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    rubelu_

    @rubelu_

    創作小説・マンガ

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    Mafia-#1

    ##mol-Mafia

    MOL-Mafia【コードネーム-ジョーカー】

    『ジョーカー!撃て!』

    通信機からブラックの叫び声がして、銃の焦点がズラしてしまった。クソ、いきなり指示だしてんじゃねえよ。
    「驚いただろ。静かに喋ってくれないか」
    『キミの判断が遅いだけだよ』
    「またそんな屁理屈を…」
    相手の弾丸が飛んでくる。急いで壁に身を隠した。向こうで首領が捕えられているので、下手な動きはできない。どうするべきか…
    『キミが思考してから約29分59秒が経った。そろそろ作戦は浮かんだかい?』
    「こまけえな!30分でいいだろもう!つーかオレの方が年上なんだから、敬語を」
    『私は面倒な事と命令を聞かないガキが大嫌いだ。さあ、武器を構えろ』
    「ダーッ!お前、マジ嫌い!」
    もう一度、前に出て敵を探す。
    (見つけた___!)俺はトリガーを引く。

    "bang‼︎"

    「ふう〜、なんとかなった」
    オレは首領の元へ走る。うわ、血が飛び散ってる。汚いなと思いながら周りを見る。足元に転がるテロの首謀者を見つけて、頭を踏みつけた。
    (こんなやつ、全員、消えちまえばいいのに)
    壁に向かって蹴り飛ばした。護衛はコブラが金で交渉して、味方につけた(買った)らしい。あいつとんでもないからな。
    「大丈夫ですか、首領」
    「あ、ああ…助かったよ。すまない」
    「もーっ!気をつけてくださいよ。すーぐ捕まるんですから。アンタあれですか。ピーチ姫ですか」
    「はは、君は相変わらずだな」
    首領の手足を縛る鎖を切って、手を取る。『ジョーカー、聞こえるか』とブラックが言う。
    「へいへい」
    『コブラがそっちに合流するらしい。仲間にした40名ほどの兵を連れてくるから、安全に私の元まで帰ってこい』
    「お前は来ないの?」
    『じゃあな』
    通信が切れた。オレら仲間だよね?
    「…はあ。仕方ない。とりあえず、あの部屋に移動しましょう。まだ敵がいるかもしれないんで」
    「分かった」



    【コードネーム-コブラ】

    ブラックから指示が来た。俺は兵士を引き連れて廊下を進む。ほとんどの敵は買収したので平気だとは思うが、まあ、何かあれば集団で殺すだけだから。
    「ジョーカーどこっすか」
    『首領が拘束されている部屋の奥だ。マップはタブレットに表示してあるよ』
    「おー、さんきゅー」
    兵士が立ち止まる。俺も周りを警戒しながら止まった。
    「…何かいるな」
    「はい。右から声がしました」
    「俺が見てくるから、待って」
    「え、でも」
    「金」
    「あっ…はい…」
    大体のヤツは金が大好きだ。もちろん俺も。渡しておけば仲良くなれるし、言うことも聞いてくれる。簡単で合理的だ。
    ここから聞こえたはずだが、まだ敵が残っているのだろうか。聞き耳を立てる。
    「……たな」
    「そう…だから…」
    あまり聞こえないな…遠くにいるのかもしれない。
    「ブラック、m-5には誰がいる?」
    『確か、首領に資金援助するって言ってた富豪の…』
    「よし入ります」
    『おいキミ』
    ピッ。接続を切って部屋に入る。
    「え!?」
    「だ、誰だ」
    「資金援助してくれるんですって?」
    「盗み聞きか?趣味の悪いガキだな」
    「首領を護ってんのは俺らなんで。お金をこっちに分けるのは当然なんじゃない?」
    「…」
    嫌な顔される。意味わかんない。
    「はあ。全く、お宅の班長、ブラックくんは犬に首輪をかけるのを忘れているようだな」
    「ハハ、冗談がお上手ですね」
    「冗談じゃないんだが…」
    「さて。本題に入りますけど、実際のところ、俺らが活躍してるお陰でアンタの大事な首領…いや、友人の命が助かってるワケ。言ってる意味、分かりますよね」
    「半分でどうだ」
    「んー、もうちょっと」
    「はあ……ほら、8割だ。これで帰ってくれ」
    「あざーっす」
    俺は大金が入って喜んだ。彼は呆れているが、気にしない事にする。ジョーカーもたまに似たような顔するしな。
    「それじゃあ向かいますか」

