降志ワンライ「停電」 私と彼の始まりは、笑ってしまうくらい陳腐な出来事だった。
きっかけは、残業帰り。十一階のフロアから帰路に着くために乗り込んだエレベーターには、既に先客が居た。それが、彼。降谷だった。
君も遅いな、お疲れ。あなたもね、ちゃんと寝てるの?そんな取り留めもなく花も咲かない話を一言二言交わしている内に、あっという間に狭い鉄製の箱は目的階である一階へと辿り着く。が、そのまま何の前触れもなく、ふっと電気が消えた。
「えっ」
声を上げたのは、私だけだった。
暗闇の中、彼はスマホのライトを照らして非常用ボタンを押す。
ジリリリ、とホールに響き渡る警報音からやや遅れて、オペレーターと通話が繋がった。
発電所内での火災により、都内の一部で停電が発生しており、その影響を受けているのだという。
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