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    漫画で描きたいなって思ってるプロット

    幸せな夢 僕にはルガロアで医者をしている父がいる。跡を継ぐ身として医学の勉強をする傍ら、とある出来事がきっかけで独学で魔術も学ぶようになった。
     そのきっかけは、何かとても大きな意味のあることだったような気がするけれど、もう随分昔の話で具体的な事は何も覚えていない。ただ、魔術は無限の可能性に満ちていて、僕の知的好奇心を傾かせるのに充分すぎる魅力があった。

     階下でパンの焼ける香ばしい匂いにつられ、意識を現実に引き戻す。
     どうやら昨夜も机に突っ伏して眠りに落ちてしまうまで、お気に入りの論文を読み耽ってしまっていたようだ。身体中からギシギシと嫌な音がするような痛みに苦笑する。幸い暖かい季節なので、こんな休息の仕方でも風邪は引いていない。体は丈夫な方なので杞憂ではあるが。
     階段を降り切った先で、父母が僕の姿を見て苦笑した。変な寝癖でもついているだろうかと、慌てて髪を撫でつける。
    「昨夜は遅くまで頑張ってたようだな」
     父が自らの目元をトントンと軽く叩くので、寝癖ではなく隈が出来ているのだと気付いた。
    「うん、検証したい魔術式が……」
     医学の勉強ではないバツの悪さに目を逸らす。毎度のことなので、父母は困ったように肩を竦めて目配せし合っていた。
    「あぁ、そういえば先程〈沈黙の魔女〉様からお手紙が届いていたわ」
     そう言って、母が一通の封書を手渡してくれた。
    「え! 本当?」
     見たこともない素敵なプレゼントを貰った子供のように、年甲斐もなく僕はその封書に夢中になった。
     顔も知らない憧れの魔女。数ヶ月前、ケルベック伯爵領に現れた翼竜の群れと、伝説の黒竜をたった一人で退治した英雄。若干十五歳で七賢人に就任した無詠唱魔術の使い手。どうしても彼女に近付きたくて、僕は自らの考案した魔術式への意見を求めて彼女に手紙をしたためていた。
     その彼女から、返事が届いた。まるで奇跡のような現実に、胸の高鳴りが止まらない。
    「……僕の仮説はとても興味深いだって。こっちは術式の解説……すごい……」
     興奮を隠せずにその場で手紙を読み耽っていると、「兄さん邪魔〜」という気怠げな声が聞こえてきた。弟のコリンだ。
    「浮かれるのもいいけど、先に顔洗ってきなよ。酷い顔してるよ」
     僕はそんなに酷い顔をしているのだろうか。確かに昨夜、というか記憶の最後には空が明るくなりかけていたような気はしたが……。
     そうして、僕は壁掛けの鏡を見た。

    (誰だ、これは……僕の顔じゃない……これは……)

     そこに映るのは、優しげな顔をした、見目麗しい青年だ。
     似たような金髪と瞳の色ではあるが、ともすれば睨んでいるようだと言われる目付きの鋭い自分の顔ではなかった。

     ◇ ◇ ◇

     アイザックはソファの上でガバリと身を起こした。
     その顔は青白み、冷や汗が頬を伝う。咄嗟に周囲を確認すると、どうやら自分はモニカの家のソファで居眠りをしていたらしい。
    「はは……。最近慌ただしかったから……」
     思わず声に出して呟いてしまう程に動揺していたらしい。
    「どうしたんですかアイク」
     慌てたモニカの声に、アイザックは漸く我に返った。
    「何でもないよ、大丈夫」
     笑って誤魔化すアイザックの肩を、ふわりと柔らかい物が覆う。モニカが、腕を目一杯伸ばしてアイザックの双肩を抱き締めていた。
    「そんな顔して、大丈夫な、人は、いません……」
     少しばかり怒ったような口調で、モニカは弟子を嗜める。
    「僕はそんなに酷い顔をしている?」
     困ったように眉尻を下げるアイザックに、モニカは無言でふんふんと頷いた。
    「わたしは、アイクのお師匠様です。弟子が困っていたら、力に、なりたい……です」

     いつぶりだろう、悪夢にうなされてこんな風に誰かに抱きしめてもらうのは──

     遥か遠い子供の頃の記憶を掘り起こしながら、アイザックはモニカの腕に頬を寄せた。
    「大丈夫、夢を見ていただけなんだ」
    (そう、まるで御伽噺のような幸せな夢を──)
     尚も心配そうに覗き込むモニカに、アイザックは何でもないようにフフッと微笑む。
    「ありがとう、マイマスター」
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