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    rubelu_

    @rubelu_

    創作小説・マンガ

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    台本①このは編

    雨と坂道〖記憶列車〗〖尾戸町木葉〗



    蝉のさんざめく夏の日だった。

    私は一人、海辺を歩いて昔のことを思い出していた。遠い日の幼なじみのことを。
    飛沫をあげる水、きらきら眩しい光、緑の影で心地良い風を感じて瞳を閉じる。…心の中にずうと居るはずなのに、もう、顔も浮かんでこない。

    「あら、木葉ちゃんいらっしゃい。待ってて。今お茶を──」
    「いいの、すぐ帰るから!」
    「あ、ちょっと」

    おばさん家に遊びに行くのが、最近の日課になっている。といっても私には親がいないので、ここが本当の実家のようなものだけれど。

    (昨日なんかお泊まりして、朝までぶっ通しで遊んだもんね!)

    浮かれながら駆け足で行き(ゆき)、居間の襖を開ける。ふわっと涼しい風がやってくる。古い扇風機がかたかたと音を鳴らす部屋には、気だるげに床に寝そべる少年がいた。
    こちらを見るやいなや、面倒そうな顔をしてそそくさ逃げようとするので、しっかりと捕まえてやる。

    「おわっ」
    「ふーん、甘いな。きみの考えることなんてぜーんぶ丸わかりなんだよ」
    「なんだよそれ」
    「さっさと降参して私の話に付き合うことだな少年!」

    少年は不服そうに眉をひそめる。その場に座りこみ、麦茶を飲み干して、私に目を向ける。

    「それで、今日はどんな長話を?」
    「長話って言うんじゃないよ。せっかくこの私が貴重な時間を割いて、きみに楽しいひとときをプレゼントしようとしてるのに」
    「はいはい、うるさいな」
    「かーっ、何その態度!年上を敬いなさいよガキンチョ!」

    くだらないやりとりをして、少年にウザ絡みするのが好きだ。だってこんなにからかいがいのあるヤツ、他にいる?いないよね。
    少年の隣にどすりと座る。あぐらをかき、せんべいを手に取る「そう、聞いて欲しい話があってさ」途中でばり、と噛み砕く。醤油が濃くて美味しい。

    「それ俺のなんだけど」
    「まぁまぁ、いいじゃない。で、覚えてる?この前、昔の友達のことを話したでしょ」
    「………うん」

    何か言いたげな顔でじろりと私を睨んでいるが、気にせずに続ける。

    「夢に出てきてさ。列車に乗ってここに戻ってくるの。あの時みたいに木陰で寝っ転がってお喋りしてる、そんな夢。それって、私が友達に会いたいから出てくるんだよね」

    少年は首を傾げて「まぁ、そうなんじゃないの」と曖昧に答える。私はそれに頷いた。「やっぱりそうよね。なら、ここにも来るはず」私が笑顔で言うと、少年が不思議な顔をする。

    「どういうこと?」
    「列車、本当に来ると思うんだ」
    「はァ?頭おかしくなったの?」

    両手でぐりぐりと、少年の頭を強くおしてやった。すぐ下で悲鳴をあげている。
    「いててて、やめろよ!」「観念したかね。全くきみは礼儀がなってないんだから」立ち上がって縁側(えんがわ)に立つ。息を深く吸って吐いた。

    「いつか、きっと来るよ。私は信じてる」

    振り返って少年を見ると、怪訝そうに眉をひそめている。まあ分からないよね、きみには。淋しさに目を伏せて、それから微笑んだ。

    「明日、目が覚めたら、そこはもう別の世界で…りっちゃんも きぃちゃんも、皆がいる空間で花火を見るんだ。列車は一日で消えちゃうから、その前に、駅長には、私の願いを叶えてもらわなくちゃ」

    「顔も声も覚えてないけど、たしかに、いたんだよ。だから会わないと…ううん、絶対に会う。それ以外は認めないから」

    「ね、姉ちゃん…?」

    戸惑いながらおろおろと私を見上げる。怖がらせてしまっただろうか、孤独に不安を感じて声が低くなっていた。
    「あぁ、ごめん。大丈夫」と眉を下げて笑う。木の葉がひとひら舞い落ちて、手のひらにさらりと触れた。ふと、空を見る。

    いつの間にか、夏になっていた。



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