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    sbjk_d1sk

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    sbjk_d1sk

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    自分にとってはグロまではいかないのですが、人によっては軽度~中等度のグロになるかもしれません。常に捏造です。

    亡失のオネイロス 夜より生まれ、同胞は眠りと死。



     ドクターを含めたロドス上層部の人間に有事が起こった場合、その状況説明はロドス本艦にその瞬間に駐在しているオペレーターのみに伝えられ、ロドス本艦外にて活動中のオペレーターや企業には、契約にて特別措置がとられていない限り伝えられることはない。ロドスにとって弱みとなってしまう材料をむやみにまき散らさないためにも。つまるところ、箝口令を敷くのだ。

     複雑な地形と安定しない気候のなかで、少数精鋭を全員前線に押し出した作戦を決行中の事だった。当時のドクターの護衛まで指揮官権限で投入した、その瞬間の持てる総力だ。当初は荒野を渡る護送任務の道中を襲った敵勢力の鎮圧で終わるはずだったそれが、気が付けば混戦状態になっていた。原因は野生のバクダンムシだ。本来はそこに生息が確認されていなかったバクダンムシは数か月前に起こった天災によって住処を追われ、慣れない新たな巣でストレスが溜まり、文字通り一触即発の爆弾そのものになっている。護送任務についていたドクターを含めた誰もが想定外の第三勢力に混乱している。そしてそれは敵も同じだった。
     ドクターの指揮は完璧だった。前線に投入されたオペレーター達は精々かすり傷程度の怪我で済み、早々に医療室から追い出された。非戦闘員や治療専門のアーツ使い達にも、盛大に転んで顔を擦りむいた者以外に負傷者は出ていない。
     ドクターただ一人だけが医療室から戻ることが叶わず、ケルシーを執刀医とした外科医師と共にオペ室の扉を潜ったきりだ。



     快晴の空の下、握っていたはずの手がするりと抜け出していった。リーはその手を追いかけようと振り返り、ドクターの後ろ姿が自身のハットを掴んだままたった数段の階段の向こう側に消えていくのを見た。いつかの日のように慌てて階段を降りようと駆ける。同じように倒れ伏すドクターの姿に、リーはたった数段の階段を飛び越えた。いつかのように。
     あの日と違うことは?
     びちゃりとブーツの底が水しぶきを上げた。足元には水溜りが広がっていた。滑る足元に慌てて体勢を立て直し、倒れているはずのドクターに視線を戻す。
     快晴だったはずの空は、いつの間にか曇天に変わっていた。
     薄暗い世界の中で、横倒れになっているドクターの体の下からじわりと水溜りが広がっていく。異様なまでに鼻をつく鉄の匂いに噎せ返りそうになる。それでも、異臭の元に倒れる人のもとに駆けよらずにはいられなかった。
    「ドクター」
     傍らに膝をつく。とっくに階段の下にまで広がっていた血溜まりの中に膝をついたことで、まだ温かな血液が染み込んでくる。ドクターの命がみるみるその肉体から零れていく。
    「ドクター!」
     体を仰向けにして、リーはドクターの傷を診た。転落してできた傷などではない。肩を中心にして、炸裂タイプのアーツか榴弾が体の内側で起爆したかのような、人を花に見立て体を内側から開いたかのような、形容しがたい傷が空いていた。骨の一部は砕け、内臓を保護し支える役目を放棄したように開き、ピンクと赤と黄が混ざり合う酷い傷にえずきそうになる。唾を飲み込んでなんとか押さえこんだ。
    「リー」
     不気味なまでに普段通りのドクターの声が鼓膜を震わせる。恐る恐るリーはドクターの顔へと視線をあげていく。血の気をすっかり失い、死人と見紛うまで色の変えた顔で、徹夜がバレてしまい怒られている時と同じように笑った。ごめんね、次は気を付けるから。だから怒らないで。そう言う時の顔をしていた。
     そこでようやくリーは、まるでお告げでも受けたかのようにこれが夢だと気づいた。明晰夢を見ている。記憶の整理を始めた脳が、現実で自らまたは人伝いに見聞きした情報を、なにもかも一緒くたにしてしまっている。ならば、ここからこの夢はゆっくりと解けていくだろう。記憶や思い出を順序立てて記録の引き出しにしまっていけば、きっと夢の部屋は片付いてくれるはず。
    「どうしたの、リー」
     愛しい人の声が、情報を錯綜させる。夢に嫌な現実味を与えようとする。リーは両手で耳を塞いで、強く目蓋を閉じて、顔を伏せた。それなのに愛しい人の声と姿は変わらず目の前にある。むせかえる鉄の匂いがきつく漂う。逃れられない。いくら受容器を塞ごうとも、これはリーの頭の内で完結している幻覚だ。
    「リー、苦しいの?」
     冷たい手がリーの頭に触れた。大のおとな、中年の男の癖の強い髪を撫でて、ころころと可愛らしく笑うあの人と同じ触れ方をした。当然だ、リーがその手を忘れたことなど一度もないのだから。
     これは夢だ。
     これはただの夢だ。じきに覚めるはずだ。
     明晰夢の多くはコントロールできるはずなのだ。
    「リー、悲しいの?」
     冷たい手が、リーがドクターの涙を拭う時と同じように、リーの頬を伝う涙を拭っている。青白い肌を濡らす涙が、指から手に伝い、腕を濡らしていく。
    「大丈夫だよ。大丈夫だからね」
     血溜まりの中に落としていたハットを、ドクターが手探りで探し当てたらしい。あの日と同じように、リーの頭の上にそれを被せた。血溜まりに落ちていたはずなのに、ハットには一滴の血液もついていなかった。乾いた感触が肌に擦れる。
     当たり前だろう。
     だってこれは、
    「ただの悪い夢だよ」



