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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチに浮気を咎められるかと思ったらそうではなかった話。

    ##TF主ルチ

    浮気 シティ繁華街は、今日も賑わっていた。大通りを覆い尽くすように、人々が行き交っている。休日の昼間となると、町の人通りは格段に増えるのだ。流れに乗って歩いてくる人々を、身体を反らしてかわしながら先へと進む。実を言うと、僕は人を避けるのが得意ではない。リンボーダンスのようになりながら歩いていると、不意に背後から声をかけられた。
    「あら、○○○じゃない」
     大人びていて、落ち着いた雰囲気の女性の声だった。妖艶な美女というのに相応しい感じだが、僕にとっては聞き慣れた声である。振り返ると、私服姿のアキが立っていた。
    「アキ? こんなところでどうしたの?」
     尋ねると、アキは優しい笑みを浮かべた。こうして微笑んでいると、彼女の姿は深窓の令嬢にしか見えない。これでジャックにも負けないほどの気の強さなのだから、ファンが付くのも当然だ。
    「私は、買い物に来たのよ。遊星たちは、ずっとガレージに籠ってメンテナンスをしてるでしょう? 差し入れを贈ろうと思って」
     アキらしい答えだった。彼女は、そういう気遣いができる人なのだ。
    「そうなんだ。良かったら、僕からもよろしく伝えておいて」
     答えると、アキは僕の隣に視線を向けた。ルチアーノがいないことを確認すると、表情を少し変える。何かを考えているような様子だった。
    「今日は、あの子はいないのね。……丁度良かったわ」
    「どうしたの?」
     僕の問いに答えるように、アキが歩を進めた。動いたら触れてしまいそうな至近距離に、彼女の身体が近づく。女性に距離を詰められた緊張感で、心臓がドクドクと鳴った。
    「良かったら、どこかでお茶をしない? 話したいことがあるの」
    「えっ!?」
     突然の申し出に、上ずった声が出てしまった。アキがそんなことを言うなんて、予想もしていなかったのだ。言葉を選びながらも、なんとか断りの意思を伝える。
    「ごめん。女の子とお茶をするのは、ちょっと遠慮したいかな。ルチアーノが嫌がるからさ」
     僕の言葉を聞くと、アキは笑みを浮かべた。
    「違うわ。そういうことじゃないのよ。貴方に、伝えておきたいことがあるの。ここでは話せないことだから、場所を変えましょう」
     どうやら、僕の勘違いみたいだった。恥ずかしさで、頬がほんのりと熱くなる。そもそも、アキには遊星がいるのだ。正々堂々と僕を誘うようなことがあるとは思えなかった。
    「そういうことなら、もちろん聞くよ。案内してくれる?」
     アキの後に続いて、僕は繁華街の中を歩いていく。真面目な話をするとしても、女の子と話すことには変わりないのではないだろうか。そんなことに気がついたけど、もう引き返すことはできなかった。

