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    さめはだ

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    さめはだ

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    中学生拓+2♀。(拓2♀未満)

     俺は帽子、アイツはバンダナ。頭に乗ってたそれらのお陰でごまかせていた身長は、指定の制服を身につける中学生になった今では隠すことは出来ない。それどころか、あの時は「小学生だから女子のほうが高いのは当たり前」って言い訳が出来たのに、今だに俺のほうが低いってんだから居た堪れない。


     成長期よ、早く来い。

     

     一緒にテスト勉強しようぜ、とメールを貰ったのが昨日の晩。輝一もと誘っていたけど都合が合わず、待ち合わせ場所に指定された俺が通う学校の校門前には、当たり前に俺とは違う制服を身にまとった輝ニ1人が佇んでいた。クラスメイトと並んで歩いてる俺を見つけた瞬間組んでいた腕を解き手をひらりと振る。途端に隣からうるさいぐらいの目線が注がれるから、挨拶もままならないまま輝ニの元へと駆け出した。明日、なんか言われるんだろうなぁ…。

    「早く行こうぜ!」
    「ちょ、おいっ!」

     後ろの方から「明日尋問すっからなぁ!」と追いかけてきた叫び声を振り切ろうと、輝ニの手首を掴んで一目散に俺の家へと駆け出した。



    ***

    「ここらへんでいいかな…」
    「急に走るなよ…びっくりしたじゃないか」
    「ゔっ…ご、ごめん…」

     ゼーハー肩で呼吸を繰り返しながら鋭くさせた目線が突き刺さった。眼差しから説明を求められ、躊躇いつつ口を開く。

    「…友達にさ、お前見られてさ…」
    「それの何が問題なんだ?」
    「…ビショージョがいるぞーって……騒ぐから…」
    「…は?」

     瞬きを繰り返す輝ニが、間抜けヅラのまま声を発した。きょとんとする様に笑ってしまいそうになったが、そんなことよりも俺の脳内は「輝ニ=ビショージョ」と称されたことへの違和感で持ちきりでそれどころじゃない。

     確かに、目は大きいし鼻はちいせぇし、癖のない滑らかな黒髪は男なら誰しも目を引くだろう。けど、けどな?コイツは輝ニだ。画面の中や週刊誌の中のアイドルや女優じゃない。俺の相棒、源輝ニだ。可愛げなんてありゃしねぇ。デジタルワールドで女子だって事を知ったときはひっくり返るかと思ったぜ。よかったぁ「ちんこ剥けてる?」とか聞く前で。

     すぐに抜かせると思っていた身長差は開いたまま。この前輝一から成長痛に悩んでるって聞いたけど、どうやら妹の方もまだまだ伸びるらしい。それに比べて俺は、伸びてはいるのに骨の軋む苦痛は全く持って感じてない。隣へと顔を向け、少し高い位置の2つの玉を見つめる。長いまつ毛に覆われたタレ気味の瞳は進行方向を真っ直ぐに見据え、佇まいですらコイツの気の強さが見て取れる。気が強い、ってよりも頑固っていうか…もう少し柔らかくなってもいいんじゃねーかお前はさ。そんなんじゃ、いくら顔がよくても彼氏なんて夢のまた夢だぞ。

    「…人の顔じろじろ見やがって…なんだよ」
    「お前に恋人できるより先に俺がつくってやるって決意の眼差し」
    「……くだらない」

     ぱっぱと手をひらつかせ、呆れ顔が向けられた。馬鹿にしやがって…輝一のほうがよほどしおらしく、可愛げがあるってもんだ。

     筋張ってきた自分の手の脇に骨ばった真っ白の手が並ぶ。ぴとりと、手の甲同士が当たった。

    「あ、悪い」
    「…熱でもあるのか?熱すぎるだろ」
    「そうか?輝二が冷たいんだって…ほら」

     今度は自分から手のひらを合わせ、冷え切った相棒の手へと熱を移そうと試みる。死人かゾンビかよ、冷てぇ…。

     にぎにぎと、骨が浮いた手の甲へと指を折り曲げる。途端に特大のため息をつかれ、疑問に思いながら目線を顔へと向けた。

    「…で?お前はどこまで手を繋ぎたいんだ」
    「…へ?……うわァッ!」
    「寂しがりかよ」

     慌てて手を振りほどき、輝二が解放された手で口元を覆いながらくつくつと笑いやがる。赤くなっているであろう首筋をかき混ぜながら、その背中を思い切り叩いてやった。ばしんっといい音がなり、合わせて「ッ?!」と悲鳴が上がる。

