文句の一つも言いたくなる「ただいま、モニカ」
玄関先でそう告げると、奥からパタパタと足音が聞こえる。
「おかえりなさい、アイク」
さながら子リスの様にひょこりと顔を出すモニカの姿に、アイザックは作り笑いではない自然な笑みを溢した。
今ではすっかり馴染んで当たり前になってしまったこの遣り取り。まるでそう、家族のような。
「何か良いことありました?」
口角の角度が上機嫌な時のそれだ、とは口に出さずにモニカが尋ねた。
「そうだね、君がおかえりと言ってくれるのが嬉しくて」
素直に答えると、モニカはぱちくりとその丸い目を瞬く。
「……アイクが嬉しいなら、わたしも、嬉しいです」
きっとお師匠様らしく、弟子に優しい声掛けをしたかったのだろう。モニカはニヘニヘと締まり切らない顔を変に取り繕って小難しい表情をしていた。
「そうじゃないんだけど、まぁいいか」
「何が、ですか?」
ポカンとする様も、またたまらなく愛おしい。なので、どうしても少しばかり揶揄いたくなってしまう。
「君と家族になったような気になるのが、いいなって思ってね」
熱っぽい視線を送ってみると、モニカは曖昧にはぁ、と頷いた。
「えっと、あの、ここは自分の家だと思ってくれていいんですよ」
言葉を選んでくれてはいるが、やはり婉曲した表現だと伝わらないらしい。
「君と本当の家族になりたいと言ったら、どうする?」
「はひゅ え、アイクがわたしの家族、ですか? えと、あの、それは……わたしは既にヒルダさんの養子ですし、その、アイクは第二王子で……。あ! アイザック・ウォーカーの戸籍が必要ってことですね! それならわたしの、〈沈黙の魔女〉の養子ってことにすれば問題ないかと! あ、え、でもアイクの方が年上だしわたしもまだ未成年だし、やっぱり養子っていうのは変ですかね」
あうあうと涙目になる偉大なる魔女の姿に、アイザックは笑顔を崩すことなく固まった。
「どうして、いつもそう斜め上の発想になるのかな君は?」