【イチ桐】逆に駄目です!「ん……懐かしいな……」
ソファでマンガを読みながら寛いでいた春日の元に、桐生の小さな声が聞こえてふと顔を上げる。ここまで読んだとザラついたページの右上に折り目を付けて分厚いそれを折り畳むと、春日はよいせと立ち上がり、ダンボールの前に座って服を持ち上げている桐生の元へ歩み寄った。
「それは?」
桐生が手にしていたのは白いシャツと臙脂色のネクタイ、そして濃いグレーのベスト。一見すると桐生らしくない組み合わせのそれに春日が後方から不思議そうにそれを覗き込んでいると、桐生はフッと笑みを零してそれを纏めて抱え込みながら立ち上がった。
ゆっくりと春日の方へと向き直った桐生の顔は、それこそ遠い昔を懐かしむような表情で。春日は桐生の手にしている服一式に目を落として返答を待った。
2989