    「なにすんだよてめぇっ!」
    「なんでもねぇよバカ!別に手繋ぎたいわけじゃねぇよバカ!勘違いしてんじゃねぇぞバーカ!!」 
    「お前こそ、落ち着けよバカ」

     お返しと言わんばかりに、輝二が俺の尻目掛けて蹴りを入れてきた。これまたばしんってキレイな音が上がり短く息を飲む。痛みで涙を滲ませた目で、飄々と笑う顔を睨みつけた。

    「ガキじゃあるめーし、ケツ蹴んなっ」
    「そっちこそ、か弱い女子をはたくな」
    「え?どこにいんのか弱い女子」
    「むかつく…!」

     あっれぇ?とか言いながら辺りを見渡す真似をしだす俺を、今度は輝二がぎっと睨んできた。ここはデジタルワールドではなく通学路で、お前はズボンじゃなくひざ丈のスカートを履いてるというのに。

    「本当に、拓也は女子の扱いがなっちゃいない」
    「んだよそれ…そんなことないって」
    「あるだろ。こないだみんなで会ったとき、泉が髪切ったの気づかなかったじゃないか」
    「えっ、切ってたの?」
    「はぁ…これだから拓也なんだよお前は」
    「俺の名前をダメの代名詞みたいに使うなよ!」

     そのよく通った鼻を高らかに鳴らした音を皮切りに「なんだよ」「お前こそなんだよ」と、普段と変わらないふっかけ合いが始まってしまった。いつもだったら輝一が「まあまあ」と間に入ってくれるのだが今日は不在で、俺たちの不毛な喧嘩を止めてくれる人は誰もいない。

     ぱら、ぱらぱら…。雫が落ちてきた事に気がついて口を噤む。何だと見上げた瞬間、バケツをひっくり返したかのような大量の水が空から振ってきた。

     雨だ。

    「うわぁあ!つめてっ!」
    「なにのん気なこと言ってんだ!」
    「傘なんか持ってねぇぞ!」
    「私もだ…!いいから走るぞっ」

     お気に入りのスニーカーが瞬く間に浸水していく。一歩を踏みしめる度にグショグショと靴下まで染みてきた雨水に不快感を抱きながら、残り半分に差し掛かった帰路を全力で駆けて行った。



    ***

    「ただいまぁ〜!母さーん、タオル〜!」

     玄関先の濡れネズミ2人への返答はない。ここで、母さんが振替休日かなんかで学校が休みの慎也を連れて実家に戻っている事を思い出した。父さんは当たり前に仕事で不在だ。この間も髪先から水滴が滴り落ちる。ぴちょん、ぴちょんと玄関を濡らし続けるわけにもいかないなと、エナメルバッグの中からスポーツタオルを取り出した。

    「ん」
    「先に使っていいのか?」
    「客人だからな…俺のタオルは汚くて使いたくないとか言うなよ〜」
    「そんなこと思うわけないじゃないか…悪いな、ありがとう」
    「お気にな、さら…ずゥッ?!」

     声を上ずらせた俺へ輝ニが不思議そうな顔を向ける。小首をかしげるから垂れた髪から水滴がぴちょんと落ちていった。

     ヤバい…ヤバいヤバいヤバい…!!

     今世紀最大に俺は慌てている。なんでかって?

