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    sbjk_d1sk

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    友愛の期間を煮詰めすぎている鯉博、ネタ消化話。タイトルに意味はないです。

    ピニャータ 弊ロドスのドクターはドクターの時は中性的な口調、プライベートの時はやや女性よりの口調になります。以前のふせったーに投げた無駄に長い話の続きみたいなものですが、読まなくても問題ないと思います、多分。




     黒はすべての色を混ぜた色なのだという。なにものにもなれない色が本来は何色でもあり、かつてなんだったかはもう誰にもわからない、というのは面白くもあり、自分のようだとドクターは親近感のようなものを感じている。ドクターであることを望んで、少なくともロドスが掲げるなにもかもが終わるまではドクター以外にはなれないだろう。かつての自分もドクターであったのは確かだが、それ以外のかつてはなにも知らない。透明なドクターは、黒く塗りつぶされた過去への扉を抱いている。しかし悪い気分ではない。どうやら散々で、あまり良いとは言えなかった人格を持っていたらしい過去と決別できるというのは、新たな人生を歩むことができるということだ。後ろ髪を引かれる思いがないかと問われればもちろん嘘になるが、その罪の意識にどっぷり囚われる必要はないのだと、あなたはあなたなのだと言ってくれた彼がいる。故に、彼と過ごす日々のうちはドクターではない人間であることを、鏡に映るひとりを許してあげようと思った。
     と、考えに耽り終えてからクローゼットの扉を閉める。深呼吸をして、もう一度開ける。そんな行動を何度か繰り返してみるも、魔法もなければアーツもない至って普通のクローゼットの中身は変わりはしない。一面の黒と差し色の青に、ドクターは頭を抱えた。

     時は数時間ほど遡る。
     少し前までタイムカードを切った後も自室に仕事を持ち帰り理性を消化し続けていたことがとうとう白日の下に曝され、ケルシーの提案により医療部を通り越してアーミヤに叱られた。おそらく自分より年下の、可愛い可愛いアーミヤに叱られるというのは想像以上に心に響いた。罪の意識にかられるというよりも、アーミヤにこんなことで怒らせてしまうことへの申し訳なさが、もう、すごかった。もうしません、許さなくてもいいです、だからもう怒らないで、私たちの可愛いアーミヤ。そんな優しい彼女を怒らせた代償として、私は数日休日を与えられた。ご丁寧に執務室の電子キーはクロージャ協力のもと、休日終了まで固く硬く閉じられてしまった。こんなにも休暇を強要する企業があるだろうか。
     休暇初日。何をすればいいのかわからず、結局ドクターの姿でロドスの中を歩き回ってみる。あてもなく歩き回れるというのも贅沢だな、と僅かな駆動音に耳を傾けていると喫煙ブースに辿りついた。ドクターは現在非喫煙者であるが、過去はわからない。しかし体にわるいこととはわかっていても、わるいことほど魅力的に見えるものだ、意気揚々と歩幅も大きく喫煙ブースに足を踏み入れると、数人にオペレーターの姿が見えた。やぁ、と声をかけると全員は驚愕の表情に染まり、長かったり短かったりそれぞれのタバコの火を消してしまった。
    「なんでさ」
     ここは喫煙ブースだろう。なんで火を消すんだ。私はそれは把握して入ってきているんだぞと口にしたが、全員が首を横に振ってドクターの身体をくるりと反転させた。そのまま背中を押される。
    「ドクターが良くても俺たちが駄目なんです」
    「ケルシー先生に叱られるのは御免です」
    「ドクターには綺麗な空気吸っていてもらわないと」
    「はいはい出口はあちらですよ」
     ついさっき通ってきた扉まで戻され、ドクターは扉の縁を両手でつかんで抵抗した。オペレーター、それも複数人ともなればそんなドクターを剥がすことなどどうということもないが、まるで駄々をこねる子どもを相手するように力で押し切るようなことはしない。頭上から笑い声まで振ってくる始末だ。
