雪と狐の物語お宮の障子窓から木漏れ日が差し込む。それに目を向けていた九尾狐の若者は、小さく漏らされた吐息に、その存在の方を見た。
先ほど拾った迷いの妖(あやかし)。姿形から、まだ幼い少女だ。青年が見たことも感じたこともない、凍りつくような冷気を纏っている。
森の中で見つけた時から、気を失って倒れていた。瞳を閉じていても分かるほど愛らしい造りをしていて、その装いも浮世離れした繊細で柔らかい衣で包まれている。
瞼が震え、そっ…と閉じられていた瞳が開かれた。少女は虚ろに視線を彷徨わせていたが、はっ、と身動ぎをして体を起こした。掛けていた布団がめくれ肩から落ちる。
「こっ、ここはっ…」
「気づいた? 体、大丈夫?」
できるだけ優しく声をかける。びくっ、とこちらを見た少女の顔は明らかに怯えていた。若者は自身の頭にある金色に輝く三角耳を倒して、笑ってみせた。経験則で、こうすると警戒心がやわらげられるのを、知っている。
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