     目覚ましは、髪に何かが触れる感触。
     頭が重たい気がするのは気のせいではないだろう。リーはぼぅっとしながら目蓋を持ち上げる。照度を落とした病室から、今が夜間であることを察した。一般的な病院の集中治療室に相当する設備を備えており、あらゆるバイタルを二十四時間モニタリングしている病室。……寝起きの頭でそこまで思い出し、心臓がうるさくなる。背筋がぞっとする。いつの間に眠ってしまったのか、上体を伏せていたシーツからも漂う消毒の匂いに、意識が覚醒した。
     ――ドクターがアーツによる攻撃で負傷した。
     リーがその情報を手にしたのは彼自身が龍門からロドス本艦に搭乗した後であり、ドクターが負傷した作戦から既に五日が経過していた。箝口令が敷かれた以上、その情報は流石のリーでも尻尾すら掴めなかった。動揺と疾走から嫌なほど早まる鼓動のまま医療室の扉を潜り、執刀を担当したというケルシーのもとに駆け込んだ。
     バクダンムシの存在が現場を酷く混乱させた戦場だったという。敵も味方も混乱したが、味方の混乱はあっという間におさまったらしい。当然といえば当然だろう、ロドスにはドクターという指揮官がいるのだから。その場の全戦力を投入した作戦はアドリブにも関わらず完璧なもので、重傷者が出ることなく戦闘は終了するはずだった。
     敵の術師がバクダンムシの爆発に巻き込まれ、アーツの照準が逸れたことが原因だった。リーはそう聞かされた。医療オペレーターを狙っていたアーツは大きく狙いが逸れ、ドクターを含めた非戦闘員が集結していた箇所へと着弾した。いち早くおかしな放物線を描くアーツの軌道に気づいたドクターが全ての非戦闘員に声を張り上げて岩陰に隠れるよう指示した。その中でひとり、かわいそうなことに腰を抜かした若い治療専門のアーツ使いの少女がいたらしい。生粋の医療部のひとりで、戦場に出た経験は一度もなかった、と。
     着弾寸前に、ドクターが少女を思い切り突き飛ばして庇った。炸裂音が響き、閃光が収まった痕には、右の肩を中心に体を内側から破裂させたような重傷を負い虫の息となったドクターが倒れ伏していた、と。顔を思い切り擦り剥いた治療アーツの使い手である少女が悲鳴をあげてドクターの治療に駆け出すまで、現場は凍り付いたかのように静寂に満ちていた、と。
    「防護服がなければ、上半身がまとめて吹き飛んで即死していただろう」
     ドクターの身をテラのあらゆる脅威から守る特注の防護服、庇われた少女の優秀な治療アーツと応急処置、ケルシーを始めとした外科医によってドクターの命は鉱石病への感染の心配もなく繋ぎ止められた。ドクターがロドスのドクターである限り、どれほど大規模な手術や治療が必要となろうとケルシー達は必ずドクターを死なせることはないのだ。
     一通りの説明を受け、リーは怒鳴りたい気持ちを押さえるのに必死だった。自身の目がぐわりと質量を増した気さえした。一般的に見える虹彩の範囲が増えればその人の愛嬌は増すはずなのに、リーの瞳に関しては虹彩がよく見えるに比例して畏怖や恐ろしさを煽り、とどめに瞳孔まで細くなる。別人のようだと形容されることがあるほど、怒りに呑まれた眼だった。その眼差しでケルシーを睨み付けた。ドクターの恋人である自分にくらいは、知らせてくれても。箝口令が敷かれていることは承知している。ロドスの規定に則っていることも。そんなことはわかっている、だとしても!そう喚き散らかしてやりたかった。しかしドクターがそれを望まないだろうとわかっていたから。自分がそばにいたところで治療の助けにならないと知っているから。ケルシーのもとに走る途中、憔悴しきってなお涙と後悔を溢していた絆創膏だらけの少女と、彼女に寄り添うオペレーター達を見てしまったから。
     ドクターがそうなる可能性も踏まえて、なにもかもを飲み込んで、ロドスのドクターであることを選択したから。