    「いや、なにしてるんですか」
     廊下から新たな喫煙者が会話に参加し、全員が顔を上げる。あっ、とドクターが声をあげながらうっかり手を離し、そのままその人の体に突っ込んでしまう。勢いよく飛び込んだにも関わらずその人はびくともせず、優しく肩を掴まれたおかげで身構えていたような衝撃は訪れなかった。ふわりとタバコと、彼が淹れてくれるお茶の香りが肺に落ちていく。
    「こんにちはドクター」
    「こんにちは、リー。聞いてくれ、みんな私が喫煙ブースに入るのを嫌がるんだ」
     美しい金色は目を細め、くつくつと何が面白いのか肩を震わせて笑った。
    「それはそうでしょう。ドクターと呼ばれる人に受動喫煙なんてさせるわけにはいきませんからねぇ。そんであなたはどうしてそんなことを?」
    「暇を持て余しているんだ。強制労働ならぬ強制休暇中でね」
     肩をすくめて見せると、リーも後方のオペレーター達も揃って笑い出した。むっとしてドクターは腕を組む。人の不幸を笑いやがって、と口を尖らせてやる。
    「ほら君たち。おかしいのはもう治まったか?」
    「あはは。はぁ、治まりましたよ。すいません。ドクターは退屈しているんですね」
    「そうなんだ。だから見聞を広めようとしたんだよ」
     じゃあさ、とオペレーターの内のひとりがひとさし指を立てながら呟いた。全員の視線が一点に集中する。
    「龍門が近いんだし、龍門に観光でもどうです?あそこならまず退屈とは無縁でしょうし、ちょうどリーさんもいるじゃないですか」
     天井を指していたひとさし指がそのままリーへと向けられ、同じように視線がリーへと移っていく。
     確かにドクターは龍門をプライベートで訪れたことは無いが、龍門出身のオペレーター達はロドスにも大勢所属している。彼らが育ち、自慢げに話す地を訪れてみたいと思ったことはもちろんある。しかし如何せん急すぎる話だろう、リーにも彼の探偵業があるのだと断りを入れようと口を開いたとき、リーの心地良い声が嗚呼、と零れた。
    「それはいいですね、そうしましょうか」
    「は?君、事務所はいいのか?」
    「別に探偵なんてのはね、常に仕事詰めって訳じゃあないんですよ。あなたと違って」
    「私ひとりでも観光くらい「やめてくれドクター」「龍門と戦争になったらどうするんですか」「トラブルに首突っ込むに所持金かけてもいい」……なんでさ」
     彼らの中のドクター像を問う必要があるのではないか?とドクター自身が疑い始めたが、もう空気は完全にその流れになってしまっている。
    「でも流石に急ですからね。明後日はどうですか?」
     ん?とこちらを優しく伺うリーはにこにこと人好きしそうな顔で尋ねてきた。予定など確認する必要もないし、予定を欲している身だ、君が良ければと返事をする。では、この時間にお迎えにあがりますねと約束を交わすと、リーは本命の喫煙を果たすことなく踵を返して廊下を戻っていった。その背中を見送っているうちに、背後の喫煙ブースの扉も内側から閉まられる。オペレーター数人がかりでドアノブを押さえられては非力なドクターにはもうなす術は存在せず、顔を覚えたからなと冗談交じりに捨て台詞を吐いて自室へと戻ることにした。

     あの場ではとんとん拍子で話が進んだが、自室に戻って息ついてみると心が躍ってくる。完全にプライベートの外出だ。落ち着きなく部屋を歩き回ってみたり、カレンダーを眺めてみたり、時計の秒針を追いかけてみたりといった奇行に走り始める。一般的に遊びに行く、という時は何を持って行くべきだろうか。龍門の有名なものはなんだったか。そわそわしながら遠くはないお出かけの日に胸を躍らせていたところで、ハッと優秀な脳が懸念点を導き出す。
     服。そうだ、ドクターではない装いが無い。
     慌ててクローゼットを開いて、今に至る。
    「どうする、どうする、どうする、どうする、どうする」