     輝ニがピンク色の下着を着けている事を知ってしまったからだ。

     顔を横へと向けられない。ダラダラと流れる冷や汗を感じながら、廊下の端を睨みつけた。

     思わないだろ、コイツがそんなの着けてるなんて。女子の下着事情なんて男兄弟しかいない俺が知るわけもないけど、輝ニのことだからそっけないやつとかタンクトップとか、そういうの選んでると思うじゃねーか。まさか、濡れたワイシャツの下に花柄のピンクの生地を身にまとってるとは考えもしなかった。別に、輝ニの下着について考えたことがあるわけじゃないけどッ!

    「どうした、いきなり黙りこくって…腹でも痛いのか?」
    「ッ?!…えっと、えっと……」

     不自然なまでに目を彷徨わせてる俺に、輝ニの目線が次第に怪訝なものへと変わっていく。伝えるべきか、気づくのを待つべきか…今後の人生を左右させるような決断をこの場で下さなければならないなんて、誰が思うだろうか。

     不審者一歩手前まで目線を迷子にさせながら言い淀み続けていると、バサリと顔面に何かがかけられた。慣れ親しんだ匂いに先程手渡した俺のタオルだと知り、顔面が隠れたことを良いことに無駄話へと口を開いた。

    「そっそういけばさぁ〜デパートの缶のクッキーあるぞ今」
    「まじか、最高だな」
    「ちょっと肌寒くなったし、俺風呂入ってからココアでも淹れてやるよ」
    「…あのな拓也」
    「ん?どうした」
    「私もお風呂借りたい」
    「ぶッッ」

     盛大に吹き出す姿に横から「うわ、きったね…」と怪訝な顔を向けられる。その顔を見れない。耳の上の部分がぞわぞわして、段々と熱くなってきた。

     そりゃあ、そりゃね?俺もお前もずぶ濡れよ。何度か家に来てるし小学生の時は泊まったこともある。もちろん、風呂だって使ったさ。けどさけどさ、それと今は状況が違うわけだろ?今この家には俺と輝ニの二人きりで、母さんたちは夜まで帰ってこない。お前はピンクの下着つけていて……こんな…こんな、ダメに決まって…ッ!

     一人悶々と考えてることを知らない輝ニが、声のトーンを落として申し訳無さそうに口を開いた。

    「…悪い、さすがに迷惑か…」
    「そっそうじゃねーって!」
    「だってお前…こっち見ないし…」
    「見れるわけねーっつの!お前下着透けてんだぜ…?!」

     言った。言ってしまった。やらかした。滑ったのはこの口か。

     ぎゅむっと力強く閉ざした瞼のお陰で、失言を耳にした姿を見ることはない。けど、すぐ隣で息をヒュッと短く吸った音がした。

     そして、その息が笑い声となってこぼれ落ちた。

    「ふっ…ふふっ、あはははっ!」
    「なっなんだよっ!」
    「拓也お前っ!いっちょ前に意識してんのか?!」
    「はッ…はぁあ?!」

     思わず見開いた目に写ったのは、邪魔くさそうに前髪を掻き上げながらくつくつ肩を揺らす姿だった。なんでここで笑いが生まれるんだろうか。頭がパンクしそうだ。

    「そうかそうかぁ~…くくっ…お前っそんな…ふっ、あはは…」
    「て、てんめぇ…ッ!人がせっかく気を利かせてやってんのに、そんな笑うことないじゃんかっ!」

     「ビショージョ!」と騒ぎ立てたあいつらの顔が浮かんだ。確かに、顔はいい。双子揃って整った顔立ちをしている。でも、こいつは輝二だ。飛ぶわ跳ねるわ、淑女さの欠片もない女。

     小さくため息をつかれ、もやがかかったような思考が少しだけはっきりしてきた。そうだよ、何度も言うようにコイツは輝二なんだ。ふざけ合い、喧嘩もして、当たり前に肩を並べてる輝二。今更、それが覆るようなことが起きるはずがない。