     アキが案内したのは、小さな喫茶店だった。装飾の少ない店内に、穏やかな音楽がかけられている。落ち着いた雰囲気のお店だけど、お喋りをする人はそれなりに多いらしい。内緒話にはぴったりな場所だった。
     席につくと、僕はコーヒーとケーキを注文した。アキは甘いものが好きではないから、紅茶だけを注文している。案の定、店員さんの運んだケーキは、アキの前に運ばれてしまった。
    「それで、話ってなに?」
     ケーキにフォークを突き刺しながら、僕は彼女に尋ねる。頼んだ食べ物が届くまで、本題を避けていたのだ。僕に促され、アキは静かに表情を強ばらせた。言いづらそうに間を開けながらも、選ぶように言葉を告げる。
    「アルカディアムーブメントの残党が、水面下で活動を始めていることは知っているわよね。旧サテライトエリアや旧ダイモンエリアで、民間人を相手に闇のカードを使っているって、たまにニュースでやってるもの」
    「知ってるよ。遊星から聞いてるし、僕も戦ったことがあるから」
     アルカディアムーブメントの復活は、一般的には知られていない。知っているのは、僕たちのような関係者だけだ。僕は正式な関係者ではないのだけど、遊星の仲間であり、ルチアーノと繋がりがあることを考慮されて伝えられているのだ。
    「なら話は早いわね。その事について、話しておきたいことがあるの」
     そう言うと、アキは一口だけ紅茶を口にした。少しの間を開けてから、言葉を噛み締めるように言う。
    「アルカディアムーブメントの残党から、私に接触があったわ」
    「えっ!?」
     また、大きな声が出てしまった。慌てて口を塞いでから、キョロキョロと周りの様子を伺う。内緒話をするために場所を変えたのに、目立ってしまっては元も子もなかった。
    「それで、何を言われたの?」
     顔を近づけながら、僕は一番の疑問を尋ねた。声を潜めると、どうしてもこの距離感になってしまうのだ。彼女もそれは承知しているようで、気にすることもなく言葉を続ける。
    「アルカディアムーブメントに戻らないか、って言われたわ。かつての総帥が、私の存在を求めているって。私にとっては、忌まわしい記憶でしかないのだけど」
    「それは、断ったんだよね?」
    「当たり前でしょう。今さらアルカディアムーブメントに戻るメリットなんて無いわ。私には、チーム5D'sという居場所があるんだもの」
     アキの言葉は、自分に言い聞かせているように聞こえた。彼女は、アルカディアムーブメントの総帥に洗脳されていたのだ。遊星の説得によって正気に戻ったものの、その記憶はずっと彼女を縛っている。深層心理の奥深くで、洗脳が効いていたとしてもおかしくはなかった。
    「そっか、良かった。教えてくれてありがとう」
     そう言うと、アキは困ったような顔をした。
    「お礼を言われるようなことじゃないわよ」
     話を終えると、僕たちはすぐにお店を出た。二人で話しているところを、アルカディアムーブメントに知られたら面倒なことになる。問題が解決するまでは、会うことも難しいだろう。そんなことを考えながら、町へと去っていくアキを見つめる。
     家に帰ると、ルチアーノが待ち構えていた。リビングの扉に仁王立ちをして、廊下を歩く僕を見つめていた。その瞳の冷たさからは、強い怒りが感じられる。彼は、相当怒っているようだ。僕がアキと話をしていたのを、モニター越しに見ていたのだろう。
    「ずいぶん遅かったな」
     押し殺したような低い声が、僕の耳に突き刺さる。声色からも、相当怒っていることが感じられた。これは、弁解しても無駄だろう。素直に謝るしかなかった。
    「遅くなってごめんね」
     謝罪の声は、ルチアーノの耳には入らなかった。表情を殺したまま、静かに距離を縮めてくる。背筋が凍る思いがした。
    「シグナーとの密会は、そんなに楽しかったのかい? 」
    「密会じゃないよ。アキとは、アルカディアムーブメントに関する話をしてたんだ。ルチアーノも、この情報は必要だったでしょ」
     冷や汗を垂らしながら、僕は言葉を選んだ。ルチアーノを刺激しないように、なんとか説得しようとする。彼は、少しも聞く耳を持たなかった。
    「そんなことを口実に浮気をしてたとはな。監視しておいて良かったぜ」
     強い威圧を放ちながら、彼は言葉を続ける。恐る恐る目を見て、僕は身体から力が抜けてしまった。
     ルチアーノの口元は、にやりと歪められていたのだ。彼が僕をからかうときに見せる、意地悪な笑顔である。よく見ると、目元も僅かに歪んでいた。
    「…………もしかして、僕のことをからかってる?」
     尋ねると、彼はきひひと笑った。
    「なんだ。バレちゃったのか」
     にやにやと笑いながら、楽しそうに僕を見上げる。完全にからかわれているようだった。
    「今回のことは、多めに見てやるよ。僕も、アルカディアムーブメントに関する情報は欲しいからな」
    「なんだ……。びっくりした……」
     安心すると、口から息が漏れた。大きく息を付いてから、その場にへたりこむ。僕は、彼が本気で怒っているんじゃないかと、気が気じゃなかったのだ。
    「なんだよ。それじゃあ、僕が浮気にうるさいやつみたいじゃないか」
     僕の反応を見て、ルチアーノは不満そうに言葉を吐く。あまりにもな反応に、思わず反論の声が出てしまった。
    「だって、そうでしょう? ルチアーノは、僕が遊星たちと話をしてただけで怒ったりしてたんだから」
    「それは、君が僕に黙ってシグナーと密会してたからだろ? 言いがかりはやめろよ」
    「密会って! そんな色めいたことじゃ無いよ。僕たちは、アルカディアムーブメントと対抗するために情報を共有してるだけなんだから」
    「どうだかな。そんなこと言って、情報収集を口実にしてるだけなんじゃないのかい?」
     埒が明かなかった。僕はこんなにルチアーノを想っているのに、どうして彼は僕を疑うのだろう。少しムッとして、強い言葉が出てしまった。
    「じゃあ、教えてよ。ルチアーノにとって、何が浮気になるの?」
     ルチアーノは僅かに考えるような顔をした。視線を宙に浮かべると、すぐに僕の方へと戻す。口角をにやりと上げてから、からかうような声色で言った。
    「そんなの、僕が浮気だと思ったものが浮気に決まってるだろ」
     彼らしい答えだった。そんなことを言われたら、僕には何も反論できない。おとなしく言葉を引っ込めるしかなかった。
    「ずるいよ。そんなこと言ったら、何でも浮気になるでしょ」
     僕が肩を落とすと、ルチアーノはきひひと笑った。にやにやと笑ったまま、僕に顔を近づける。
    「浮気だと思われたくなかったら、疑わしい行動はやめるんだな。僕のことを尊重しているなら、それくらいできるだろ」
     淡々とした態度で、ルチアーノは言葉を続ける。その言葉は、僕にとっては無理難題でしかなかった。何が浮気になるのかも分からないのに、疑われることをするななんて、誰とも関わるなと言っているようなものだ。もしかしたら、本当にそう言っているのかもしれない。ルチアーノは、そういう男の子なのだ。
    「難しいことを言うなぁ。…………努力はするけどさ」
    「ひひっ。破ったらお仕置きだからな。覚えてろよ」
     ルチアーノはにやりと笑う。その笑顔は、僕には悪魔の笑みに見えた。
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