喉を鳴らして酸素を吸い込む。生きるための必死の行為で、呼気に混ざる生臭さを再確認させられる。口に入れるべきでない味と匂い、そして喉の奥までを塞がれ擦られる苦しみに、けれどファルガーは嘔吐かなかった──もう慣れてしまったから。
「よし、よし、偉いぞ。随分上手になったじゃないか」
どこからか薄く漏れ落ちる光が、暗闇の中から生白い手をぼうっと浮かび上がらせる。節が立っていて大きく男らしい手がファルガーの頬を撫でる。滑らかで冷たい手に慰撫され、艶めかしく深い声色に褒められたって何の感情も湧きやしなかった。
もう疲れ果ててしまったのだ。怒りも、恐怖も、屈辱も、何一つ感じ取れない。逃げ出す隙を伺うことも、希望を持ち続けることも、出来ない程に疲弊していた。
9699