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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。TF主くんがルチに語尾が『にゃ』になる暗示をかけられておもちゃにされる話です。

    ##TF主ルチ

    「なあ、君。これを飲んでくれないかい?」
     夕食を終えると、ルチアーノは僕にそう言った。にやにやと笑みを浮かべながら、液体の入ったグラスを差し出す。そこには、炭酸を含んだ
    薄黄色の液体がしゅわしゅわと泡を立てていた。いかにも怪しげな佇まいに、ついつい眉が歪んでしまう。
    「嫌だよ。そんな怪しいもの。また、この前みたいなひどい目に遭うかもしれないし」
     さすがに、僕も厳しい言葉を返すしかなかった。ルチアーノの差し出してくる飲み物には、苦い思い出があったのだ。迂闊に口にしては、どんな目に遭うか分からなかった。
    「断るつもりかい? だったら、セキュリティに君との関係をバラしてやろうかな。未成年淫行をしてるって知ったら、やつらは放っておかないだろ」
     にやにやと笑いながら、彼は定番の言葉を吐く。『未成年淫行』は、彼の脅しの常套手段だ。僕を牽制したいことがある時に、よくこの言葉を使うのである。
    「ルチアーノは子供じゃないんでしょ。……というか、そこまでして飲んでほしいの? 余計に怪しいよ」
     ここまで食い下がると言うことは、彼にはこの液体を飲ませたい理由があるのだろう。前のことがあるから、僕としては絶対に避けたい。様子を窺っていると、彼はくすくすと笑い声を上げた。
    「前とは違うから安心しなよ。変な意味で元気になったりはしないぜ。まあ、変なことは起きるけどな」
    「変なことが起きるって知って、飲むわけないでしょ」
     無視して片付けようとするが、無理矢理手を捕まれてしまった。
    「飲むまで、この手は離さないからな。観念しろよ」
     そこまでされたら、黙って受け入れるしかなかった。元から、選択肢など無いも同然なのだ。
    「分かったよ。飲めばいいんでしょ」
     グラスを手に取ると、一気に中身を飲み込んだ。ジュースのように甘ったるい液体が、ぱちぱちと口の中で弾けていく。心配していたが、変な味はしなかった。
    「飲んだな。ほら、動いていいぞ」
     満足したのか、ルチアーノは興味を失ったように僕を解放する。目的は達成したと言わんばかりの態度だった。
    「で、これ、何だったの?」
     食器をシンクに運びながら、僕はルチアーノに声をかける。罠だと知りながら口にしているのだ。何を飲まされたのか、気になって仕方ない。しかし、彼に簡単に教える気はないようで、笑みを含んだ声が返ってきた。
    「そんなに焦らなくても、そのうち分かるぜ」
     こうなったら、絶対に教えてはくれないだろう。不安になりながらも、食器を洗って入浴の準備をする。お風呂のスイッチを押してリビングに戻ると、机の上に雑誌が広げられていた。
     動物特集の記事らしく、紙面には猫の写真が載っている。ルチアーノは、あまり動物に興味がないはずだ。多少の珍しさを感じながらも、ページを閉じて机の隅に寄せた。

     異変が起きたのは、それから二十分ほど経った頃だった。お風呂のお湯張りが終わって、ルチアーノに声をかけようとしたときに、その現象は起きたのだ。明確に話し合ったわけではないのだが、この家では一番風呂に入るのはルチアーノという暗黙の了解がある。彼に知らせようとして、僕は口を開いた。
    「お風呂入ったよ……にゃっ」
     口からついた言葉に、自分でびっくりしてしまった。今、僕はなんと言ったのだろう。予想もしないような珍妙な語尾が飛び出した気がした。
    「今の、なに…………にゃっ!」
     再びおかしな語尾がついて、僕は慌てて口を塞ぐ。ルチアーノがソファから立ち上がると、満面の笑みならぬ満面のにやけ顔で僕を見た。
    「どうやら、薬はちゃんと効いたようだな。君が単純なやつで良かったよ」
     その一言で、僕は全てを察した。真っ直ぐにルチアーノを見つめると、抗議の声を上げようとする。
    「もしかして、あの飲み物のせい…………にゃっ!」
     またしても語尾がついてしまって、僕は悔しさに唇を噛んだ。今の僕は、何を言おうとしても語尾に『にゃ』がついてしまう。怒ったところで、覇気なんて微塵にも無かった。
    「そうだよ。あの薬には、人間を暗示にかけやすくする成分が入ってるんだ。今の君は、猫になりきってしまうだろうね」
    「もしかして、机の上に置いてあった雑誌も…………にゃっ!」
    「あれも、君に猫の暗示をかけるための道具だったのさ。……まあ、こんなに上手くいくとは思わなかったけどね」
     にやにやと笑いながら、ルチアーノは部屋から出ていった。いつも通りお風呂に入るつもりなのだろう。そんな彼の姿を見送ってから、僕は途方に暮れた。
     彼の言う通り、今の僕は猫になりきっているのだろう。何を言っても語尾に『にゃ』がついてしまうから、まともに話すことができない。お風呂から上がったら、ルチアーノは僕に会話を求めて来るだろう。そうなったら、おもちゃにされるのは確実だった。
     語尾が直ることはないまま、時間は刻一刻と過ぎていく。しばらくすると、髪をタオルで巻いたルチアーノが、軽い足取りで部屋に入ってきた。僕をからかうのが楽しみで、髪も乾かさずに出てきたらしい。この時ばかりは、本当に意地悪なやつだと思った。
    「上がったぜ。風呂に行きなよ」
    「…………」
     ルチアーノに言われ、僕は無言のまま立ち上がる。今、声を上げたら、確実に語尾が猫になってしまうだろう。
    「おい、何か言えよ」
     そのまま部屋を出ようとしたら、後ろから声をかけられた。せっかく用意したおもちゃなのだ。逃がすつもりはないのだろう。悔しいが、口を開くしかなさそうだった。
    「にゃあ」
     鳴き声だけを返すと、部屋を出て浴室へと向かった。あまりいい態度ではないが、これも仕方ない。元々は、ルチアーノのいたずらがきっかけなのだから。

