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    ameui_LS

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    雨と👟と🦁(🦁👟🦁未満)

    #Lucashu
    #Shuca

    雨が好きな理由 ポツポツ、コンコン、パタパタ。
     雨が街を打つ音は、よく聞くとバラエティに富んでいて飽きが来ない。傘を叩く音、金属を叩く音、瓦を叩く音、コンクリートを叩く音――どれも僕は好きで、雨の日は窓の外を見ながら耳を澄ますのが日課になっている。実際こうしてると雨に混じって強い呪力の音が“聞こえる”こともあって、仕事面についても結構効率がいいのだ。

     今日は朝から雨だった。いつものように外を眺めて、周りの音を拾う。
     窓の外に張られた電線からポタリポタリと垂れる雫を視線で追っていると、ふと視界に黒い傘が映った。遠目からでは真新しく見えるその傘だが、実のところそんなでもないことを僕は知っている。上質な素材で出来た物は、たとえ使い古していたとしても、大切にしていれば綺麗に保たれるのだ。
     ちょっとした思いつきで、体に自分の呪術をかける。ふわりと浮かんだ身体で慣らしに少し空中を回ってから、窓から出て黒い傘の元へと向かった。上からノックでもしようものならきっと凄く驚いてしまうから(反動で銃を向けられる可能性もかなりあるし)ちゃんと視界に入ってやろうと前に回り込んだ。
    「やあ」
    「っわああ!?!? ……し、シュウ! び、びっくりした!!」
     ありゃ……結局驚かせてしまった。やっちゃった、と頬を掻く。
     ルカは自らの胸を手で押さえながら「オレめちゃくちゃ心拍数上がってるよ!! 心拍計がここにあったらとんでもないことになってる!!」と騒いでいた。
    「ごめんごめん。ルカくん、どこか行くの?」
    「はあぁ、もう……どこって、仕事だよ。取引の予定があるから」
    「雨なのに?」
    「前々から相手と計画を立ててたんだ。そうでもなかったらこんなに雨が降ってる日に外なんて出ないって」
    「それもそっか」
     傘を差したまま僕を見上げるルカ。僕は傘など持たずに雨に打たれるままぷかぷかと浮かんでいる。僕が少しの間なら空を飛べたり物を動かせたりするのは周知の事実なので、そこにツッコミは入らない。
     そのまま普通に雑談をしていたのだが、状況に気がついたのかルカはハッと我に返ると、慌てて傘を持った手を前に突き出した。
    「シュウ! 濡れちゃうじゃん、オレの傘入っていいよ!」
    「大丈夫だよ。僕結構雨好きなの」
    「そういう問題じゃ……風邪引いちゃうって」
    「呪術でなんとかなるって」
    「そんなに万能じゃないでしょ……この間普通に体調崩してたじゃん」
    「んははは、バレた」
     笑いながらくるくると宙を回る。肌と服を雨がぱしゃぱしゃ打って、濡れていく感覚が嫌いじゃない。もちろん家に帰れば正気に戻って、肌に張り付く感覚は不快で顔を顰めてしまうこともわかってるけど――今日はなんだか、テンションが上がってる。
     すごく楽しくて空気を蹴りながら空中を翔けていると、やがて腕を掴まれて傘の中に引っ張りこまれた。
    「こら!」
    「あ、楽しいのに~」
     黒い傘の下、白い帽子とスーツのコントラストが目に眩しい。怒った顔をしたルカが僕を見つめて――睨んで?――いて、ゆっくりと口を動かし「だ・め!」と叱った。
     仕方なく雨の中で遊ぶのは諦めて、ルカの傘の中で雨音を聞く。ビニール傘に当たる時の重たい音とは違って、表面に当たったそばから拡散されて斜面を滑り落ちていくような軽い音がして楽しい。思わず鼻歌を歌いながら傘の中を見回すと、ルカの持つ柄の部分に“L.K”のイニシャルが入っているのに気が付く。
    「ルカくん専用の傘なんだ」
    「うん? ……ああ、この傘? まあね。ボスになった時に、兄貴がくれたんだ」
     そう言うとルカはくるりと傘を回して見せた。マフィアといえばなんとなくこんな真っ黒な傘のイメージがあるけど、ルカ自身のイメージには合っていないような気がする。だからといって合うものが思いつくわけじゃないから、思っても言わなかったけれど。

     家までそう距離も離れていない。二人で傘の中にいた時間はあまり長くなく、あっという間に玄関についた。
     軒下に入って、ルカが傘を閉じて数回振ると、それだけで水滴はほとんど残ることなく地面に振り落とされた。高級な傘って時代は違ってもやっぱり凄いんだな、なんてどうでもいいことを考えていたら、背中を軽く押される。
    「ほら、玄関ついた。部屋戻りなよ」
    「もう少し遊びたかったけどな」
    「駄目だよ。外で遊ぶなら晴れてる時に遊ぼう? オレも付き合うから」
    「晴れてる日は眩しいから外あんまり出たくないんだよね」
    「…………。わかったよ、外じゃなくてもいいから。頼むからさ、風邪引くようなことはしないでよ。ね?」
     ルカは僕の額に張り付いた前髪をかきあげた。そのまま宥めるように頭を撫でられて、突然のことに僕は動けなくなってしまう。
    「シュウが楽しそうなのは見てて嬉しいけどさ。それで風邪引いたら、オレと……うーん、その、みんなで遊べなくなるじゃん。だからね、お願い」
     ラベンダーの瞳が覗きこむように僕を見る。あまりにもそれが真っ直ぐで、手で触れることの出来ない胸の奥がくすぐったいような心地がした。
     目を合わせていられなくなって、視線を泳がせる。しばらくそうしていてもルカは引かない様子だったので、小さく「わかった」と返事をした。
    「うん、いい子!」
     途端に真剣な顔をしていたルカは破顔して、逃げる隙も与えずに両手で僕の頭をめちゃくちゃに撫でまくった。わああ、とつい叫べば、ルカはいたずらが成功した子供のように楽しそうな笑い声を上げる。
     控えめに抵抗しながらも、嫌ではなかったのでされるがままになっていると、やがて満足したのかその手が離れていく。ぐしゃぐしゃにされた前髪で視界が悪く、頭を振ってなんとかルカを見上げた。
    「ふはは、猫みたいだ! ……じゃあね、シュウ。いってきます」
    「うん。いってらっしゃい、ルカくん」
     そう返すと嬉しそうに笑いながら頷いて、また傘を開く。そのまま軒下を出て歩きながら、ルカは何度もこちらを振り返っては手を振っていた。
     そのうち坂道に差し掛かって後ろ姿が見えなくなったかと思うと、傘がくるりと一回転したのが見えた。それが挨拶のように見えてつい吹き出して、僕はくすくす笑いながら部屋に戻る。

     雨が好きだ。雨が街を打つ音が好き。空が曇って暗いのが好き。雫が皮膚に触れて弾ける感触が好き。
     それから実は、君が黒い傘を差して歩く姿が、格好良く見えて好きなんだ。きっと君は、そんなことこれっぽっちも知らないだろうけど。
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