皇帝陛下の独白 繰り返すため息の理由を聞かれてもきっと私は答えられない。
気づいたら彼の姿を目で追って、彼のことばかり考えている──
皇帝と呼ばれるようになってから数か月ほどは、余計なことを考える暇もないほど忙しかった。それは私にとって、むしろ良かったのかもしれない──父上や兄さんを失った悲しみ、帝国を背負っていかなければならない重圧、それらに心を潰される余裕さえなかったのだから。やらなければならないことに追われているうちに、いつの間にか時間は過ぎて──そんな日々の中で、私は周りの人々に支えられていることを知り、不思議と前向きな気持ちになれた。もちろん、ふとした瞬間に寂しさを感じることもあるけれど。
それとは別に、私の心には変化が起きていた。
ヘクターのことが、気にかかる。
彼の姿を探してしまい、少しの間でも会えないと胸が苦しくなる。
二人きりで話をしたくて、彼を訪ねたりもしている。父上や兄さんの戦う姿を間近で見ていた時間は、私よりもヘクターのほうが長かったはずだから、話を聞きたい──それは半分本当で、あとの半分は彼に会うための口実だ。杯を片手に上機嫌で話す彼の顔を眺めるのが、ここ最近の楽しみだった。彼は笑うと普段より幼い印象になる。そんな笑顔を見せてくれるようになったことが、とても……嬉しい。
こんな私の気持ちに、彼は気づいているのだろうか。
……気づいていないだろうし、気づいたとして彼はどう思うのだろう……。
自分だけでこの想いを抱えているのは耐え難いけれど、誰にも相談できない。いっそのこと、ヘクターに打ち明けてしまえば何かが変わるだろうか。
悩んでもいまだ答えは出ないまま、私は再びため息をつく。
彼が今、私のことを皇帝と認めて側に仕えてくれる。それだけで十分すぎる幸せだ──自分自身に言い聞かせても、この胸が締めつけられる切なさは、容易く消えてくれそうもない。
(END)