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    RooiBos_cha0514

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    RooiBos_cha0514

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    🔥と⚖️と間に挟まれがちな人たちの学パロ
    ちょっとだけグレ⇄リルの匂わせあり

    #バズユゴ
    #バズユゴ版深夜の創作一本勝負

    「うんうん、似合ってるんじゃねぇの?髪型はともかく服の方は完璧なスマートさだぜ」
    「馬子にも衣装ってやつだな。あーいや、確かお前ボンボンだったからダセェ格好してた坊ちゃんが本来の衣装に戻ったってことか」
    「テメェらな…奢った飯代返してもらうぞ特にリル…」

     年の瀬も迫る12月の半ばの放課後。バズビー、アスキン、リルトットの三人は、高校生にとっては少し背伸びした価格帯のアパレルブランドにいた。
     普段は胸元が開いていたり無骨なベルトやレザーだったりというヤンキーじみたファッションの多いバズビーだが、今試着しているのは襟付きのシャツにジャケットのセットアップという大きく印象の異なるものだ。
     「見えない裏地の部分に真のオシャレは宿るもんだぜ!」と親指を立てたアスキンは、知り合いの中で一番この手のセンスがある男のため見立ててもらったのだった。リルトットは暇だったかつ、バズビーがフォーマルな服を買いに来るに至った「ある経緯」が面白そうなので着いてきただけである。

    「おっとそうだ。その服、俺が選んだってハッシュヴァには言うなよ」
    「なんでだよ」
    「なんでってお前…告白してきた相手の勝負服が他人のセンスとかムード台無しだろ?俺アイツから変な恨み買いたくねぇよ」
    「そういうもんか…?」

     そう、告白。高校生活最後のクリスマス、バズビーは幼馴染のハッシュヴァルトに10年近く抱え続けた想いを告げるつもりであった。
     何事も不器用で、儚くて、いじめられていた彼を気に掛けたのが最初の出会い。それからは彼の複雑な家庭環境を知ったり、遠縁だという大会社の社長によって引き裂かれたり、入学したヴァンデンライヒ学園での再会時に騒動があったりしたのだが──とにかくバズビーは、波瀾万丈な関係性を経る中で、幼馴染へ向ける感情を自覚したのである。
     彼を傷付ける全てのものから守ってやると決意した。痛みを押し殺した無表情ではなく、花の蕾がほころぶような笑顔を見るのが好きだった。そしてそれは他の誰でもなく、ずっと自分の隣で笑ってほしいと思ったのだ。

    「……でも。今更、だよな……」

     この決断に至るには遅すぎた、そうバズビーは唇を噛む。ハッシュヴァルトは養父の会社の後継教育を受けるため異国の大学を受験すると聞いていたし、バズビーもまた父の仕事を継ぐために進学先は決まっていた。想いを告げたところで、受け入れられるのは難しいだろう。すれ違う中で彼の心を深く傷付けてしまったのも、他でもない自分なのだから。
     それでも、たとえ関係が終わってしまうとしても、言葉にしないままでいるのは駄目だ──そんな衝動に突き動かされ、わざわざ柄ではない勝負服を用意するほどバズビーは緊張していた。

    「……当たって砕ける叶わぬ恋みてーな顔してっけど。オレら知り合いほぼ全員がコイツらの両片思い察してお膳立てしてやってんのはどう受け取ってんだろうな」
    「言ってやるなリルのアネゴ、ここの関係はたぶん時代が時代なら一国を巻き込んで爆散させてたくらいややこしいんだ」

     ひそひそと囁き合う学友達の様子にも気付くことなく、バズビーは鏡の中の見慣れぬ自分と向き合いながら表情を固くしたのだった。
     




    「つーことで、この件はハッシュヴァには内密に頼むぜ!リルトット、アンタもクリスマス前に別の男と買い物してたとか彼氏に勘違いされたくねぇだろ?」
    「あ?彼氏?何言ってんだ」
    「え、だってグレミィと付き合って…」
    「んなわけねーだろ、単にアイツがイブの夜にケーキ焼くっていうから食いに行ってやるだけだ」
    「世間的にはそれを付き合ってるって言うんじゃねぇかなぁ…!?」

     眉間を押さえてぼやくアスキンの言葉に、ふとバズビーは疑問を抱く。

    「さっきから、そのハッシュヴァって妙な呼び方はなんなんだよ」
    「あ、これ?名字で呼ぶのはあんまり他人行儀だし、かといって下の名前で呼び捨てするほど親しくもない…そんな微妙な距離感を考慮して最近はこう呼んでるってわけ」
    「それなら…」

     ユーゴーと呼べばいい。そう言いかけたバズビーに、アスキンは首を横に振った。

    「いや、前にノリでユーゴーって呼んだことあるんだが…ちょっとだけ傷付いたみたいな顔されてさ。アンタ以外に呼ばれるの、嫌なんじゃねぇかなって思ったんだ」

     ──『ユーゴーって呼び方やめてくれるかな。嫌いなんだ』

     初対面の時の言葉が蘇る。幼い自分は拒絶を気にせず強引に呼び続けた結果、互いに愛称で呼び合うのが当たり前になった。……彼を虐げていた伯父が使っていた呼び名だと知ったのは、ずっと後のことだ。

