果凍と唇やたらとゼリーが入っている。
謝憐の安アパートの小さな冷蔵庫をあけた花城は、首をかしげた。
夏も本番に迫ろうかという季節。
冷蔵庫に冷たい食べ物が入っているのは不思議ではない。
だが、決して広くはないそのスペースに、普段の食料品を押しのけるほどにゼリーが詰めこまれているのは、少し変だった。
見たところ、どれもスーパーで売っている安物で、誰かから季節の贈り物で大量にもらってしまったというわけでもなさそうだ。
花城は、ソファで本を読んでいる謝憐を振り返った。
「哥哥ってゼリー好きだっけ?」
何気なく聞いた一言に、後ろ姿の謝憐がぴくりと肩をゆらす。
ややあって、小さな声が返ってきた。
「……そこまでというわけではない」
何やら奥歯に物の挟まったような言い方だ。
そこまで好きではないのなら、なぜこんなにゼリーが大量に入っているのだろう。
「今度おいしいやつ買ってこようか?」
「いや、いい」
重ねて尋ねてみると、なぜか耳がほんのり赤くなった。
おかしい。
花城は冷蔵庫を閉め、少し考えてから、ソファに近づいた。
そのままソファの背越しに腕を回して、後ろから抱きしめる。
「哥哥、何を隠してるの?」
「か、隠してない」
「じゃあ何でそんなに赤くなってるの」
「これは別に……」
謝憐はもごもごとつぶやきながら、読んでいた本で顔を覆った。
まったく隠し事が下手すぎる。
花城はつい微笑ましくなって、耳にキスを落とした。
「ひゃっ?!」
「ほら、やっぱり耳が熱い。もしかして、ゼリーでダイエットでもしてる? それとも、夏バテで食欲がないとか?」
健康な若い男性が大量のゼリーを必要とするシチュエーションなんて、それくらいしか思いつかない。
……いや、正確にはもうひとつふたつ思いつくけれど、謝憐が食べ物を食べる以外の用途に使うとは思えない。
たとえ不自然に顔を真っ赤にしていようとも、だ。
抱きしめる腕をゆるめずにいると、しばらくして観念したのか、謝憐が本を下げてため息をついた。
「君が」
「僕が?」
「君が……体温が低いだろう。その……唇とか」
「うん、まあ」
「だから、食感が……君を思い出すんだ。それでつい買ってしまうんだよ」
たっぷり数秒、言われたことを反芻して、花城はああ、と間の抜けた声を上げた。
自分がいない時にゼリーを食べて感触を思い出していたのかと思うと、おかしさと愛しさがこみ上げてくる。
ああもう本当に。愛しくて愛しくてたまらない。
花城は笑いながら、謝憐をもう一度ぎゅっと抱きしめた。
「ねえ、哥哥」
「ん?」
「せっかくだから、本物をどうぞ」
自分のよりも熱い唇をやわらかく食むと、謝憐がうっとりと目を閉じた。
同じ冷たさでも、ゼリーよりは気持ちいいと思ってくれているだろう。
これが終わったら冷蔵庫のゼリーを二人で食べようと、口づけを深めながら花城は思った。