     奥歯が嫌な音を立てるほど食いしばった後、深く深く息を吐いていく。
    「冷静になりたい時は、深く息を吐くんだよ。動揺も緊張も不安も焦燥も、時には怒りや悲しみも。その時は忘れたいことを、呼気と一緒に吐き出してしまうんだ。自己暗示だけどね。馬鹿にはできないものだよ」
     まだ手を繋ぐなど考えもしていなかった頃。穏やかな日常と、そうでない時。憩いの日々と戦場での心をどうやって切り替えているのか興味本位で聞いた時、ドクターはそう答えた。とっておきだと言ったドクターのまじないを真似る。
     吐き出していくうちに、瞳孔もゆっくりと普段と変わらない大きさに戻っていく。
    「わかりました」
     自我を暴走させる感情全てを吐ききった後に口からで出た声音は、客観的に聞いても普段と遜色ないほど凪いでいた。
    「あとはドクターの意識が戻るのを待つだけなんですね?」
    「骨はいくつか損傷があるが、幸いにも内臓には到達していない。血管吻合により出血性ショックからも徐々に回復し、感染症検査は陰性。バイタルも安定している」
     その通りだと言っているのだろう。まだカルテの開示請求に至るまでの関係ではないが、ケルシーは手術記録から検査記録までおおよその内容をリーに聞かせた。
    「ドクターのそばにいても?」
     集中治療室にあたる病室には、基本的にケルシーをはじめとした医療関係者、CEOであるアーミヤ、患者の親族や彼らが許可した者、そしてその怪我や病の経緯によってはドクター、以上のみが入室を許可される。駄目元でリーはケルシーに尋ねた。
    「許可しよう」
     だからケルシーがその駄目元に頷いても、咄嗟に反応ができなかった。
    「以前ドクターが決めたことだ。君が望む場合に限り、君にドクターの親族と同等の権限を与えてほしいと」
     どうしてそんなことを、とリーは思った。そのような間柄にまで認めてもらえたことを喜ぶ気持ちなんてなかった。それならいっそ断られた方がマシだとさえ思った。
     戦場に立つ人のそれだ。まるでいつ何が起こってもいいように、準備しているようだったから。
     そうしてケルシーの許可を得て病室を訪れることが叶ったリーは、窮屈そうなパイプ椅子に座りドクターの目が覚めるのを待ってやろうとした。一番最初にその目に映るのがドクターのかわいいアーミヤでも、執刀医のケルシーでもなく、自分であればいい。半ば意地を張っているようなものだ。ドクターの不健康な肌にかかる髪を梳いてやりながら、リーは待った。想いを抱えて待つことは得意だ。ドクターに出会うまでもずっとそうしてきたのだから。
    「あ、起きちゃった。おはよう。いや、今はこんばんは?」
     心電図モニターの規則正しい音と徹夜のタッグは想像以上に硬く手を結んでいたらしく、その間にリーの髪を梳くように撫でる人は目を覚ましてしまったらしい。少し掠れた声がリーの耳をくすぐった。リーが飛び起きようとして、しかしドクターの傷にさわったらどうすると理性が体を硬直させた後、そっと伏せていた状態を起こした。
     目の前には愛しい人が微笑んでいる。右上半身はがっちりと固定されていて、慣れない左手でリーの髪を遊んでいたらしい。
    「……時間帯はこんばんは、ですね。でも、おはようございます」
    「はい、おはよう」
     律義に挨拶を交わし、リーがナースコールに手を伸ばした。
    「あ、ちょっと待って」
     ドクターが仰向けのままリーの袖を引いた。
    「もう少し君と話してから」
    「バレたらケルシー先生に怒られますよ?」
    「どうやってもケルシーには怒られるし、だからこそまだ呼ばないで。ケルシーが全部怒ったら、君が怒ることがなくなっちゃうでしょ?」
     薄暗い病室の中、ドクターの瞳が僅かな光さえ吸収したかのようにはっきりと見えた。きんいろの瞳を覗きこんで、リーの言い分を催促してくる。