    ──『バズになら…いい。もうユーゴーで慣れてしまった。今更変えられた方が、困る』

     そんな風にぶっきらぼうに告げられたのはいつのことだっただろう。もしかするとその許容は、こちらが考えていた以上に心の深いところで受け入れてくれたのではないか。

    「いって!?」
    「一人でニヤニヤしてんじゃねーよトサカ野郎。じゃあまぁ、頑張れよ。返り討ちされても骨くらいは拾ってやる」

     背中をどついて言いたいことを言って、リルトットとアスキンは駅の方向へと消えていった。

    「…俺も帰るか」

     イルミネーションに照らされた街はすっかりクリスマスで浮かれた気配だ。ケーキショップの前でトナカイの着ぐるみが配るチラシをぼんやりと受け取る。そのまま店の中に視線を向けて、見覚えのある金の髪に目を見開いた。
     ガラス張りの店頭から覗くカフェスペースで二人の青年が向き合っている。眼鏡を掛けた青年は、次期生徒会長と見越される後輩の石田雨竜だ。そして片方は間違いなく現生徒会長ハッシュヴァルトであり──その目元が赤く潤んでいることに気付いた瞬間、バズビーは店内に飛び込んでいた。

    「っ、バズ!?」
    「ユーゴー、お前何してんだ」
    「それは──」
    「君に教える必要ない、ってか?ハッ、そうだよな。お前はいつも大事なことは相談してくれねぇ」
    「………」

     刺々しい言葉が止められない。心配なはずなのに、こんな態度をとってしまう自分が嫌になる。向かいの席の雨竜からは困惑しきった様子が伝わってくるが、引くこともできず空色の瞳と睨み合う。

    「……お前を泣かせるものを、俺は許したくねぇ。だから話してくれ」
    「これは私個人の問題だ。バズが気にすることは何も無いんだ」
    「ユーゴー…っ!」

     ならどうして石田雨竜とは一緒にいるんだ。俺はそんなに頼りないかよ──そう感情が爆発しかけたが、先に爆発したのは別の人物だった。

    「……あぁぁぁ鬱陶しい!!さっきから見ていればウダウダウジウジと!!何年間拗らせているんだ貴様らは!!!」

     ケーキショップに響いた怒号は、トナカイの着ぐるみから放たれた。脱いだ頭部を床に叩きつけた男の顔を見たハッシュヴァルトとバズビーが目を丸くする。

    「ヒュ、ヒューベルト先輩?」
    「誰…」
    「お前が入学する前の生徒会長だ…」
    「なんでここにいんだよアンタ!」
    「相変わらず礼儀知らずだなブラック…ここが私の親戚の店で、人手不足で駆り出されたからに決まっているだろうが!」
    「いや知らない…」

     完全に状況に着いていけない雨竜を置き去りにしてヒューベルトは端正な顔を歪める。

    「貴様、こんな猿のためにユーハバッハ社長の後継の椅子を蹴るなどどうかしているぞ。大人しく指示された大学に進学しろ、私が卒業してからそこまで馬鹿に成り下がったのか?」
    「っ…しかし…」
    「ま、待ってください。確かに僕もどうかと思いますが、涙ぐむほど悩んでいる人を突き放すのは…」
    「…そこの君は色々と苦労が多そうだな…」

     どこまでも人の良い後輩にシンパシーのこもった目を向ける先代生徒会長。その時、フリーズしていたバズビーがようやく口を挟んだ。

    「ちょ、ちょっと待て…ユーゴー、どういうことだよ…」
    「あなたの進学予定の大学を受験したいと、ユーハバッハ社長に直談判しようか悩んでいるそうなんだ。面倒を見てくれた養父の期待は裏切れない、と」
    「お前──バッカ野郎!!悩むまでもねぇだろんなこと!お前の人生、俺に付き合う必要なんて…!」
    「ある!あるんだ、バズ…」 

     ハッシュヴァルトは自分自身の大声に驚いたように僅かに身を固くした。三人の視線を注がれて、観念した表情で話し出す。

    「……また、君と離れ離れになったら……私は今度こそ、繋がりを無くしてしまう。それだけは嫌だ。君のためなんかじゃない、私に必要なんだ。誰のことも考えていないただの我儘だ」

     自嘲の言葉を紡ぎながらハッシュヴァルトは片腕を抱きしめる。幼い頃の彼が不安を感じた時によくしていた癖。それを見てしまったら、もう黙ってはいられなかった。

    「お前、成績良いのにほんとバカだなユーゴー…違う学校に行くくらいで、お前の手を離してやるわけねぇだろ。頼まれても逃さねぇよ」

     腕に痣を付けそうなほど強く握られた指を解き、そのまま握り込んだ。ひんやりとした感覚に、自分の体温がひどく熱くなっていると自覚する。

    「……許してくれるのか。こんな、身勝手な私を」
    「昔から思ってたけど、むしろもっと我儘言えっての。ユーハバッハのことは気にくわねぇが…お前にとっちゃ大事な相手なんだろ。選ぶ必要なんかねぇ」
    「そうか…諦めなくても、いいんだな…」

     弱々しく、けれど確かに手を握り返して、ハッシュヴァルトが笑う。バズビーが何よりも好きな笑みだった。それが見られるのなら、海の向こうだろうが世界の果てだろうがどこまでだって行ける笑顔だった。

    「──で、だ。まさかとは、まさかとは思うが……やつら、これで未だに付き合っていないなどと恐ろしいことを言うわけじゃないだろうな……?」
    「そのまさかですね……だからハッシュヴァルト会長は『生徒会選挙で恥を晒した貴様にならこれ以上何をやっても恥ではない』という理屈で僕にばかり色々相談して……いや、心を開いてくれてると思えば困ると言ってしまうのも……」
    「貴様らぁ!!こんなに良い後輩に迷惑を掛けるんじゃない!!」

     義憤に駆られたヒューベルトの後押しにより、バズビーが一世一代の告白で着るつもりだった勝負服は初めてのクリスマスデートでの勝負服になったのだった。
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