#02旋律 『ノクターン第2番』 イスマの夢 チリリン…
静かな店内に来店を知らせるドアベルの音が響く。客がやって来たようだ。平日の昼間に客が来ることは少ないのだが…。
読みかけの分厚い本から目を外し、カウンター越しに入り口の方を見やる。白いシャツに黒いパンツ姿の長身の男がこちらに向かって歩いてくる。それはよく知った人物だった。
「あぁ、君か。よく来たね。」
「こんにちは、オーナー。ひと月ぶりくらいかな。」
「そうだな、元気そうで良かった。」
「にゃー。」
「やぁ、レム。君も遊びに来たのかい、ゆっくりしていきなさい。」
「んにゃー!」
レムと呼ばれた黒猫は物珍しそうに店内を探索し始めた。
癖毛の黒髪に深紅の瞳、彼はこの店に良く来る常連客だ。常連と言っても、月に一度来るか来ないかだが…。
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