     生まれかわって短いドクターにはファッションセンスへの理解が足りず、また忙しさのあまり私服を着るという生活を送っていなかった。そんな自分が、明後日までに余所行きの服を用意になければならない。まるで重装でなければ抱えられない重機に術師が乗ってきたような、怒りと絶望に近い感覚が足元から襲ってきた。急いで端末に手を伸ばし通販サイトを漁り始める。もうどんな組み合せがいいだとかもわからないドクターは、それなりにいい値段の、信頼が置けそうなブランドの頭のてっぺんから足の爪先までフルコーディネートされた服に隅々まで目を通す。
     太陽が地平線に隠れ始めるまでネットサーフィンをしていたところで、ようやくドクターはある服に目が留まった。自分の普段の装いとは正反対の色彩が目に飛び込んできた時、真っ先に浮かんできたのは自分ではなくリーの子どもたちだった。彼らは目に鮮やかな色を纏っており、リーと出会うまでは彼ら事務所のパーソナルカラーなのかと思っていたほどだ。その服から目を離すことができず、少し考えてから、思い切って購入ボタンをタップする。最速であれば明日にも届くという表記に追加料金を投じ、完了画面にまで辿りついてようやく安堵のため息をつく。
     そのままベッドに寝そべり、購入した服の写真をもう一度眺める。自分に彼の子どもたちのようなふわふわの耳や尻尾は無いが、果たして似合うだろうか。カップいっぱいの期待と、スプーンひとさじの不安を胸に、ドクターは天井を見上げたまま何度目かのため息をついた。

     当日、いよいよドクターは届いてから一度生地を柔らかくするために洗濯した新品の服を着て鏡の前に立ってみた。シルエットとしては、大きく普段と変わっているわけでもない。受け入れられる。慣れない色が目にまぶしく映る。アウターのフードを被ってみれば、まぁ悪くはないだろう。別人のように見える鏡の中の自分を興味深く眺めながら、時計を気にする。時間が許す限りおかしな箇所はないかと鏡の前で慌ただしく確認を繰り返した後に、ショルダーバッグをかけて自室を早足に飛び出していった。
     見慣れない人の姿に振り返ったり、それがドクターだと気づいて二度見する人までいる廊下を通り抜けていくと、指定されていた集合場所に既にリーの姿はあった。ドクターが腕時計を確認してみても、まだ予定の時間まで三十分はある。随分早くから待っていてくれたらしい姿はいつもと変わらない黒色の胡散臭い探偵そのものの姿で、今更ながら自分は浮かれているのでは?とドクターは少々不安に駆られた。しかし顔の見えない「ドクター」の姿で彼の隣を歩く方が不審者を見る視線を集めてしまっただろうと頭を振って不安を追い出す。唯一身につけている中で履き慣れたスニーカーを鳴らしてリーに歩み寄る。
    「ごめんね、待たせたみたいで」
     努めて普段通りの声で挨拶を交わす。声に振り返った彼の目蓋が僅かに持ち上がり、いつもより大きなきんいろの瞳が、ドクターをじっと観察していた。そうなって当然だろうとリーの行動に心の中で深くうなずく。
     白と、橙。普段のドクターからしたら想像できないような、正反対の色彩だ。シルエットとしては普段のドクターとしての恰好と、彼の子どものひとりであるアのものに近いだろう。フードを被った頭を下げ、やや視線が彼の足元を見るように起きていく。ショルダーストラップを両手で握りしめながら、どうだろうか?と彼に問う。
    「おかしくはない?」
     足の指先まできゅっと丸まって、彼の反応を待つ。たった数秒だろうが、今のドクターには何分にも感じられるほどの時間が経った。
     視界が少し暗くなる。すぐに頭に大きな彼の手が触れ、白いフードを背中へと退けた。ちらりと上目遣いで彼の表情を伺ってみると、柔らかな瞳が見えた。ドクターはリーのこういう、目尻を緩ませたしあわせそうな目が一等お気に入りだ。
    「誰かと思いましたよ。色が変わるだけでこうも雰囲気が変わるんですねぇ。ガキどもみたいだ」
     その言葉を待っていたと言わんばかりにドクターの頭が上がり、嬉しそうな顔でリーを見上げた。
    「わかった?君の子どもたちみたいだと私も思ったよ。思い切って買ってみたんだ。白なんて普段着ないから不安だったけど、可愛いよね」