     動揺、緊張、不安に焦燥、怒りや悲しみ。ケルシーの前で一度捨てた感情に口が戦慄くまま、リーは目の前の人を睨んだ。
    「あなたは、」
    「うん」
     どこまでも穏やかな声に苛立ちを覚えながら、ふつふつと煮えたぎっていく憎しみにも似た怒りにまだだと蓋をする。
    「ドクターがオペレーターを庇うな、なんて言っても聞かないんでしょう」
    「私はいつだって、私の手が届く全てを守るつもりでいるよ」
    「神様にでもなるつもりですか?そんなの無理なんですよ。さっさと諦めてください」
    「それはできない。ごめんね」
     睨まれたまま、ドクターは美しく微笑んでいた。口先だけの謝罪には、二度とこんなことしないなどという約束はさせないぞという確固たる信念が宿っている。蓋をしていたリーの憎悪のような怒りの炎がいよいよ燃え上がり、パイプ椅子を後ろに蹴っ飛ばして立ち上がる。
    「勝手なことを」
    「ごめん」
    「身を呈して守ったり救ったりして、訳無いなんて言って。こっちの身にもなってくださいよ」
    「ごめんってば」
    「おれのために生きてほしい、なんて言っても。あなたは聞いてくれやしないんでしょう」
    「……ごめんね」
     俯いたリーのハットと前髪と、セピア色のサングラスに隠れてしまったきんいろの瞳を探すように、ドクターが手招きした。意地悪をしてやりたくて、リーは愛しいその人と歩く時よりもずっと小さな一歩だけを歩み寄る。いじわるだなぁ、と笑いながらドクターの左手はリーが強く握り込む拳をかろうじて届いた指先で撫でた。
    「リー」
     こっちを見て、と甘える声がリーを呼ぶ。自分に都合が悪くなると、この人はいつだってこうして、怒らないでと言いたげに鳴く。眉間に寄ったシワを隠さないまま、じっとりとした怒りと悲しみを乗せてドクターを睨んでやる。
    「……そこは嘘でもいいから、頷くところでしょう」
    「泣かないでよ、リー」
    「あなたが泣かないのに、おれが泣くわけ」
    「じゃあ前言撤回。私の分まで、君が泣いてくれる?」
     ――まだ泣けない。立ち止まれない。振り向けない。だから代わりに、今ここにいる私の代わりに、私を想って泣いてくれないか。
     ポチポチとリモコンを操作して、ドクターが横になるベッドの背もたれが動く。角度を微調整し満足する傾きに一度深呼吸をする。そしてあたたかな瞳が、穏やかな微笑みが、片腕だけを広げて懐へと招く。リーが蹴飛ばしたパイプ椅子を拾おうとすれば「ちょっと」と不機嫌な声がする。ベッドの空いているところをぽんぽんを叩かれた。患者のいるベッドに座るなんてと首を横に振ったが、しびれを切らしてベッドから降りようと身じろがれてしまい、やむを得ずベッドに腰かけた。傷に触れないように、体を精一杯折り曲げて鼓動を一等感じられる左肩へと俯き気味に額をうずめる。小鳥のように可愛らしい鼓動が鳴る。生きている。この人は自分の目の前で、生きている。リーの喉が苦しみと喜びのあわいに低く鳴った。
    「こうしていると、いつもと反対だね」
     リーの頭に頬擦りするように顔を寄せ、自由の効く左手で癖の強い髪をドクターは梳いた。ドクターを覆い隠してしまうほどの体躯に恵まれた彼が、今はその身を小さく低くしてドクターの腕に収まっている。優美な鰭を備えた尾なんて、かわいそうなくらい下がってしまい鰭が床を這ってしまっている。可愛い、愛しい、優しすぎる人。そんな人のそんな姿を見てしまい、ドクターは笑い声をあげたくなるのをかなり我慢した。
     軽く咳ばらいをして、二度ほどリーの頭を優しくたたく。
    「よし、よし。あんしんして」
     あれほど眠っていたのにまだ眠いのか、ドクターの声はふわふわと舌足らずだった。それでもリーが作戦中にドクターによくしているまじないを真似る。

