風が心地良いね それならば、と言われた。
それならば、海に行きましょうと。
「都築さんが行くのなら、ついていきます。心配ですから」
麗さんはそう言って、僕の荷造りを手伝ってくれた。日焼け止め、日傘、飲み物、タオル。滅多に使わない僕のカバンはぱんぱんだ。
季節はすっかり夏。ライブで「海の音を聞きたい」と言ったのは本心だ。この時期の、今だけの音というものが存在する。全身で浴びたいと思ったのだ。暑いのは苦手だけれど、暑いからこそ聞ける音もある。僕らは冷たい水を一杯飲んでから出発した。
少しだけ雲の多い日だったのは、幸いかもしれない。海辺に着くと人はまばらで、海水浴をしている人は思ったより少なかった。僕と麗さんは日陰を探したけれどうまく見つからず、持ってきた日傘で影を作った。
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