幸せな夢 僕にはルガロアで医者をしている父がいる。跡を継ぐ身として医学の勉強をする傍ら、とある出来事がきっかけで独学で魔術も学ぶようになった。
そのきっかけは、何かとても大きな意味のあることだったような気がするけれど、もう随分昔の話で具体的な事は何も覚えていない。ただ、魔術は無限の可能性に満ちていて、僕の知的好奇心を傾かせるのに充分すぎる魅力があった。
階下でパンの焼ける香ばしい匂いにつられ、意識を現実に引き戻す。
どうやら昨夜も机に突っ伏して眠りに落ちてしまうまで、お気に入りの論文を読み耽ってしまっていたようだ。身体中からギシギシと嫌な音がするような痛みに苦笑する。幸い暖かい季節なので、こんな休息の仕方でも風邪は引いていない。体は丈夫な方なので杞憂ではあるが。
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