夕焼け「見て、三郎。夕焼けだ」
足をとめた謝憐が、振り返って遠くの空を指した。
夏の夕暮れ、肌にまとわりつく暑さもようやくやわらいだ頃。
村はずれのかわいた道にはふたつの影が並んでいた。
花城は農作業の道具を肩にかけ、謝憐は両手いっぱいに野菜や果物を抱えている。
畑仕事を手伝ったお礼に村人からもらったものだ。
しばらく食べ物に困らない、とほくほくしながら受け取っていた謝憐を思い出し、花城は声を出さずに笑いながら、謝憐の指の先に視線を向けた。
なだらかに続く田畑の向こうに、うす紅色の雲が広がっている。
昼間のまぶしさを失った空は凪いだ湖面のように静かだ。
その湖面をゆっくりと流れる雲が、山の端に沈む夕日をうけて淡く染まり、ところどころ空と溶けあいながら一日の終わりを彩っていた。
しばらくそのまま眺めていると、謝憐がぽつりとつぶやいた。
「今日も一日、君とすごせてよかった」
大切なものをていねいに包み込むような声色に、花城は一瞬言葉につまって謝憐の横顔を見つめた。
黄金色のやわらかい光が、暮れゆく景色の中でいとしい輪郭を浮かびあがらせる。
胸の奥から言葉にならない想いがこみあげ、花城は荷物を道端に置いた。
「三郎?」
腕をのばしてぎゅっと抱きしめると、謝憐が怪訝そうに顔を上げる。
「明日もあさっても一緒にすごせます」
「うん」
「それに」
花城は少しだけ体を離してほほえみかけた。
腕の中で見つめ返してくる謝憐の頬をそっとなで、耳もとに唇をよせる。
期待をこめて、低く、甘く、ささやいた。
「今日はまだ終わってないよ、哥哥」
「……うん」
謝憐の耳の先が夕焼けと同じ色に染まっていくのを確認して、かすかにふれるだけの口づけを落とす。
花城は笑って言った。
「家に帰ろう、哥哥」