    「で?意識しまくった神原拓也君は、私の下着にどきどきしてしまった…と」
    「おいっ!そんなんじゃ…!」
    「あははっ、図星かよ!」

     雫が滴り落ちる髪を耳にかけながらもう一度「くだらない」と笑い飛ばされた。埒が明かないと、じりじり焼ける様な感覚の首筋を押さえた後、その場にしゃがみ込んでスニーカーの紐を緩めにかかった。案の定、色が変わるまで濡れた靴下に眉をひそめる。隣で、俺にならうように輝二もローファーのかかとへ指をかける。スニーカーのぶん、苦戦している俺を横目に一足先に真っ白の脚がフローリングにつけられた。

     そして、心底楽しそうな顔で笑いあげた輝二が口を開いた。

    「たくやのすけべ」

     そう言って、脱いだ靴下を片手にペタペタと廊下を進んで行く。ついにパンクした俺は、その背中へ向かって叫び声をあげた。

    「おッおおおっ…お前なァッ!!」

     耳によく馴染んだアルトが上機嫌に跳ねる。

     心臓が変な音をたてた気がしたが、気のせいであってほしい。だってこいつは輝二なんだから。



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    Replies from the creator

    さめはだ

    DONE成長拓2♀
     これが何度目のデートなんてもうわからない。ガキの頃からの付き合いだし、それこそ二人で出かけた回数なんて数えきれないぐらいだ。良く言えば居心地の良さ、悪く言えば慣れ。それだけの時間を、俺は輝二と過ごしてるんだしな。やれ記念日だやれイベントだとはしゃぎたてる性格はしていない。俺の方がテンション上がっちまって「落ち着け」と宥められる始末で、だからこそ何もないただのおデートってなりゃお互いに平坦な心持になる。

     でもさ……。

    『明日、お前が好きそうなことしようと思う。まあ、あまり期待はしないでくれ』

     ってきたら、ただの休日もハッピーでスペシャルな休日に早変わりってもんよッ!!



     待ち合わせは12時。普段の俺たちは合流してから飯食って、買い物したけりゃ付き合うし逆に付き合ってももらう流れが主流だ。映画だったり水族館だったり、行こうぜの言葉にいいなって返事が俺たちには性が合ってる。前回は輝二が気になっていたパンケーキだったから、今日は俺が行きたかったハンバーグを食べに行った。お目当てのマウンテンハンバーグを前に「ちゃんと食い切れんのか」と若干引き気味な輝二の手元にはいろんな一口ハンバーグがのった定食が。おろしポン酢がのった数個が美味そうでハンバーグ山一切れと交換し合い舌鼓を打つ。小さい口がせっせか動くさまは小動物のようで笑いが漏れ出てしまった。俺を見て、不思議そうに小首を傾げる仕草が小動物感に拍車をかけている。あーかわい。
    1780

    さめはだ

    DONEモブ目線、成長一二。
     鍵を差し込んで解錠し、ドアノブを回す音が聞こえてきた。壁を隔てた向こう側の会話の内容までは聞こえないが、笑い声混じりの話し声はこのボロアパートじゃ振動となって伝わってくる。思わずついて出た特大のため息の後、「くそがァ…」と殺気混じりの呟きがこぼれ落ちた。

     俺の入居と入れ違いで退去していった角部屋にここ最近新しい入居者が入ってきた。このご時世にわざわざ挨拶に来てくれた時、俺が無愛想だったのにも関わらずにこやかに菓子折りを渡してくれた青年に好感を持ったのが記憶に新しい。

     だが、それは幻想だったんじゃないかと思い始めるまでそんなに時間はかからなかった。


    『あッ、ああっ…んぅ…ぁっ…!』

     
    「……」

     ほーら始まった。帰宅して早々、ぱこぱこぱんぱん。今日も今日とていい加減にしてほしい。残業もなく、定時に帰れたことを祝して買った発泡酒が途端に不味くなる。…いや、嘘です。正直、めちゃくちゃ興奮してる。出会いもなく、花のない生活を送っている俺にとってこんな刺激的な出来事は他にない。漏れないように抑えた声もたまらないけど耐えきれず出た裏返った掠れた声も唆られる。あの好青年がどんな美人を連れ込んでるのかと、何度想像したことか…。
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