    「おい」
    「聞いてるのか?」
    「何か言えよ」
    「返事しろって」
     隣からは、畳み掛けるようにルチアーノの声が聞こえてくる。これ以上聞きたくなくて、僕は両の耳を塞いだ。何回催促されたとしても、一言も喋るつもりはない。今の僕は、何を言っても語尾が猫になってしまうのだから。
    「おい、無視すんなって!」
     勢いよく突き飛ばされて、僕はベッドの上に倒れ込んだ。
    「何するの…………にゃっ!」
    「お前が無視するからだろ。上司の言葉を無視するなんて、部下としての自覚が足りないんじゃないのかい?」
    「それは、ルチアーノが変なことするからでしょ…………にゃっ!」
     僕が怒鳴る度に、頭の上で猫耳の形をした機械がウインウインと音を立てる。妙に重たい謎のアイテムは、ルチアーノに無理矢理つけられたものだった。猫になるなら耳を着けないとなどと言われ、強引な力業で押し付けられたのだ。この猫耳は、装着者の脳波を解析して、感情に合わせて動くらしい。これのせいで、今の僕は滑稽な姿をしていた。
    「別に、変なことはしてないぜ。君の語尾がかわいくなるように、ちょっと暗示をかけてあげただけだ」
    「それが変なことなんだよ……にゃっ!」
     喋る度に、耳はウインウインと音を立てる。羞恥に頬を染めると、余計に動きは激しくなった。僕を押し倒すような形で、ルチアーノは僕の両手に体重をかける。耳元に口を近づけると、囁くような声で言った。
    「僕に耳が生えたときは散々おもちゃにしたくせに、自分だけ逃れようって魂胆かよ。そうはいかないぜ」
     薄々感じてはいたが、あの時のことを気にしていたみたいだった。ルチアーノに猫の耳が生えたとき、僕は散々彼を可愛がったのだ。僕にとっては甘い思い出だけど、彼には恥ずかしいものだったらしい。今になって、当時の彼がどんな気持ちだったのかを理解した。
    「別に、そういうつもりじゃ…………にゃい…………」
     答える声も、語尾によって間抜けになってしまっている。居たたまれなくなって、熱くなった顔を両手で覆い隠した。
    「だったら、どういうつもりだったんだよ」
    「それは、ただ、かわいいにゃって……」
    「それがおもちゃにするってことじゃないのかい? これは、同じ目に遭わないと分からないみたいだね」
     くすくすと笑うと、ルチアーノは僕の頭を撫でる。頭の上で、猫耳を模した機械が音を立てた。
    「口では嫌がってても、耳は素直だな。こうされるのが好きなんだろ」
     にやにやと笑みを浮かべながら、わしゃわしゃと僕の髪を掻き分ける。恥ずかしいのに興奮してしまって、頬が燃えるように熱くなった。顔を背けると、今度は空いている手でお腹を撫でられる。猫の暗示にかかっているからか、いつもよりも心地よく感じてしまった。
    「ルチアーノ……やめて…………にゃっ!」
     ふわふわとする頭で、必死に抵抗を試みようとする。快楽に溶け始めた身体は、少しも言うことを聞いてくれなかった。愛撫を引き剥がそうと伸ばした手のひらも、力無く腕を掴むだけだ。
    「今夜は、たくさん可愛がってやるからな。覚悟しろよ、猫ちゃん」
     楽しそうに笑いながら、ルチアーノは低い声で言う。それは、悪魔の囁きのように聞こえたのだった。
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