Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

    文章や絵を投げます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💕 🍇 🐥 🍣
    POIPOI 431

    流菜🍇🐥

    ☆quiet follow

    TF主ルチの死者の日。死者を弔う姿をTF主くんに見せるルチの話。テーマがテーマなのでシリアスです。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    死者の日 身体の上に、何かが飛び乗るような感覚があった。しばらくしてから、頬をパチンと叩かれる。驚いて目を開けるが、部屋の中は真っ暗なだけだ。僅かな明かりだけが差し込む室内に、小さな影が佇んでいる。
    「おい、起きろよ」
     頭上から、聞き慣れた声が聞こえてきた。いつもなら明るく震えているはずのその声も、今日は少し平坦だ。嫌な予感を感じながら、僕はゆっくりと身体を起こした。
    「どうしたの?」
    「出かけるぞ。支度しな」
     一方的に言葉を押し付けられて、僕はベッドから這い出す。目覚まし時計に視線を向けると、表示は明け方の四時を示していた。嫌な予感がさらに増大する。このような時間に僕を起こす時、彼は大抵恐ろしいことを企んでいるのだ。
    「どこに行くつもりなの? それだけは教えて」
     尋ねても、彼は答えてくれなかった。ベッドの上で足を組むと、冷たい声で言う。
    「いいから、とっとと支度しな」
     こんな態度を取られたら、逆らうことなんてできなかった。わざわざ僕を起こすくらいだから、譲れない事情があるのだろう。彼のパートナーとして生きることを決めた以上、どんなに恐ろしいことでも受け入れなくてはならない。
     洗面所に向かうと、顔を洗って服を着替えた。朝食を取ろうかと思ったが、過去にひどい目に遭ったことを思い出して手が止まる。チョーカーを身に付け鞄を手に取ると、恐る恐るルチアーノに声をかけた。
    「できたよ」
     彼は、足音を立てながら僕の前へと移動した。仏頂面を浮かべながら、黙って僕の腕を掴む。いつもはうるさいくらいに饒舌な彼が、今はほとんど無駄話をしていない。嫌な予感を通り越して気味が悪かった。
    「行くぞ」
     そう言うと、彼はワープ装置を起動した。僕たちの身体が、光の粒子に包み込まれる。目的地さえ分からないまま、僕の身体は空間の狭間に吸い込まれた。

     気がつくと、暗闇の中に立っていた。屋外であるらしく、冷たい風が身体をなぞっていく。暗くてよく見えないが、目の前には大きな壁が聳え立っていて、鈍い音を発しているらしい。目が闇に慣れるまで、僕は何度も瞬きした。
     しばらくすると、周囲がはっきりと見えてきた。視界を覆う大きな壁は、円柱状をした建物の外壁であるらしい。どこかで見たことのあるその姿は、古びたモーメントだった。
    「ここは……」
    「旧モーメントだよ」
     僕の問いに、ルチアーノが淡々と回答を投げる。次の問いを投げる前に、彼は足を踏み出した。
     慌てて追いかけようとすると、彼は片手を上げて僕を制止した。戸惑いながらも足を止める僕に、やっぱり淡々とした声で言う。
    「僕一人でいい」
     彼は、足音も立てずにモーメントの前へと移動した。身に纏っている白い布を持ち上げ、光を放つと、そこから何かを引っ張り出す。暗くてあまり見えないが、大きな袋を二つ取り出しているらしい。
     僕は、黙って彼の様子を眺めていた。彼の言葉を信じるなら、ここは一般市民の立ち入りが禁止されている危険エリアだ。旧モーメントはかつてシティとサテライトを分断した原因であり、遊星の人生を支配する呪いそのものである。それだけじゃない。ルチアーノにとっても、この存在は忌むべきものだろう。なぜ、わざわざこの場所に来たのだろうか。
     ルチアーノは袋を開くと、中から何かを取り出した。次々に取り出した何かを、等間隔に壁の前に並べていく。固いものが地面に当たり、こつんと小さな音を立てた。
     身体を伸ばすと、今度はポケットから何かを取り出す。手元が動いて、暗闇の中に明るい光が瞬いた。光は端に置かれた物体に近付き、先端に灯りを灯す。
     それは、蝋燭だった。蝋燭の灯りに照らされて、周辺に置かれた物体が姿を現す。穏やかな光の隣には、パンやペットボトル、オレンジ色の花が並んでいた。
     ルチアーノはくるりと振り向いた。もうひとつの袋を手に取ると、中に手を突っ込む。引き抜いた手を真上に上げると、掴んでいた何かを振り撒いた。
     オレンジ色に輝く何かが、ひらひらと宙を舞う。それは軽い素材でできているようで、上空をひらひらと滞空してから、音も立てずに地上へと落ちていく。よく見ると、マリーゴールドの花びらだった。
     ルチアーノは何度も袋に手を入れ、マリーゴールドの花びらを撒いていく。あっという間に周囲の地面はオレンジ色に染まっていった。最後に袋をひっくり返すと、残りの花びらを敷き詰める。空になった袋を片付けると、黙ってこちらへと歩いてきた。
    「帰るぞ」
     一言だけ告げると、僕の両腕に手を回す。光の粒子が僕たちを包み込み、身体を宙に浮かべた。何一つ理由は明かされないまま、僕たちの身体は空間の狭間へと消えていった。

     温かい布団の中で、僕はルチアーノと向かい合った。腕を真っ直ぐに伸ばすと、身体をぴったりとくっつける。人間と変わらない温もりが、僕の腕の中に伝わってきた。寝不足なこともあって、少し眠くなってしまった。
    「なあ」
     不意に、ルチアーノが口を開いた。耳元で響く声に、僕も再び目を開ける。返事を待つこともなく、彼は次の言葉を発した。
    「去年の今頃、君はこんな話をしてたよな。十一月の二日は、死者の魂を迎え入れる日だって」
    「そうだね」
     僕は答える。あの頃の僕は、ルチアーノが何者かなんて少しも知らなかったのだ。今になって思うと、残酷なことを言ったものだ。死者を迎え入れるなんて、ルチアーノ自身も死者なのに。
    「死者の日に飾るものは、全て死者への捧げ物らしいな。死者を導く蝋燭に、死者の口を潤す水。死者の空腹をしのぐためのパンに、太陽を象徴するマリーゴールド。全部、死者のためのものだ」
     ルチアーノは語る。それは、彼がモーメントの前に捧げていたものだった。あれは、死者の日の捧げ物だったのだ。その言葉を聞いて、ようやく僕は納得した。
    「……なあ、僕の捧げ物は、ちゃんと届いたかな。僕の両親と、死んでいった仲間たちに」
     隣からは、消え入りそうな声が聞こえてくる。珍しく弱々しい声だった。それほどまでに、死者の日の風習は彼の心に傷を残したのだろうか。
    「大丈夫。ちゃんと届いたよ」
     答えると、彼は安心したように笑った。僕の背中に腕を伸ばすと、身体を抱き締めてくれる。ぴったりと身体をくっつけたまま、しばらくお互いの温もりを感じていた。
     ルチアーノは、死者を模したアンドロイドなのだ。こんなに人間そっくりでも、人間ではない。一度命を失い、その事を自覚しながら生きているのだ。
     彼にとって、死者を弔うとはどのようなことなのだろう。意味のあることだと思うのだろうか。それとも、無意味としか思えないことなのだろうか。どちらにしても、彼の心が救われてくれたらいいと、僕は思うのだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏🙏💖💖💞😭🙏👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works