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    で@Z977

    @deatz977

    グスマヴェちゃんだけをまとめておく倉庫。
    🦆🐺至上主義強火。独自解釈多。閲覧注意。
    (全面的に自分用なので配慮に欠けています)

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    で@Z977

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    小夜啼鳥の夜明け(side I)
    アイマヴェ答え合わせ編。
    ⚠話の繋がり上UPしていますが、中身はほぼほぼグス(→)←マヴ←アイのアイマヴェ(未満)です。

    小夜啼鳥の夜明け(side I) 危なっかしい足取りで歩くその男は、まるで亡霊のように暗い空気を纏っていた。思わず周囲を見回すが、目当ての姿を見つけることはできない。おかしい。
     仕方なく歩を進めて男に近付く。ふらふらと歩いていたマーヴェリックは漸くこちらに気づいたようだ。険しい顔をされたが、逃げる気配はない。視線を逸らされただけだ。

    「……大丈夫か?」
     何があったのかは聞かなかった。聞く必要がなかったと言った方が正しいかもしれない。こんな状態でこの男が一人でいるのは彼のRIOを頼れなかったからだろうし、グースもマーヴェリックを一人にしなければならない何かがあったということだ。
     彼らの関係は端から見ていても明らかに近い。そこにどんな名前を付けているのかは自分の与り知らぬことだが、この男の脆い部分の多くを相棒のグースが占めているであろうことは想像に難くなかった。

     今日の訓練を思い出す。明らかに精彩を欠く操縦で、二人の連携が取れていないのは明白だった。むしろこの状態でよく飛べたものだと思うが、この男は感覚で飛ばせてしまうのだろう。だが、だからこそ感情に支配されて二度の訓練ともキル判定を食らったのだ。その飛び方は、いつか本当に命取りになるんじゃないのか。お前は今日、撃墜されたんだ。

    「お前には関係ない。敵の心配する余裕があるのかよ。おれが潰れたら好都合だろ」
     自嘲とともに絞りだされた言葉に思わず眉根を寄せる。そんな考え方で飛ばれては、僚機もたまったもんじゃないだろう。何と言えば伝わるのか……暫し逡巡している内に男が歩みを進めようとしたことに気づき、思わず腕を掴む。
    「ライバルであって敵ではない」
     諭すように言ってやる。たとえトップガンで成績を争おうとも、それとこれとは話が別だ。誤った考えが戦況を不利にする。お前は誰と戦っているんだ。
    「お前が一緒に飛んでいるのは味方機だ」
     弾かれたようにこちらを捉えた大きな瞳に水幕が張るのと同時に、再度顔を逸らされる。
    「………っ……」

     泣かせるつもりはなかった。それどころかこの会話の何が目の前の男の感情を昂ぶらせたのか見当もつかない。俯く寸前の潤む瞳はまだ脳裏に焼き付いている。抑え込もうとする嗚咽の欠片が痛ましい。振りほどかれそうになる手に、知らず力がこもる。
    「グースは……お前の相棒はどうしたんだ? そんな顔をしているお前を放っておくとは思えない」
     本心だった。
     この男をこんな状態で放り出すことに、あの優秀なRIOが危険を感じなかったはずがない。生意気なアビエーターの鼻を明かしてやりたいと思う下種な輩はどこの部隊にも少なからずいるし、ましてや此処は短期招集された不慣れな場所だ。どんな奴がいるか知れない。勿論そんな事態がバレれば懲罰必至、不名誉除隊モノだが、仲間内では大抵見て見ぬふりをされる。そういうものなのだ。
     この美丈夫ならこれまでにも同様の危険があっただろうに、本人もあまりに無防備すぎる……と彼の相棒を思い出し納得する。常に彼の傍らに立ち、肩や腰に回す腕は牽制だ。あんなにも「俺のものだ」と独占欲丸出しで睨みつけるRIOが隣にいては、不埒な輩もなかなか手を出せないだろう。

     とにかくこのまま放っておくわけにもいくまい。
     無事に帰してやらねば、と庇護欲に似た感情に気づき自分を疑った。こんな風に自ら面倒事に首を突っ込むなど有り得ない。そう思いながらも掴んだ手を離すことは出来なかった。


    ―――


     結局、会話らしい会話もないまま連れてきたのは自宅――単身者用の官舎で借用している自室だった。マーヴェリックも同じ立場だと記憶しているが、このあたりで見かけてはいないから別の棟なのだろう。此処に来るまでにした「部屋は」という問いには沈黙しか返ってこなかったので真相は不明だが。
     何にせよ身の安全は確保したのだから文句は言うなよ、と彼のRIOに心の中で釘を刺す。いや、連れ帰ったと聞いたらそれこそ怒り狂うかもしれないが……。常のグースの視線は柔和に見えつつも、確かに周囲へレーダーを張り巡らして索敵しているようなそれだった。

