ぼっちゃまと従者「おはようございます、ぼっちゃま。本日はスパイスを効かせた異国風のミルクティーをご用意いたしました」
鼻腔をくすぐる嫌な香りと、聞き覚えのあるこれまた嫌な声音にエリオットは顔を顰めながら重い瞼を開けた。
見慣れない天井に一瞬戸惑ったが、そういえば昨夜は宿へ戻らなかったことを思い出す。何だかんだあってすっかり夜も更けた頃、「客室もありますから、良かったら」と引き留める後輩の家の厄介になったのだ。
「……何の茶番だ、これは」
苦々しげに吐き出すと、ベッド傍に控える従者然とした男が「おや」と心外そうに呟いた。
「人のことを散々従者と呼ぶものだから、そう振る舞って欲しいのかと思ってね」
にこやかな笑みを浮かべたアイザックは、寝起きの機嫌の悪さも相俟って今にも吐きそうな顔をしているエリオットを見下ろした。
「モニカが一緒に朝食を取ろうと待っているんだ。早く支度してくれないか」
有無を言わさぬ圧でそう告げると、アイザックは踵を返して客室を出て行く。
サイドテーブルに残されたモーニングティーが醸し出すシナモンたっぷりの芳香に、エリオットは再度顔を顰めて「クソ従者」と舌打ちした。