足が壊れた西武園の話 先日、西武園が誘拐された。
何を言っているのかわからないと思うが、それは言っている国分寺が1番よくわかっている。国分寺達鉄道はそうそう簡単に何かあることはない。誘拐だって簡単にできるわけがないのに。
西武園が帰ってこない、無断欠勤をしたことから発覚したことだ。
西武グループ路線、社員達総出で探した。ただの家出ではないと直感したから。もしかしたら、何かの事件に巻き込まれているかもしれない、と。
それが大当たりだったと知れたのは西武園が大怪我して本社前に届けられていたこと。放置されていた、ともいえる。この子の血で地面を汚して、顔色は最悪。暴行を受けた様子は見受けられなかった。発見者である池袋と西武秩父が自分達の存在について忘れて呼吸を確認したくらいには酷い有様だったようだ。
犯人の動機も西武園が狙われた理由はわからない。もっと言えば、犯人も特定されていないし、捕まってすらいなかった。
「おはよう! 国分寺。今日も来てくれたんだな!」
西武園は怪我が怪我なため、本社に保護されている。家に帰れないのも、その怪我が理由だ。家では彼が生活するための環境が整っていない。
「車椅子の生活は慣れたようだな」
少し拙い動作で車椅子を操作してこちらへよってくる西武園に国分寺は眉を下げて笑う。随分慣れていているようだが、慣れてほしくもない。
――早く治って一緒に帰ろう
そう言えたらどれだけ幸せなのだろう。
怪我をしていたのは足。走るために必要なそれが動かなければ家には帰れない。宿舎は古い家だ。車椅子での生活はできない。
ーー鉄路は問題ないのにな
足の腱を切れらて足を使えない。犯人を捕まえれば万事解決とはでは行かずとも、解決できる可能性が高いのだが。
「おう! なんでこんな怪我してんのかわかんないんだけど、慣れた! 早く家に帰れるように頑張るから!」
パッと笑う西武園に国分寺が泣きたくなる。
国分寺達の元へ帰ってきた西武園は、何も覚えていなかった。誘拐される前の記憶が曖昧なのだ。当日の勤務や退勤時のことは覚えていた。だが、それ以降の記憶は一切ない。もっと言えば、彼がどのような扱いを受けたのか、どこにいたのか。どんなことが起きたのか。
なぜ、本社の前で放置されていたのか。
何も覚えていなかった。人間達は人間の防衛本能的ななにかが働いたのではないか、と言っていたが。
――つまり、
それだけ西武園が酷い目に遭っていたということ。納得したくない気持ちを、社員達は理解してくれているだろう。
「早く元気になってくれよ。みんな心配してるぞ」
頭を撫でてやれば嬉しそうに笑う。その笑顔が変わっていなくて辛い。他の面々も西武園を心配しながらここに来ないのは理由がある。
ーー大怪我してる西武園が何も変わらないから
笑顔も雰囲気も、何もかも。それを見ているのが辛いから、なかなかここに足を運べない。
「お前には寂しい思いをさせるな」
早く家に連れて帰りたい。だが、この場所が1番安全なのだ。
「なんか分かんねえけど、俺が怪我したせいだし、……迷惑かけてごめんな?」
この子を守るための力を、国分寺は持っていない。本当ならばこの子を自分達の手で守りたいのに。
本社以上に安心できる場所がないし、常に人のいる場所で厳重に管理しなくてはならない。社員達は国分寺達を慮って宿舎を改修しようと言ってくれた。
だがだめだ。
家では西武園を守り切れない。
また同じようなことが起きないとも言い切れなかった。少しでも安全な場所で安心して暮らしてほしい。
「迷惑なんかじゃないさ、また一緒に暮らそうな」
待ってるからね。
なかなか治らない足に不安は残る。それでもこの子は西武の路線だ。家族は安心して幸せに暮らしてほしいと思うのが兄心だ。きっとこれからもこの子も含めて西武で楽しく暮らすのだと。
「新宿達、俺のせいで忙しくしてるんだろ? だからきてくれねぇんだろ? 俺、頑張るから」
不安そうな西武園を抱きしめるので精一杯だ。
ーー新宿の話は振らないでくれ……
元気に犯人の特定に情報収集してるとか話せないから。何も覚えてない西武園には言えないことだ。
それでもこの子が寂しい思いを知ってるのは理解している。だから、
「今日は俺、非番だからさ。好きなところに連れて行ってやれるよ」
嬉しそうな西武園を連れて外に出ることにする。働いてる家族を遠目でも見に行くのもいいだろう。