Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    白川もひゃろく

    @MoHya06mok

    好きなものを好きに。
    マイタグ「ワンクッション」に隔離系あります。
    マイタグ「小説」は小説です。
    試験稼働中の裏→https://poipiku.com/10025667/

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💞 💝 😘 😊
    POIPOI 214

    白川もひゃろく

    ☆quiet follow

    青空に思いつきで出していた小話に加筆・修正してまとめた小話集です。

    #ドクターマリオ
    dr.Mario.
    #マリオ
    mario.
    ##ドクターマリオ
    ##マリオ
    ##小説

    小話集小話1 「真っ白な存在」

    目が覚めたその日の朝日は、いつもよりずっと綺麗だった。光を遮るものがひとつもない、澄んだ青空が広がっていた。その光を浴びながら、身体を起こす。
    だが、布団が持ち上がらない。
    上がらない、んじゃない。重い、んじゃない。触れた感触がなく、ただ通りすぎている。上体だけがすり抜け、布団はそのままになっている。
    自分の手を見てみると、…ほんのり、透けている、ように見える。透けたその向こうには、影も存在していなかった。

    昨日はそのまま寝てしまったらしく、パジャマから白衣へと着替えをする必要がなかった。何なら聴診器までもそのまま首にかかっている。
    部屋のドアノブは掴めなかったが、身体がすり抜け、そのまま部屋から出られた。
    ……いつものルーティンなら、シャワーを浴びなくてはならない。そのまま寝たのなら、尚更だ。…だが、やはり結果は同じだった。シャワーの蛇口も、回すことはできなかった。

    誰もいない食堂に着くと、食べ物が置いてあった。…だが、食欲がそそられない。それでも手を伸ばした。やはり掴むことはできなかった。
    食堂を後にした後、朝が早いファイター達が歩いて来るのが見えた。談笑しながらこちらへ歩いてくる。その顔はこちらに向いていなかった。

    「おはよう。」
    普段はそうしないが、ボクの体はその笑顔をすり抜けた。
    「あ、…」
    あいさつした手を下ろし、ファイター達の背中を見た。3人はそのまま、こちらに振り返ることもなく、食堂へと入っていった。

    その手をもう一度見た。
    …今のボクは、誰からも見えていなくて、壁もすり抜けていく。何にも触れられない、透明なものになってしまったらしい。
    どうして、そんなことになったのだろう。

    そのまま突っ立っていると、食堂から話し声が聞こえてきた。
    「なあ、今日の試合さ―――」

    ……ああ。そうだ。
    試合だ。試合があるじゃないか…。
    今日はボクの出る試合があるんだった。
    相手は…誰だったか。ぼんやりした記憶の中で、試合表を確認しに戻った。

    だが、表の中に、ボクの名前はなかった。
    …それすら気のせいだったのだろうか。

    ------
    小話2「雨雲から差し込む光」

    一体どれくらい走っていたか。どれくらい走っているのか。もうそれさえも覚えていない。それでも、背後から何かが蠢いている。それを見たくもなくて、ひたすら前を向いて走っていた。
    延々と続く暗い世界は、気を緩めれば溺れてしまいそうだった。気を緩めれば、迷子になってしまいそうだった。気を緩めれば、背後の生き物に捕らわれてしまいそうだった。
    だから、止まることはできなかった。
    進んでいるかもわからないこの空間で、走り続けるしかなかった。

    やがて、足に何かが絡み付いた。状態のバランスを崩し、そのまま両足を取られた。引っ張られるように後ろへとゆっくり引き摺られていく。

    あの生き物だ。あの生き物が今…、
    振り向きたくない。
    取り込まれたくない。
    必死にもがき、暴れ、手を伸ばし、その名を叫んだ。

    「……!!」

    身体はゆっくりと沈み、闇へ染まり、冷たくなっていく。やがて伸ばす手にも、黒く蠢くそれが絡み付いていく。
    溺れる。落ちる。埋もれる。

    全てが真っ黒になりかけた、その時に。目の前に、眩い光が差し込んだ。
    眩く輝く白い光が、絡み付いた闇を消し去った。光が溢れ、暖かい光は更に広がっていく。黒くて暗い世界から、白くて明るい美しい世界が広がった。

    自由になったボクの腕を、知っている腕が受け止め、引っ張った。目が覚めた時には、暖かい腕に握られていた。
    優しい瞳と、目が合った。

    「……マリオ。」

    その名が、ボクを救ってくれるという事を信じていた。

    -------
    小話3「最後の切り札」

    そのまま倒れ込むマリオの元へ駆け寄り、地面に打ち付けられる前に身体を支えた。
    ……やはり、マリオの方がダメージの蓄積が多い。ボクには治癒の魔力がある。だからこそ、同じダメージでもボクの方が回復が早い。

    残る2人で無数の敵を半分は蹴散らしたつもりだったが、それでもまだ敵が多すぎる。このままマリオを連れて一旦は退く事も考えたが、ボクの機動力では追い付かれる。
    …もう、時間がない。

    少し離れた岩場にマリオをそっと置く。
    閉じた瞳に、そっと囁く。
    「……………」
    キミに、それだけは伝えておきたかった。

    再び群れの前に姿を現すと、ゆっくりと瞳を閉じ、深呼吸をする。
    残っていた最後の切り札の魔力を発動させた。胸の中から、熱く燃え上がる魔力を感じる。
    再び勢い良く開かれた瞳の色は、金色だ。

