モブからみた岳清源という人ある町に若い夫婦がいた。
平凡ながら慎ましく生活し、ある時妻が懐妊した。
初産に浮かれながらも不安とない混ぜになり、まだ見ぬ赤ん坊のために産衣やら揃えつつ、2人そわそわと過ごしていた。
産月まであと2ヶ月あまりという頃、悪阻から思うように回復できず鬱々としていた妻の気晴らしになればと、荷車を借りて妻を乗せ、夫が引いて土地廟へ御参りすることにした。
行きは良かったのだ。
久しい外の風にいつになく妻の頬に血の気が戻り、軽口をたたきながら束の間の時を楽しんだ。
楽しすぎてつい無理をしてしまった。
気づけば再び彼女の顔は青ざめ、ぐったり荷車の筵に寄りかかる妻を乗せて、慌てて帰路に着いた。
行きはあっという間だった道がなんとも長い。
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