情事の後。丸井はまだ熱の残る身体をベッドに預けていた。目の前にはベッドライトにぼんやりと照らされた恋人の背中があった。
まだ、足りない。先程までは十分すぎるくらい満たされた気持ちでいたのに。己の欲の底知れなさに丸井はひとり、苦笑していた。
「な。ちょっとだけ……触ってもいい?」
自分が足りないだけなら、自分で自分を満たせばいい。そうは思っていたが、どうしても、その背に触れたい気持ちが勝った。嫌だと言われたら、大人しくそれに従えばいいのだから。
「……好きにしてください」
ところが、返ってきたのはそんな答えだった。丸井は目を丸くしてから、頬を赤らめた。恋人がこちらに背を向けたままなのが幸いだった、と思いながら。短く、深めに呼吸を整えて、なるべくいつもの声音を出せるよう気をつけた。
1250