     ふふ、と露わになった顔を綻ばせ、両手を広げて服を自慢する姿はまるで子どもだ。ドクターの言葉は、彼の子ども達を可愛がっているという意味だろうが、リーはそれとは異なる意味で感想を述べた。
    「ええ、かわいらしいですよ」
     当然真意が伝わることはなく、そうだろうそうだろうとドクターは服を自慢し続けた。何とも言えない、しかし己の子ども達に抱く愛情にも似たたまらない感情を、リーはドクターの頭を撫でるという形に変換して出力することにした。何故撫でられているのかはわからないが、悪い気分はしないのでドクターもその手を振り払うことはしない。褒められ上機嫌なドクターはそのまま笑顔で冗談を口にする。
    「リー先生」
     頭の上を行き来していた手が強張り、ドクターは更に気を良くしたらしく悪戯が成功した子どものようにくふくふと笑みを深くする。
    「どう?私も探偵事務所の一員みたいでしょ」
     冴えわたる冬のように、静まり返った夜のように。磨き抜かれたナイフのように。冷静沈着で絶対的な勝利の神のように崇められるドクター。その厚いベールの内側に、春を真っ先に謳歌しようとする花の蕾みたいな人が存在することを、どれだけの人が知っているだろうかとリーは物思いに耽る。ドクターの可愛いアーミヤは?ドクターの保護者的立ち位置のケルシ―は?彼女たちの理想と期待を体現するドクターのやわらかであたたかなこの姿を知っているのだろうか。もし、もしも自分だけがこのかわいらしい人の姿を知っているただ一人だとしたら。ドクターの秘密を知るたった一人の自分だけだとしたら。それはとても、とても甘美で、優越感に浸ってしまうような。リーの口角が上がっていることに気づいているのかいないのか、ドクターはゆっくりと瞬きをした。先ほどの返事を期待している瞳の色に、常ならば頭の中で考えてから最良だと思う言葉を口にするリーが、脊髄反射的に声を溢した。
    「なっちまいますか?事務所の一員に」
     はて、自分はこんなにも考えなしに言葉を口にする奴だっただろうか。リーが自身の言葉に戸惑っているうちに、キョトリと斜め上の返事をもらったドクターは少しだけ呆けた後、何故か更に興奮気味にリーへと一歩近づいた。はきはきと良く通る声が熱を帯びる。
    「じゃあ、夜の路地裏とかで『ヤクザが抗争でどんぱちしてる』ところを横で見られる!?」
     いつかの君が言っていたように。そう言われて、今度はリーがキョトリと呆ける番だった。生まれかわって間もないドクター、優秀な頭脳とは裏腹に、好奇心は赤子と同等で、頭がいいばかりに赤子より手に負えない。あれはなに、これはなにと見るもの聞くもの初めてであれば貪欲に吸収し、試しに病棟の子ども達のままごとに付き合わせてみれば最近の子どもたちの妙に達者な部分にすっかり影響され、おかしな方向へとアクセル全開で走りぬく車の如く突っ走り、純粋な子どもたちによくある勘違いをそのまま覚えて口にすることもある。そういった妙に無垢な部分をどうにかしようと奮闘するオペレーターも少なくはなく、おそらくドクター自身はなんとも思っていないが先日の喫煙ブースにいたオペレーター達もそういった人達だろう。おかしな興味で話を飛躍させたドクターの額を小突いて、リーはいくらか冷静になった思考にほっとした。全く今までにない形で自分を振り回してくれる人だと、ドクターに笑いかける。
    「あなたはここ使う仕事担当でしょう。そういうのは元気が有り余ってるガキどもの仕事です」
    「ケチだな。少しくらいいいじゃないか」
    「怪我したくないでしょう?我慢してください、我慢」
     本気だったのだろう、少ししょんもりと落ち込んでいるらしい人の方を抱き寄せて、ほら行きますよと歩き始める。相変わらず歩幅の違うはずの二人が離れることはなく、ゆったりとしたペースで龍門への道を進んでいく。
    「まぁ、とりあえず最初は靴でも見に行きましょうか」
    「え、なんで?」