    ⚪︎

    「戻ったぞ、ブラック」
    「ああ、ご苦労様」
    なんとかミッションをクリアして、無事、本部に帰る事ができた。コブラがニヤニヤして気持ち悪いのは、誰かから金を巻き上げてきたからだろう。
    「私から提案なんだが、これからレストランに行かないか」
    「ブラックの奢りなら行きますよ」
    「おや、コブラくんが一番お金持ちなのに、なぜそんな事を言うんだい?」
    「は?あげませんけど」
    「また喧嘩して…オレが奢るよ。二人には、まあ、世話になってるしな」
    二人は同時にこっちを見る。拍子抜けしている。
    「な、なんだよ」
    「いや…キミにも可愛いところがあるんだなと思ってさ」
    「おもしろ。ありがと〜タダ飯ごっはん〜」
    「うるせえな!」
    一番年上なのはオレなんだから敬えよ!



    【最悪な組み合わせ】

    近くにお洒落なレストランがあったから、ふらりと立ち寄ることにした。しかしこいつら、ファッションのファの字もないというか、とにかく悲惨だ。
    「お待たせ」
    「はやく店入りましょー」
    「そんなんで入れるわけねえだろバーカ!」
    不思議そうに首を傾げている。
    「いやいや。センスの悪さ、自覚してる?」
    ブラックは「これが最先端なんだよ」と得意げな顔をする。どこが最先端だ、最底辺だろうが。全身カラフルコーデに目がチカチカする。大きめのパーカーは可愛いから良いとしても、色と小物が最悪だ。なんだその卵焼きネックレス。レストラン行くんだろお前。
    「ダサい」
    「同感」
    「おや。キミ達には魅力が伝わらなかったか。私の後輩くんは褒めてくれたのに」
    「それ相手すんのが面倒だから適当に返事しただけっすよね」
    「社交辞令ってやつを学ぼうなブラックくん」
    地団駄を踏み始めた。全く、子供みたいだな。
    「というかお前も変だぞ、コブラ」
    「俺?アンタのつまんない服よりはマシですけど」
    「はあ〜!?イケてるメンズ2023の表紙を飾るオレを舐めてんじゃないよ!この坊主!」
    「なんだコイツ」
    コブラが蔑んだ表情で俺を見る。帽子、サングラス、マスク、ぜーんぶ黒で厨二病みたい。せめて差し色を入れるのがイケメンのやることではないか?
    オレは深緑の靴下を加えて、お洒落に着こなしているというのに。
    「とりあえず入る前にショップに行きましょう」
    「えっ、エッグマフィン食べたい」
    「ブラックは置いていくか」
    「そうっすね」
    「…私も行くもん…」

    ⚪︎

    「はい、これが似合うと思うよ」
    「こんな地味な服を着れというのか?私に?」
    「さっきオレに縋って泣いてたのは、どこの坊ちゃんでしたかねえ〜?」
    「…」
    渋々受け取って更衣室に入った。はあ、ガキの相手をするのも大変だな。
    コブラが謎の変装をしていたのは、「身バレしないように」ということらしいが、一体何を犯したんだ。金泥棒は毎日の事だとして……
    (あ、それか。原因)
    納得して頷いた。
    「失礼な事考えてますよね、先輩」
    「え?いやあ。それより選び終わったか?オレが手伝ってやってもいいぞ」
    「いらないです」
    コイツ…!ちゃんと敬語を使うし(ブラックが態度悪いだけ)少しは後輩らしいと思って可愛がってるのに…!
    「んー、それじゃ、コレ着ます」
    「…ま、いいんじゃない」
    「これで文句ないですよね」
    「オレが悪いみたいな言い方だな…」
    入れ替わるようにブラックが出てきた。
    「ジョーカーくん。どう、似合う?」
    「お!見込んだ通り、さっすがオレ!」
    「…」
    なんだよ、死んだ目で見るなよ。
    「はあ…キミには最初から期待していないが。それにしても自己愛が凄いね」
    「皆、自分の事が大好きで堪らないんだから。これくらい普通だよ」
    「確かにな」
    ここにいる全員、自己中心的で変なヤツばかりだしさ。