    「座れ。そこに突っ立っていられても困る」
     所在無げに佇む男に声をかける。相変わらず無言のままだが、ひとまずソファに腰を下ろしたのを見てコーヒーの入ったマグをローテーブルに置いてやる。これからどうしたものか。厄介な拾いものをしてはいないか。
     コーヒーに口をつけるでもなく微動だにしない男を一瞥する。朝から気になっていたが、目の下の血色の悪さにぞっとする。
    「眠れていないのか? 酷いクマだ」
     無意識に伸ばした手を払われる。ごめん、と言う小さな声は聞こえたが、急に触れようとしたこちらにも落ち度はあるのだから気にならない。この男との距離を測りかねている。
    「……飯はまだだろう?」
     というか俺の腹が減っている。こいつを拾っていなければあのままダイナーへ行くつもりだったのだ。
    「食欲がない」
    「少しでも腹に入れておけ」
    「…………」
     フリッジの中身は心許なかった気がしたが一人で食べるのも気が引ける。
     顎に手を当てて考えていると、目の前でマーヴェリックがひとつ息を吐いて苦笑する。先程までの張り詰めていた空気はいつの間にか弛んでいた。
     そんな顔を見せていいのか。
    「……その顔」
     思考が口をついて出ていた。
    「ひどい顔だって? 知ってる」
     拗ねたように横を向くが、依然纏う雰囲気は柔らかい。
    「確かに……顔色は、酷いもんだな」
     確かにそうだが、そうではなくて。
     おい、グース、お前がこいつを放っておくから。
    「顔色は酷いけど? 何だよ? その顔、って、おれはどう見えてるんだ?」
     正面から食って掛かるように身を乗り出してくる。生来の負けず嫌いからか今度は目を逸らそうとはしない。初めて会った時から、俺はこの瞳が気に入っていた。溢れんばかりの感情を湛えた、危険を孕む煌めく瞳。それが今、俺を捉えている。
    「いや、……なんでもない。気にするな」
     頭を擡げた感情に蓋をするように交わっていた視線を逸らす。
    「は? そっちから言っておいて逃げるなよ! 敵前逃亡は軍規違反だ!」
     ビシ、と指を突きつけてくる姿に先程までの悲壮感はない。それでいい。くるくる変わる表情は見ていて飽きない。
     これじゃああのRIOが側を離れられないわけだ、と可笑しくなる。
    「だから、敵じゃないと言っただろう」
     くつくつと笑う俺に向けられる驚いた顔も新鮮だ。少し硬さのある髪をくしゃりと撫でる手は、今度こそ振り払われなかった。


    ―――


     充分とは言えない量の食事を二人で平らげ、今日はもう遅いから泊まって行けと言えば、マーヴェリックは心底驚いた様子だった。次いで、そこまで迷惑はかけられない、と困った顔をするものだから、こんな時間に出歩かせて何かあったら余計に迷惑だ、と両断する。尚も譲ろうとしない男に、それなら部屋まで送るとこちらが折れれば、今夜は帰りたくない、と返ってくる。なんだそのセリフは、と天を仰ぎたくなった。
    「今日も眠らないつもりなのか」
     問えばふるふると頭を振って否定される。それなら何故自室に戻りたくないんだ。眠る場所がないんじゃないのか。今のお前が、安心して眠れる場所が。
    「それならここで寝ていけ」
     これ以上の問答は無意味だと有無を言わさぬ声に、マーヴェリックは渋々ながらわかったと頷いた。心做しかその表情に人心地ついた色が見えた気がした。


