大きな音を立てて扉が開かれる。ノックもなしに開いたこともだが、押し黙ったままずかずか近づいてくる輝ニに驚き、目を瞬かせることしか出来なかった。
「えっ、あれ…どったの、」
椅子に腰掛けた状態の首元を掴まれ、ぐぇっと変な悲鳴をあげた俺はそのまま側のベッドへと放り投げられた。
なにか、怒らせることでもしたのか。いやそれはない。怒らせるもなにも、最近タイミングが悪く会えてない状態だったから思い当たる節なんて全くない。ここで「なんかしたっけ」と問うて逆鱗に触れたら最後、ボコボコにされるか下手したら男としての息の根が止められる。そんなことはなんとしても避けたい俺は、情けなくもまな板の上の鯉の如く、無表情で跨ってくる輝ニを見上げることしか出来なかった。
どくん、どくん、ゆっくり大きくなる鼓動。筋張った指がとんとその鼓動へと添えられた。
「………」
「………」
なんだ、こいつは本当にどうしたんだ…。午前中に送られてきた『今日の予定は?』に『夕方までバイトで、そこから家』と返信したのを思い出した。時間、作ってくれたのかな…俺に会いに来てくれたんかなとニヤけそうになるが、その端麗な顔面になんの色も浮かんでないのを見てそんな感情は引っ込んだ。変な汗が出てくる。やっぱり聞いてみよう、「俺、なんかしたか」って。
決意し、口を開こうとした瞬間、輝ニが息を吸い先に言葉を発した。
「もう限界だ」
無駄に瞬きを繰り返す。それは、なにが、どうして、どのように。ぐるぐるぐると回る頭じゃ上手い返しが出てこない。怒らせること、したのか…してないよな過去の俺…。無意味な自問自答を繰り返す中言葉が続いた。
「準備してきた」
「…へ?」
間の抜けた声を出した俺に注がれる目線が、見覚えのあるものへと変わる。
あ、これ…あれだ。
ニヤつきそうになる口角を引き結ぶ。ふうと息を吐いた輝ニが再び口を開いた。
「いいから、さっさとヤるぞ」
潔いその一言にふはっと笑いをもらす。我慢せずに綻んだ顔は色艶の良い黒のカーテンが覆い隠した。