「おい」
なかなかの再現度じゃね?、と目を輝かせながら手にしたプレートには、あの村で作り上げたハンバーガーが乗っていた。なにやら上機嫌にキッチンに立っているなと思っていた輝ニが、換気扇を強風で回していても微かに残った香りに顔をしかめた。
「んぁ?」
掴んだそれを頬張ろうと大口開けた所に声がかかり、なんとも間の抜けた声と表情で隣に腰をどかっと落とした細身を見やった。休みの日の彼らしい、緩いシルエットのシャツとカーディガンに黒髪がさらりと流れ落ちる。
「輝ニも食べる?」
「いや、いい」
「そ?じゃあ、いただきまー、」
「…おい」
再び声がかかり手を止める。2度も遮られ、拓也の眉は顰められた。
「だからぁ、なんだよ」
「それ、食べるつもりか?」
それ、と顎をしゃくってさされたのは掴まれて形を変えたハンバーガー。食べるから作ったのに、なにを当たり前のことを…。そう思いながら「そうだけど」と言いのけた。拓也好みの味に手を加えられたハンバーガーは、ソーセージに香辛料がたっぷりとまぶさったスパイシーな香りが漂うものであった。
「……」
「……なに」
まじまじと見つめられて、悪い事でもしている気分になる。居心地の悪さを感じながら好物を手にしたままじとり睨んだ。
「…それ食ったらしないからな」
「………へ?」
何が、と問いかけようと開いた口に輝ニのそれが合わさった。
「じゃあ、お前は食事でもしていてくれ」
「ちょ、っへ…えっ、輝ニ?!」
可愛らしいリップ音とは裏腹に、黒髪の隙間から覗いた瞳には一瞬だが確かに欲の色が浮かんでいた。
つまらんと言い残したあと、大きく欠伸をしながらソファから腰を上げリビングから出ていく背中を、ワンテンポ遅れて追いかける。
ハンバーガーは、彼をベットに寝かしつけたあといただくことになりそうだなと、ニヤけた表情のまま、拓也は部屋を後にした。