     シャワーの音が止んだ。
     軍支給のタオルやアンダーは置いてあるし、適当に使うだろう、とシャワーブースへ押し込んでいたが、「あいすまんー」と間の抜けた声に呼ばれる。
    「おれの服がないんだけど……」
     そういえばこいつが着ていたTシャツもまとめてランドリーハンパーに投げ込んだな、と思い至る。マーヴェリックには多少オーバーサイズかもしれないが、俺の服でも問題はないだろうと見繕って持ってきてやる。
    「これでも着てろ」
    「え、いや、さっき着てたのでいいよ」
     この中? とハンパーから拾ってこようとするのを静止する。
    「汗まみれの服でベッドを使われるのは俺が嫌なんだ」
     疑問符を浮かべながら見上げてくる瞳に、だからその顔……と思ったが再び口を滑らすことはなかった。代わりに「ほら、早くしろ」と声をかけるが、当の本人は上の空で「どういうことだ?」と呟いている。どうもこうもないので、さっさと着てさっさと寝てくれればいい。押しやるようにベッドの方向へ促す。が、何かに気づいたように足を止められた。
    「いやいやいや、さすがにベッドは悪いだろ……ソファでいいって。そこまで図々しくはないぞ」
    「駄目だ。俺だってそんな顔色の奴をソファに転がすほど人でなしじゃない。俺がソファで寝るからお前はベッドを使え」
     再び口争いが始まる。何故だかいつもこいつとはくだらない諍いになる。なんでそんなに、とマーヴェリックが小さくこぼした声を拾う。自分でもここまでしてやる義理はないと思うのだが、放っておけないのだから仕方がない。

    「じゃあわかった!」
     グイと手を引かれる。
    「おれはベッドで寝るけど、お前もベッドで寝よう。それならいい」
     何がいいのか全くわからない。今度はこちらが呆けるしかなかった。あのRIOが過保護に守ってきただろうに、こいつの貞操観念は狂ってるのか? さっきまで敵対視していた相手に向ける顔はそれでいいのか?
     色々と気になることはあるが、他意はないと眩しく光る瞳に捕らえられては、何をしようにも出来そうにない。

     これ以上の論争は意味を成しそうになかった。諦めてベッドに横たわりライトを消す。
    「お前は寝相が悪そうだ」
    「…………グースほどじゃない」
     知るか。背を向けて眠りにつく。

    「お前って、もっと冷たいのかと思ってた」
     あいすまんだし、と背中越しに聞こえた虚ろな響きは暗闇に溶けていった。


    ―――


     うわぁっ、と短い叫び声にシャワーを止め部屋に戻ると、ベッドの上できょろきょろと辺りを見回していた男と目が合う。
    「あ、いすま…ん……」
     逡巡しながら眉を顰める男はやがて合点がいったのか、あぁそうか、と独り言ちている。肩口で口元を拭うのを見ながら、そのシャツ俺のなんだが、と瑣末な事を考えた。


     いそいそと帰り支度をしている姿を何とはなしに眺める。朝までゆっくり眠れたようだな、と顔色の良くなったマーヴェリックを見て存外穏やかな気持ちになった。飯を食って、シャワーを浴びて、一晩寝て。幾分かはスッキリしたのだろう。
     結局、昨夜はあのまま二人とも眠りについた。世話の焼きすぎかこちらの方が落ち着かず時折目を覚ましたが、隣を窺えば規則正しい寝息が聞こえるだけだった。一度だけムニャムニャと誰かの名前を読んだように聞こえたが、その音が明確な意味を持つことはなかった。特に魘されてもいなかったので、他愛もない夢でも見ていたのかもしれない。

    「……じゃあ、おれは一旦戻ってから行くから。その、……えーと……ありがとな」
     これは洗って返すから、と着ているシャツをクイと引っ張ってみせる。
     小柄な身体にはやはりオーバーサイズだった俺のシャツを着て、上目遣いにこちらにはにかむ姿をこのまま帰すのは惜しい気がした。何を馬鹿なことを、と自分に言い聞かせる。まだだ。今じゃない。

     そういえば、と帰り際に振り返ったマーヴェリックは、しかし言い出し難そうに目を泳がせる。やがて意を決したのか口にした言葉は、聞かずともそうしてやるつもりの事だった。
    「アイスマン、その、このことは……」
    「貸しひとつだ。ちゃんと返せよ」
     その言葉を聞いて安堵の表情を浮かべると、マーヴェリックはもう一度「悪かった、サンキュ」と笑った。ほらさっさと帰れ、と追い払うように手を振る。送ることも考えたが、さすがに太陽が上り始めるこの時間はそろそろ疎らな人出がある。近くの棟へは問題なく辿り着けるだろう。不必要な気は回さずにおいた。


     このことは、グースには言わないでくれ。
     最後までは言わせてやらなかったその言葉が、マーヴェリックにとってどんな意味を持っていたのかはわからない。二人の関係の名前を俺は知らない。ただ、昨夜の事にお前が疚しさや後ろめたさを感じているのなら、それはお前たちの間にある付け入る隙にほかならない。
     思い掛けない拾いものをした。自然と口角が上がる。奪われたくないものなら、ちゃんと繋いでおいてくれよ。

     相手のミスを待つ持久戦なら、俺のフィールドだ。
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