実験室のドアをノックする。この時間ソーンズが使用していることは確認済みだ。返事がないことを確かめてからドアを開ける。
「ソーンズ、今大丈夫か?」
「ああ」
手元のビーカーに何かの液体を測って入れているソーンズは、おそらくノックをしたのがドクターだと言うことが分かっている。返事をしたのに、ドクターを振り返りもせずに手元を見つめたままだった。
「邪魔してすまないな」
「構わない。オペレーターにとってお前の命令が最優先だ。それに、問題があればお前が入る前に警告をしている」
「そうだろうな」
それにドクターも気分を害することも、遠慮を感じることもない。ソーンズのその態度が、気安さからの無反応であることは承知だった。ソーンズとの付き合いは長い。ソーンズの一見無関心や愛想のない反応は、ドクターが気にしないことをソーンズも知っているからだ。実際、薬品を入れ切ってもソーンズはドクターには向き直らない。実験に集中している様子のソーンズに、ドクターはその手元が狂わないタイミングで話を切り出した。
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