     履き慣れたス二ーカーがそんなにも似合わなかっただろうかと、ドクターが足元を見ながらやや高く足を上げて歩く。転ばないように、ぶつからないように、慎重に歩くリーがいいえ、と口にした。
    「せっかくうちのガキどもに合わせてくれたんでしょう?せっかくならそれに合う靴を買いに行きましょう」
     靴まで考えが行き届いていなかったでしょうと聞いてみれば、仰る通りですと亀のようにドクターの首が少し引っ込んだように見えた。リーのこころには形容しがたい愛情のようなそれが尽きることなく溢れてきて、こうしている間も頭を撫でてやりたい衝動を抑えるのに苦労するほどだった。
    「それじゃあ、欲しい靴があるんだけど」
    「ん、どんなのですか?」
    「君のみたいな、ごつごつして黒い、かっこいいのがいいな。きっと身長も高く見えるし、私もいつもと違う世界が見えそう」
     羨ましそうにリーの足を目で追いかけているドクターのつむじを見下ろすリーは、まだ周りに人も少ないしいいかと周囲の目を気にすることをやめた。さっき以上に抱き寄せて、空いているもう片方の手でドクターの髪の毛をかき混ぜるように頭を撫でまわした。
    「うわぁなに?なに?なに!」
    「はぁ、あなたはかわいいですねぇ」
     もうめちゃくちゃに甘やかしてやりたい熱を発散するようにまぜまぜとしていたが、さらさらと指通りの良いドクターの髪はリーのものと異なる髪質で、いくら撫でても絡みそうにない。全く髪まで自分に都合が良いのかこの人は!とリーは我慢せず歯が見えるほど笑ってしまう顔を隠しきれないまま、うわうわうわとされるがままのドクターを満足するまで撫でまわした。体感一分ほどの時間を経て、解放されたドクターはもう!と手櫛で髪を整えながらリーを叱った。
    「急に何するの、私は子どもじゃないんだよ」
    「すみませんねぇ、撫でやすい頭をされていたので」
    「もしかして馬鹿にしてる?」
    「とんでもない!でも不快にさせたんなら、お詫びとしておれに靴を贈らせてください」
     ごく自然な流れに聞こえるように、スマートに提案するリーにドクターは感嘆のため息をついた。
    「…リー。君って奴は、どこまでかっこいいんだ」
    「ありがとうございます」

     真新しい編み上げのブーツは、ドクターの望んだ通りにごつごつとしていて、黒く光り、新しい靴特有の硬さと歩きづらさがあった。慣れないドクターの姿を温い眼差しで見守るリーの「またその服着て、こうして遊びに来る時に履けば慣れますよ」という言葉で、龍門再訪の約束が交わされた。
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    DONE記憶を失って転生したリー先生と、連続する魂を持つドクターの鯉博。一部過去作から抜粋。
    オーニソガラムの亡骸 星の予言、星の花。星の光を探して、星屑と閃きを眺めて。



    「いらっしゃい、リー家の子」
     他人のテリトリーに足を踏み入れるのはいつだって、適度な緊張感と警戒心を必要とする。リーは詰めていた息を白色にしてそっと吐き、吐いた分の吸い込んだ空気が纏う花の香りにまたため息をついた。両親と比べ未発達な細く頼りない尾が揺れ、薄く柔らかな鰭が風にあそばれる。
     かつては龍しかいなかったという閉鎖的な集落はすっかり姿を変容させ、龍の数こそ多いものの昔に比べれば様々な種族が住み着くようになった。それにより貿易は一層栄え、利便性は改善し、知見や見解が広がったことで価値観も開放的な方向へと進んでいった。少年が足を踏み入れた家は、しかしそうなる以前――もう百年以上も前だ――に建てられた、異種族にまだ偏見や差別の考えがあった頃にその嫌う異種族に説き伏せられて建てられた家らしい。家屋自体は然程大きくはないが手入れが行き届いた庭は非常に美しく、季節の花や草木が目に鮮やかで、門扉を潜った直後だというのに足を止めて眺めてしまうほどだ。そのせいだろう。前を歩く冬空のようなその人が振り返り首を傾げた。
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