    「私はここにいるよ」
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    sbjk_d1sk

    DOODLEAisおめでとうございます圧倒的敗者俺!!!!!!!!!どうなってンだよ勤務スケジュール!!!!!!!!


    と言う思いを込めて書いていたかつての駄文。こっちにも載せておきたい勿体無い精神。
    無題 空腹を訴える腹を無視して、胃薬と共に鎮痛剤を流し込んだ。少しすれば薬という神が頭から悪魔を追い払うだろう。神を遣わした偉大なる医療部に感謝を捧げるべく、ドクターはデスクに向き直った。詰み上がったファイルと、散らばった作戦記録と、思いついたことを片っ端から書き殴ったノートが広がっている基礎むき出しな無秩序の箱庭だった。デスクの引き出しから手探りでビスケットタイプの完全栄養食を取り出し、バリッと両手で封を開ける。流し込むように袋から直接口に入れ、噛むのもそこそこに常温に戻ったペットボトルの水で腹に流し込んだ。一息ついてパッケージを見てみれば、ココア味と書かれていた。味も確認せず、味わうこともせず噛み砕いて流し込んだクッキーを、今度は一枚一枚摘んで食べてみる。唾液を吸いみるみる膨らむクッキーは、味はたいしてココアといった感じはしない。カカオの強いビターチョコレートのように少しの苦みと酸味がする。これは若者の口には合わないかもしれないなと一息に水を呷り無理矢理クッキーを胃へと押し流した。
    1979