    【ファミリー】

    ようやくレストランに着いた。オレ達はぐったりと椅子にもたれて、サービスされた水を一気に飲み干した。戦場で格好つけていたからって、緊張しなかったワケじゃない。むしろ逆で、いつ自分が死ぬか分からない状況に震え上がっていた。
    (オレら揃ってチキン野郎ってことだな)
    コブラはタバコを吸うと言って席を外した。ブラックはワインを頼んだ。頰をついてオレを見る。
    「なに」
    「キミ、首領と仲が良いんだ」
    「正確にはオレの親父がな」
    「ふうん。キミってお金持ちなの?」
    「金はあるけど、自由はないね。言うこと聞かなきゃ何されるか分かったもんじゃない。はあ…そんなに大事かな。『ファミリー』なんて」
    オレが黙り込むと、ブラックは何か言いたげに口を開閉させる。それから目を閉じて話す。
    「…ジョーカー。裏切り者を探しているのか」
    「まさか。親父は嫌いだけど、アンタらの事は信頼してるよ」
    「そう」
    ワインがテーブルに並ぶ。コブラは戻ってこない。
    「私はいると思う」
    「何が?」
    「惚けないでくれ。自分が一番分かってるくせに」
    銃口を向けられる。オレは頭が真っ白になる。
    「ブラック、どうしたんだよ」
    「私は拷問が好きなんだ。いつでもキミを地獄に引き摺りこめる」
    「何言ってんだよ。頭やられたか?」
    「黙れ」
    ブラックが叫んだ。周りがざわつき始める。これはまずい。違う場所へ行こうと腕を引いても、ブラックは動かない。
    「なあ、コブラはどこに行ったんだ。いくらなんでも遅いと思うんだけど」
    「キミは話を逸らすのが得意だね。でも今回は逃さない」
    「…ハァ。めんどくさ。お前のそういうところ、ほんっと大嫌いだわ」
    「奇遇だな、私も大嫌いだよ」
    銃声が鳴って、そのまま意識を失った。



    【コードネーム-ブラック?】

    鎖の音がする。手が痛い。目覚めてすぐ感じたのは「どうしてオレが」という屈辱だった。最悪だ、捕まった、やられた!
    「おはよう、ジョーカー。いや、盗利くん」
    「…ッ……!…」
    声が出せないことに驚いた。喉が潰れてしまったのだろうか。目の前の男は薄気味悪い顔で笑っている。いつものポーカーフェイスではない。
    「ああ。どうして捕えられてるのかって。ファミリーの裏切り者がキミだからだよ」
    「…」
    「最初から気づいていたが、何にも言わなかった。私、優しいからね。一応先輩だから大人しく見てたワケ」
    「でも、見逃せなくなった」
    彼の手には拷問器具がある。それでオレを殴るつもりだろうか。情報を吐いてもらう為に、コイツは何でもしてきた。
    昔からの知り合いだから分かる。小さい頃から友達だった。コイツは弱くて、変で、クラスから除け者にされていた。可哀想だと思って声をかけたのがきっかけで仲良くなった。でも親父の仕事が忙しくなって、オレは手伝いをさせられるようになって…それからどうしたっけ。ああ、何人か殺した。顔は覚えてない。どうでもよかった。もうどうでも。
    (いつからこうなった?人を撃っても何も感じない)
    天井をぼうと見る。ブラック…『黒凪ルカ』はオレの大切な友達だった。彼がオレをどう思っているかは知らないけれど。
    「私は残念だよ。キミを信じていたのに、あのバカに従ったせいで、私やコブラの仲間を壊すことになってさ。キミが悪いんじゃないけど、正直、失望してる」
    「…まあいい。お母さんもお父さんも、私の兄も全員、もう死んだから。全て過去のことだ。それより、もっと楽しいことをしよう」
    「…?」
    「キミの父を地獄に突き落とす」
    オレは目を見開いた。黒凪は親父を憎んでいた。親父が皆を殺した(オレに命令した)から。彼の家族を…殺したから。でも、反抗したら殴られるんだ。怖くて逃げてきたのに。
    「ね、楽しそうでしょ。私はワクワクしてるよ」
    「おまえ…」
    「おや。喋れるようになったのかい。じゃあ聞くけど。盗利くん。罪を暴かれたくなければ、協力しろ」
    「…それ、脅迫じゃん」
    殴られた。いってえ…手の傷口が開く。黒凪に撃たれたところだ。じゃあなんだ。意識を失ったのは、コブラが原因か?
    「自由じゃないなら、私が自由にさせてあげる」
    それは魅力的な言葉だった。しかし。

