れている言葉だった。
    「人殺しなんて、私の子供じゃないわ」

     目を開けると、そこは青年の部屋の中だった。柔らかいベッドと、熱の籠った布団が、優しくルチアーノの身体を包み込んでいる。布団の隙間から顔を出すと、大きく深呼吸をした。
     変な夢を見た。子供たちの言葉は妙に生々しくて、彼の心を締め付けた。心臓は早鐘のように鳴り響き、息が苦しくなる。彼は、学校なんて通ったことがないし、両親だっていないのだ。使命を咎めるような存在なんて、この世にはいないはずなのに。
     呼吸が落ち着くと、ルチアーノは隣に視線を向けた。そこには、恋人である青年が眠っているはずである。彼は特異な人間で、ルチアーノが甘えれば理由も聞かずに受け入れてくれた。彼の温もりに触れると、ルチアーノは安心できるのだ。
     しかし、そこに青年の姿はなかった。脱け殻のような布団だけが、寂しげに取り残されている。布団の中には人型の隙間が空いていて、仄かに温もりが残っていた。ついさっきまで、ここで眠っていたようだ。
     ルチアーノは不安になった。青年は、いったいどこに行ったのだろうか。こんな夜中に向かう場所なんて、常識的に考えれば存在しない。そもそも、この青年は夜中に出かけるような性格ではないのだ。
     もしかしたらと考えて、ルチアーノは小さく息を飲む。あの青年は、彼から逃れるために家を出ていったのではないだろうか。人間の価値観で評価すれば、彼は人殺し以外の何物でもないのだ。さっきまで見ていた夢も相まって、悪い方向にばかり考えてしまう。
     ルチアーノは布団から這い出した。暗視機能を稼働すると、青年の姿を探しながら部屋から出る。不安に胸を覆われて、そうせずにはいられなかったのだ。通路の隅からは、ほんのりと灯りが見えていた。どうやら、目的の人物はリビングにいるらしい。部屋の扉を開けると、首を回して室内を見渡した。
     灯りがついていたのは、キッチンだった。彼の探していた青年が、冷蔵庫を開けていたのである。ほんのりと漏れる光は暗闇のリビングを照らし、廊下まで流れていたのだ。冷蔵庫のドアが閉まると、部屋は再び暗闇に包まれた。
     ルチアーノは、青年の背後に近づいた。音も立てずににじり寄ると、黙ってその背中に抱きつく。青年が、驚いたように硬直した。
    「わっ!…………なんだ、ルチアーノか」
    「……こんなところで何してるんだよ」
     思っていたよりも覇気の無い声になって、ルチアーノは自分に辟易する。自分は、いつの間にこれほど弱くなってしまったのだろう。ひと月も前の彼であれば、一人の夜も怖い夢も、恐れることなどなかったのに。
    「ちょっと、トイレに行きたくなっちゃって。ついでに水を飲んでたんだ」
     気づいているのかいないのか、青年は態度を変えずに言葉を返した。彼のそんな性格が、ルチアーノは嫌いではない。秘密を抱える彼にとって、深入りされないことは何よりも重要だったのだ。
    「急にいなくなったら心配するだろ。一言くらい声をかけろよ」
    「だって、ルチアーノは寝てたから。起こしちゃうのも悪いでしょ」
    「それはそうだけどさ……」
     話を続けながら、青年は手に持っていたコップをシンクに置いた。その後ろを、ルチアーノがぴったりとくっついたままついていく。廊下を歩き、部屋の中に入るまで、彼は青年の背後から離れなかった。
     ベッドの前に着くと、ルチアーノは黙って手を離した。青年の後に続いて、布団の中に潜り込んでいく。シーツの上で向かい合うと、青年は静かに両腕を開いた。
    「ルチアーノ、おいで」
     青年の言葉に、ルチアーノは頬を膨らました。拗ねたように視線を逸らすと、小さな声で答える。
    「そういうの、やめろよ。格下扱いされてるみたいで不快だ」
    「ごめん。じゃあ、言い方を変えるね。…………ぎゅっとしてもいいかな?」
    「好きにしろよ」
     短い会話を交わすと、青年はルチアーノの背中に腕を回した。二回りは小さいその身体を、お腹に抱え込むように抱き締める。青年の胸に顔を埋めると、ルチアーノも腕を伸ばした。
     青年の腕の中で、彼は静かに涙を流した。泣きたくはないのに、瞳から熱い水が溢れて、なかなか止まってくれなかったのだ。鼻を啜り、身体を震わせながら、彼は悲しみを吐き出した。
    「ごめんね。心配させちゃったね。もう、大丈夫だからね」
     優しい声で囁きながら、青年はルチアーノの背中を撫でる。その温もりに安心している自分に気がついて、彼はまた辟易した。
    「別に、そんなんじゃ、ないよ」
     強がる声は鼻声で、うまく言葉にならなかった。慈しむような手つきで、青年はルチアーノの身体を撫でている。子供のような扱いをされているのに、それが妙に心地よかった。
    「大丈夫だよ。僕は、ルチアーノのことを嫌いになったりはしないし、置いていったりもしない。だから、ルチアーノも僕を置いていかないでね」
    「分かってるよ」
    「約束だよ」
     青年の言葉は、真っ直ぐにルチアーノの耳に届いた。叶うはずもない約束を、青年は本気で信じている。こんなにも滑稽な姿なのに、彼には笑うことができなかったのだ。
     この青年は、どこまでも優しいのだ。ルチアーノに寄り添い、その孤独を癒してくれる、この世で唯一の存在だ。青年を失うことは、彼にとって、拠り所を失うことに匹敵するのだろう。
     溺れている。その優しさに、温もりに。依存している、その温かい心に。一時的に利用して、すぐに捨てるはずだったただの人間は、いつの間にか、失うことのできない存在になっていた。
     青年が、ルチアーノの頭を撫でた。海のように広い優しさが、再び彼の身体を包み込む。温もりの渦に身を任せるように、彼はそっと瞳を閉じた。
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