暖かい風に誘われて、桜の花びらが舞う。そのうちの一片が、柔らかい頬にひらりと触れた。ふと見上げると、大きな桜の木には緑の葉と桃色の花が入り交じっている。
「今年の桜ももう終わりねえ」
鈴蘭はそう独りごちる。
この時期になると思い出す。あの子は今、どうしているのか。
あれは鈴蘭が十歳の頃。修行していた寺の住職に連れられて、地元では名医といわれる医者の家へ赴いた。なんとも立派な長屋門を通ると、その奥にはさらに立派やお屋敷があった。住職が使用人に声をかけると、使用人は屋敷の中へ人を呼びに行ったようだ。
中からスラリと背の高い白衣を着た男性が出てきて、鈴蘭は思わず住職の後ろへ隠れてしまった。その男性は住職と軽く挨拶をすると、鈴蘭の方へ視線を向ける。
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