    『俺の言うことを聞けないのか』
    『愚物が』

    (…うっ)吐きそうだ。あんなの、思い出したくもない。一度裏切った相手には"報復"される。親父に逆らった弟も、頭を撃ち抜かれて血を流した。
    (オレはこいつを裏切った。どのみち、生きて帰れないなら)
    もう、選択権はない。
    「分かった。手伝うよ」
    「良い返事だ。この書類にサインを」
    「手、縛られてるから無理」
    「そうか、すまない」
    いつものポーカーフェイスに戻った。黒凪という人間から、ブラックに変わる瞬間だ。この顔はオレしか知らない。
    「…はい。サインしたよ。これで満足?」
    「ありがとう」
    手を差し出してくる。傷を押さえながら立ち上がる。コイツの助けはいらない…無視したら足蹴りされた。
    「痛え〜!病人なんだから加減しろ!確かにオレは殺人鬼で裏切り者かもしんないけど、お前だって機密情報を外に垂れ流してたんだろ」
    「バレてたか」
    「バレてるわバーカ!友達だから分かるんだよ」
    「友達ねえ…」
    乾いた傷に薬を塗られて、痛くて飛び上がった。「言っておくけど信頼してはいないよ」と釘を打たれる。
    「そんなに恨んでるなら、すぐにやっつければよかったじゃん」
    「馬鹿言え。大嫌いだけど、情がないワケじゃないさ」
    ブラックは嬉しそうな顔で笑った。


    ⚪︎


    【秘密】

    あれから二人は仲直りしたのか、塩らしい空気がなくなった。俺は手元の金を見つめて考える。
    (ジョーカーの家が金持ちなの、知らなかった)
    他人に興味がないので、プライベートに干渉することもない。互いに深く関わらないようにしていた、が、金が絡むなら話は変わる。
    「ねえ、先輩」
    「あ?今コーヒー入れてるから話しかけないで」
    「冷た。緊急事態だから聞いてよ」
    「なに」
    「お金ちょーだい」
    「お湯かけるぞ」
    ポットを振り回して言うので、俺は逃げ回った。ブラックが呆れた顔で「ここは私の家だぞ、喧嘩するな」と呟く。

    「はあい。ほら、早く」
    「なんなの!?全然可愛くない!あんなに甘やかして育てたのに!」
    「ジョーカーのせいだと思うよ」
    「ブラックまで!」
    とても弱みを握られているとは思えないほど、元気でうるさい。そう、俺達はコイツを隔離する為に隠密生活をしている。一人暮らしをしていた彼の家に飛び込んで、ひょんな事から同棲することになった。男共の同棲って、嫌だな。
    「華がない」
    「何か言ったか?ったく、はい、今日の小遣い」
    「華なんていらないや」
    「調子のいいやつ…」
    ジョーカーがソファにどすりと座った。疲れているみたいだ。

    「まあ、事件から一週間も経ってないし、疲労が溜まるのは当然さ」
    ブラックが布団をかけて言った。ジョーカーは縮こまる。コーヒーを飲んで暖を取る姿は、まるで小動物のようで、殺し屋をしているとは思えない。

    「それで、親父を殺すってどうすんの。アイツ、嫌いなヤツ全員潰すタイプの大人だぜ」
    「ふむ。首領と繋がりがあるなら…逃げ場のない状況を作り、人質にして『コイツの首を落とす』とか…追い詰める方が早いんだが」
    「怖…」
    札束を落とす。鳥肌が立った。

    「ま、細かい方針は決まっていないから、まとまったら教えるよ。今は体力温存だ」
    「そうだな…てかさ、この際だから秘密暴露しない?」
    ジョーカーがそう言うと、周りが静まり返る。


    「なんでだよ!オレだけバラすとか理不尽だろ!」
    「それは一理あるが、ただの協力関係にすぎない。仲良くなったら、死んだ時に辛くなるだろう」
    「そうだけどさあ。…んでも、純粋に友達になりたいっつうか」
    俺はそれに頷く。互いのことを知れば、金を借りやすいし、何かあった時に役に立つ。
    「そうですね。いいと思います」
    「だろ!な、コブラもそう言ってるんだしい」
    「……ハァ…分かったよ。どうせ、ジョーカーは知ってる情報だと思うけど」
    二人は知り合いだっただろうか。驚いた。俺は何も聞かされていない。