    両腕を広げ、足元から吹き上げる風と共に白衣が靡く。無数のカプセルと注射器、医療具を生成する。次に強く踏み込んだ1歩とともに振り下ろされた腕の両側から、目映い白い軌道を描いて飛んでいった。
    そのまま無数の敵達を次から次へと蹴散らし、互いに数を減らしていく。

    目の前の敵が何体いるかは知らないが、殲滅させる覚悟で残る魔力をありったけ注ぎ込んだ。

    「マリオには、指1本触れさせない。」

    今度は、ボクがキミを護る番だから。

    ------
    小話4「やわらかな非日常」

    「うーん…」
    椅子に座って悩むボクの側では、ちいさなマリオがノートを覗いている。
    ついこの前、ボクはたぬき耳しっぽをつけたままぬいぐるみのようなサイズになり、何日も治らない、という症状に見舞われた。原因も、治療法も不明だ。その症状がようやく治ったというのに、今度はマリオが同じ症状になってしまった。

    原因を考えるのなら、その頃にはほとんどボクがマリオの側にいた、という事だ。そのマリオだけにこの症状が出たというなら、これが何か空気感染するようなものである可能性もある。
    新種のウィルスか?そんなものは聞いたことがない…。少なくとも、体調に悪い影響が無さそうなのが救いだろうか。
    そもそもこのたぬきしっぽを出すこのは自体は乱闘に使われるようなものだ。それが原因だとしても、場外の寮に持ち込む者なんて、思い付かない…。子供たちが持ち帰った可能性も考えたが、問い詰めても知らないと言うばかり。それを信じるのであれば、寮ではなく乱闘の時点で何か起きたのだろうか……。

    腕組みをしながら考えていると、頭の上からノートへとマリオが落ちてきた。
    「ああ…ごめん。キミのその症状について考えていたんだけど、」
    マリオがそのまま、またノートを覗き込むものだから、しっぽが鼻に触れた。…ふかふかだ。

    自分にこの症状が出ていた時に、しっぽはとてもふかふかしていて、触るととても安心するようなものだった。抱えて眠るといつもより寝心地が良いくらいだった。そんな事をふと思い出した。
    「…マリオ、少しだけしっぽを触らせてくれないか?」
    気が付いた時にはそんな言葉を口走った。
    あっ、と漏らす前にマリオはにこっと笑って頷いた。耳としっぽがふよふよと嬉しそうに揺れる。
    それを見た時、ボクもつられて微笑んだ。
    ------
    小話5「百日草を紡ぐ」

    息が苦しい。身体が、重い。頭が朦朧とする。布団の中で聴診器が一緒に輝いているが、それでも治癒の魔法は追い付かず、ますます暗闇へと沈んでいく。
    今は、安静にすべきだ。この隔離された部屋で、この何かを、誰にも移さないために……。医者としても、それが最善の行為だ。とはいえ、それでも、ここにたった1人でいることは………
    「………、」
    咄嗟に、あの名前が口から溢れた。
    重いカーテンから透ける光は、まるでそれを思い出させるようだった。


    18の表札がある部屋の前で立ち止まった。ドアの向こうからは何の音もせず、何の気配もない。ドクターは、今はここにはいない。

    『いかないで、マリオ…』
    その言葉を、思い出した。

    ベッドの中で小さくなって。苦しそうにボクを見つめて。ボクに気付いた時の安心した表情。それでも寂しそうな表情。ボクを引き留める言葉。あんな表情、見たことがない。それこそ、側にいてあげたかった。
    でも、マスターが隔離部屋に連れていくと決めたなら、ボクはそれを止めることはできない。様子を見に行きたい気持ちもあるけど、許可が出ないなら、尚更。

    絶対、大丈夫だよ。
    その言葉を、ドクターに伝えたかった。



    暗い暗い暗闇。ぐるぐると回る頭の中。重くて動かない身体。重くて動かない目蓋。早い鼓動。早い呼吸音。ずっと、ずっと、苦しい。ずっと、ずっと、沈んでいく。苦しい。苦しさから、逃げたい。苦しくない、ところにいきたい。出口はどこだ。出口は、ない。じゃあ、沈みたくない。沈まないように、しないと。でも、なにも、ない、なにも、つかめ、ない。
    いやだ。こんな、ところに、いるのはいやだ。
    光は。光はどこにある?だれか。だれか、来てくれ、助けてくれ。
    ボクを……独りに…しないでくれ…。

    「………!」
    あの名前を、願った。
    強く強く、願った。
    何か大きな光を感じた。

    僅かに、ボクの名を呼ぶ声が聞こえた。


    消灯時間も過ぎ、ベッドの上で天井を見つめていたその時だった。ボクの名前を呼ぶ声がはっきりと聞こえたと共に、温かい光に包まれた。
    身体はふわりと浮き上がり、光は更に強くなる。眩しさに思わず目を閉じた直後、今度は目の前にキミがいた。

    厚いカーテンと布団の中で、1人で瞳を閉じている。布越しに見える小さな光は、さっきの光と同じものに見える。

    キミがいるなら、隔離部屋だ。
    つまり、ボクが来てはいけない部屋。
    他人を入れられない部屋に連れてきたということは、きっとすごく強く願ってくれたんだ。

    「ドクター。大丈夫だよ。キミなら、絶対に、大丈夫。」

    異変に気付いたマスターが、すぐにボクを連れ戻した。
    ------
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works