年月「キテレツってさ、俺がくっつくと嫌がんじゃん」
丸井が言う。ジョギング中に何を言い出すのかと思い、木手は返事をしない。しかしそれに構うことなく、丸井は続けた。
「なのに甲斐が同じようなことしてても何も言わねぇよな」
チラリと木手の横顔を見てみるが、真っ直ぐ前を向いたままだった。初めから答えが来ることに期待していないが、こうも無反応なのはつまらなかった。まぁいいか、と丸井が諦めかけた頃、木手が口を開く。
「甲斐くんとは、ずっと一緒にいたからね」
普段の木手よりも随分と砕けたその口調に丸井は内心驚いた。
「『そういうもの』だと私も思っているんですよ」
「ふーん……」
甲斐以外の比嘉中のメンバーは甲斐ほどの物理的な近さはない。しかし、明確に精神的な距離が丸井や他の選手たちとは異なっていた。それは別に木手に限らない話であり、丸井自身もそういった部分があることを自覚している。しかし、
「ちょっと、羨ましいな」
「……」
誰にでも等しくあるはずの年月というものが、今の丸井にとっては何だかとても煩わしいもののように思えた。もし、自分が比嘉の選手だったなら。あるいは、木手が立海の選手だったなら。そんなことを考えてみたが、すぐに止めた。考えたところで無駄だと気づいたから。
足を早めると、頬に当たる風が強くなった。
「なら気長にやってくか……」
ポツリと呟いた丸井の声は、木手に届かない。
「何か言いましたか?」
「んーん。気にすんな!」