    「コードネーム-ブラック。本名は『黒凪ルカ』」
    「へえ、黒凪さんね」
    「苗字で呼ぶのはやめてくれ。ルカでいい」
    少し考えて手を伸ばす。「タメ口は気が引けますよ、黒凪さん」握手しようとしたら叩かれる。痛いな。
    「キミ、私が嫌がってるの分からない?」
    「はあ」
    「ワザと?」
    「あー、ルカ。こいつはそういう男だよ。空気の読めない"天然"なの」
    「信じられないよ」
    額に手を当てて崩れ落ちた。なんか変なこと言ったかな…あ、この焼き菓子、美味い。「おい、オレの分も残せよ」ジョーカーに取り上げられる。
    「む…」
    「はい、次はオレね。コードネーム-ジョーカー。『深乃盗利(みのとうり)』って言うんだ」
    「名前に盗むって書いてあるあたり、信用性に欠けますね」
    「うるせえ。親がどうかしてんだよ」
    可哀想に。

    「それじゃあ、俺…俺は…本名とか、ないんだけど。何でもいいですよ」
    二人は顔を見合わせる。
    「ないの?マジ?」
    「マジマジ。親に捨てられたんすよ。故郷、スラム街だし」
    「そ、そっか…」
    深乃が気まずそうに言う。
    「そんな気遣わないでください、生まれた場所は選べないんで、仕方ないっす」
    「だから金にがめついのか」
    「ルカのバカ!」
    「だって、生きる為には何かを盗らなきゃいけないでしょ。食い物も必要だし。まあ、ここはタダ飯なので助かってますけど」
    「私は働かないガキと詐欺師の男が嫌いなんだ」
    「さらっとオレもディスるのやめてくんね?」
    それから俺達はどんどん秘密を吐いていった。ブラックが政治家の情報を流してた、やら、ジョーカーが首領と父親を脅かす存在を抹殺した、とか。俺が組のトップで、大勢で人を殴り飛ばした(金を奪った)…まあそんな感じで。

    気づけば夜になっていた。



    【おやすみ】

    「ふあ…眠い」
    「流石に四徹はまずいな」
    「死ぬ気かよ」
    「死ぬ気でキミの友人を守ってやったんだよ」
    「親父の友人な」
    布団にくるまって川の字になる。

    一人はすでに寝息を立てている。結局、コイツの名前は『影巻 朱(かげまきしゅう)』になった。理由は裏工作員というのもあるが、夕暮れや炎と似た朱色の髪が決め手だった。
    『コブラ』というコードネームは、本人が蛇のように生に執着し、欲しいものは全て奪いたい…とかくだらない願望から。


    ふと思ったことが一つ。
    「オレらのコードネーム、超絶ダサくない?」
    「ああ、もっと派手な方がいい」
    「そういう問題じゃねえ。むしろ地味でいいんだけどさ。リストに名前載るじゃん、呼ばれた時、恥ずかしくなるわ」
    「勝手に決められたから仕方ないが…」
    ピエロみたいで嫌なんだよな、親父の掌で転がる道化みたいな。彼はオレの方を振り返って呟いた。
    「まあ、本名で呼ばれるよりはマシかな」
    「平仮名の『とうり』くんだったら可愛げがあったかも」
    「ちっとも可愛くないね」
    「おい!」
    ふい、と顔を逸らされる。暗闇じゃなければ頬を引っ張ってた。
    「お前、何でそんなに自分の苗字嫌いなの」
    「黒が好きじゃないから。って言ったら朱くんに怒られちゃうか」
    「私服があれだしな」
    夕方のファッションを思い出す。惨劇だった。
    「うん、なんていうか、兄さんが黒を怖がっててさ。例えば、夜の海、ベッド、ドーナツ、トンネルとかね」
    「どういうこと?」
    「先の見えないものが怖いってこと。暗い場所や空洞、虚空って不安になるじゃない。明るければ終わりも見えるし、怯えなくて済む」
    「へえ…」
    派手なものを好むのは、それと似た理由なのかもしれない。取り繕えば、余裕を持てるから。いつも真面目で変なのに、繊細だからな。
    「やっぱ面倒だわ、お前」
    「ハハ」
    乾いた笑い声が響く。
    「今は平気なの、暗いけど」
    「心配してるのかい。優しいね、盗利くんは」
    「泣いたら慰めるのが怠いからなあ」
    「素直じゃないんだから」
    秒針の進む音がする。リラックスして瞼を閉じた。
    「キミ、『自分のことが大好き』とか言ってたのにね。あれは見栄を張っただけか?」
    「名前は嫌いだけど、自分自身を愛さなきゃ、生きてても死んでんのと同じじゃん」
    オレは笑顔で言った。


    ⚪︎


    続く
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